第6話
第6話 激闘!魔法少女隊!
「断然、赤の魔法少女様です。え、だってすごいカッコいいじゃないですか」
「緑の子が好きですね、ちょっとキツそうな感じが」
「ピンクがすき。かわいい」
「私あの黄色の子に会った事あるのよ。いい子よあの子は~」
「アオ、いいよね…」
「いい…」
老若男女、様々な人間が画面に映り、自分の意見を述べていく。右上には「今話題の魔法少女!あなたの推しは?」の文字。
映像がスタジオに切り替わる。
「いやーすごい人気ですねえ、魔法少女」
「最初の頃は賛否両論ありましたが、転機となったのはやはりあの遭難事件でしょうか」
「そうですね、あの事件以降世間の評判は一気に肯定的なものになっていきました。事件以降も地道な活躍を続けていますし、否定的な意見を持っていた人たちも徐々に認めざるを得なくなっていったというところですね」
「ちなみに先ほどのアンケートの結果がこちらです。こうしてみるとそれぞれ人気の高い層が分かれていますね」
「でもなんとなくわかりますよね。青の子が老人世代の人気が高いとか、お孫さんを見る目になっているというか」
「あ、ぼく青推しです」
「あはは、おじいちゃんだー」
警察署。刑事・渡辺倫太郎は、3人の魔法少女たちを前にして、さっき見たワイドショーの事を思い出していた。
「…大人気だよなお前ら。まるでどこぞのアイドルだ」
「違いますよナベさん、アイドルじゃなくて魔・法・少・女!」
「はいはい。大人気は否定しねえんだな」
ゆいの反応に、渡辺は呆れた顔を見せる。魔法少女隊は先ほどひったくり犯を捕まえて、一番近くにあったこの署にデリバリーしてきたところだった。人助けの内容によっては警察の手を借りることもある。そしてそれはそのまま、彼らの手助けという事にもなる。最近は警察の依頼を受けて活動することもあり、両者の関係は良好と言える。
「それにしてもナベさん~。こんなところで立ち話だなんて、お暇なんですか~?」
「あのなぁ、友達感覚で話しかけて来たのはお前らの方だろうが」
この刑事とは何かと一緒になることが多く、顔見知りとなっていた。
「まぁ、今はまだ暇っちゃ暇ではあるんだが」
「ん?どういう事です?」
「ああ、こっちの話だ。お前らには関係ない」
「お手伝いすることってありますか?」
「関係ないっつったろ。用が済んだらさっさと帰れ」
「済んでないんだなぁ、2人を待たないと」
真と孝美は今、事情聴取を受けている。そういう事は専ら、しっかりしているあの二人の役目だった。
「ああそうだったな、じゃこれでも食ってろ。俺はもう行く」
「なんですかこれ?」
「魔法少女まんじゅうだと。いない連中の分も持ってけ」
渡辺はまんじゅうを五個渡すと、すたすたと去って行った。
「まんじゅうって…」
「国民性だねぇ」
3人がちょうどまんじゅうを食べ終わるころ、真と孝美が聴取を終えて戻ってきた。
「はい」
「何よこれ?」
「ナベさんがくれたの」
「魔法少女まんじゅうだそうです~」
「まんじゅうとは…国民性だな」
楽子はデジャヴを感じつつ時計を見る。その針は午後4時を指していた。
「時間も半端だし、今日はもうこれで解散かな?」
「…あ~…」
「沙弥、どうかしたの?」
「もう一仕事、あるかもです~」
同日深夜、郊外の廃工場。普段なら人っ子一人いないはずのここだが、今は多くの人間がいる。いや、潜んでいる。
今夜ここで麻薬取引が行われるとの情報をキャッチした警察は周到に準備を整えていた。選りすぐりの精鋭たちがそこらの物陰に隠れ、時を待っている。
一時、この大捕物に魔法少女の協力を要請してはどうか、という意見も出た。しかし魔法少女はあくまでも部外者の少女である。このような案件に関わらせて怪我でもされては…という事で、提案は早々に、あっさりと却下された。
「…はずだったんだけどな」
ぼやく渡辺。その傍らには、ご存知魔法少女隊。
「お前ら、どうやってここが分かった?」
「すみません~」
沙弥がイヤホンを取り出す。それだけで渡辺は全てを察した。
「…刑事に盗聴仕掛けるとはいい度胸だ。誉めてやるから今すぐ帰れって言いたいとこだが…」
状況から考えて、それは不可能だ。作戦開始時間は間近、つまりもうすぐ売人たちが現れる。そんな時に、こんな奇抜な格好の女の子たちを表に出すなど間抜け以外の何物でもない。
「あたしはやめとけって言ったんですけどね」
『麻薬なんて見過ごせないよ!正義の魔法少女として!』
『義を見てせざるは勇無きなりと言うしな』
『女の子の身体を蝕む薬物、許せないな』
「…って」
「苦労してるな、緑の。苦労ついでにそいつら押さえといてくれ」
ちょうどその時、敷地内に怪しい車が進入してきた。
「こっから先は大人の仕事だ」
入って来たのは黒塗りのバンが3台。渡辺は違和感を覚えた。
(妙だな…多すぎる)
麻薬というものは少量で莫大な金に換わる。それをバンに満載とは、欲張って捕まるリスクを無視してはいないか。人が乗っている?それこそこんな闇取引に雁首揃えてぞろぞろやってくる意図がわからない。誤情報の可能性も疑ったが、いずれにせよわざわざこんな廃工場に車3台でやってくるなど怪しすぎる。作戦は予定通り実行することにした。
車から人が降り、何やら話し始めた。
「よーしそこまで全員動くな。お前たちは完全に包囲…」
隠れていた警官たちと共に渡辺が場に乱入する。お決まりのセリフを言い終わる直前、嫌な予感が全身を走り、咄嗟に近くの物陰に飛び込んだ。
そして、銃声が鳴り響いた。
(銃だと!?)
こういった取引に赴く人間が銃で武装している、それ自体は特別な事ではない。しかし、数が多すぎる。発砲音から察するに、おそらく10人程度が銃を持ち、しかもそこら中に撃っている。銃の数がそれだけあって、弾の数は更に潤沢という事だ。
(麻薬じゃなくて銃の取引だった?にしては無駄弾が多い、商品ならもうちょっと大事に撃つだろ普通)
対するこちらは、人数こそ勝っているものの装備は圧倒的に負けている。銃撃戦にすらなっておらず、一方的に撃たれ、完全に動きを封じられている。
危機的状況、その上敵の目的がよく分からない。どうする?退くか?それ以前に退けるのか?混乱する頭を落ち着かせようと情報を整理する渡辺に、追い打ちがかかる。
「やああああああああっ!」
「はああああああああっ!」
2人の魔法少女、ゆいと真が敵陣に突撃していく。察知した敵の一味は素早く散開、乱戦となる。
「あいつら…!ああ、クソ!援護するぞ!」
これで撤退の目は完全に消えた。だが銃撃が少しの間止み、更に敵がバラバラになったことでこちら側も若干ではあるが動けるようにはなった。渡辺、そして数名の警官が無人になったバンの制圧にかかる。手早く中を確認すると、やはり積み荷は銃と弾薬だったようだ。
「ナベさん!」
警官の一人が渡辺に話しかけてくる。
「穂村か、どうした」
「情報です、敵の数は10人。それと御堂が撃たれました」
「…重傷か?」
「足と肩です。命に別状はありませんが、動ける状態ではありません」
「そうか…よし、とにかくこの場を切り抜けるぞ。情けない話だが魔法少女たちを援護して敵を制圧する」
そこでまた、状況が変化した。
(この人たち、手ごわい!)
ゆいはやっとの事で敵の一人の銃を破壊し、そいつの身体に鉄パイプを押し当てる。
「うがっ!?」
この鉄パイプは、沙弥の魔法により相手を昏倒させる性質を付与されている。撃たれた警官を見て参戦を決めた魔法少女たち、彼女らの作戦は基本的には銀行の時と同じだった。ゆいと真が接近して攪乱、他の3人が援護。しかし今回はあの時ほど上手くいかない。当然だ、昼間の銀行内という整然とした環境ではなく、夜の廃工場という雑然とした環境。敵は全員銃で武装している上に、動きが明らかに素人ではない。戦闘技術に詳しくないゆいでも分かるほどに、個としても集団としても洗練されている。
「ぐおっ!」
だがそれでも、戦力としては魔法少女たちの方が上回っているようだ。真の刀が敵の一人を昏倒させる。真は既にもう一人討ち取っており、更に孝美と楽子の連携でもう一人無力化している。これで敵の数は残り6人。このまま順調に行けば勝てる。
はずだった。
「逃げろおおおおおおおおおっ!!!」
渡辺の絶叫、続けて、銃声。今までのそれとは明らかに違う、連続した発砲音。そして飛来する無数の弾丸。
(これ、マシンガンっていうやつ!?)
正確にはサブマシンガンと呼ばれる類のものだが、どっちにしろ脅威には変わりない。運悪く、ゆいの近くに隠れられそうな場所はない。咄嗟に腕でガードする。
「いっっっっったぁ~~~~!!!!」
種子によって強化されたゆいの肉体は、サブマシンガンの銃撃に耐えることが出来た。とはいえ痛みは当然ある。
「ちょっとびっくりしたけど、でもこれなら…」
「沙弥ちゃん!」
「!?」
沙弥の名を呼ぶ楽子の叫び。声のした方を見ると、物陰で沙弥が血を流して倒れていた。逃げる途中で被弾したのだ。ゆいは脇目もふらず彼女たちの所へ行く。真と孝美の2人も。
「う……うぅっ……」
被弾箇所は脇腹と足。だらだらと血が流れ、穏やかだった顔は苦痛に歪み声も出せない。
「みんな、沙弥ちゃんが、沙弥ちゃんがぁ…あぁっぁあぁ…どうしよう、どうしよう…」
いつも飄々としていたはずの楽子は、今や半べそをかいておろおろするばかりだ。
「…落ち着きなさい、慌てたところで事態は良くなんてなんないわ」
「孝美ちゃん、でも、こんなに血が、どうしたら、うああぁ…沙弥ちゃん…」
「どうしたら、か。そんなのは決まっている」
真は再び刀を構える。その相貌は、怒りに燃えていた。
「敵を片付けて、一刻も早く沙弥を病院に運ぶ、それ以外にない!」
「真、あんた…」
怖くないの?という言葉を、孝美は飲み込んだ。怖くないわけがない、真はその恐怖を、敵に対する怒りと仲間に対する思いとで制しているのだ。
「…わかった、あたしも手伝う」
「私も行くよ、真ちゃん。それと、少しだけ本気出すね」
「ゆい…だが」
「わかってる、少しだけだよ」
ゆいの強化された身体能力で本気で戦うと、相手を殺してしまいかねない。ゆえに彼女はこれまで、人と相対した時はなるべく手加減して、かつ直接相手の身体を攻撃するような真似は避けてきた。だが一刻を争う今となってはそんな悠長なことは言ってられない。
「ぼ、ぼくは…」
「楽子ちゃんは、沙弥ちゃんについててあげて」
楽子の魔法はもともと戦いに向いていない。その上この精神状態では、酷ではあるがついてこられたところで足手まといと言わざるを得ない。
「行くよ!」
まずゆいが物陰から飛び出す。サブマシンガンの銃口は彼女を追い、そしてその隙に孝美が相手の位置を確認する。
「はあっ!」
「むっ!?」
孝美は魔法を使い、サブマシンガンを敵の手から取り上げる。武器を失った敵はすかさず別の銃を取り出そうとする。しかし。
「させるかっ!」
今度は魔法を敵の腕に使用し、動きを抑え込む。
「うおおおおおおっ!」
そこへ真の太刀一閃。敵は、残り5人。
ゆいが走っていった先には、2人の敵がいた。一人はサブマシンガン、もう一人は拳銃で武装している。凄まじいスピードで、銃弾を意に介さず距離を詰めてくるゆいに対し、2人は一度距離を取ろうとした。
「逃がさない!」
ゆいは切断の魔法を発動し、敵周囲の壁、天井、積まれた資材などを切り刻む。崩れ落ちたそれらは敵の行く手を阻み、動きを一瞬止める。その一瞬でゆいは2人の武器を視認、すかさず切断する。
「たあああっ!」
そして鉄パイプを当てる、ではなく殴りつける。頭は避けて、腕と腹を。もしかしたら骨折くらいはしているかもしれないが、今は気にかけている余裕がない。すかさず次の標的を探す。
(あっちの一人は真ちゃんたちが倒してるはずだから、残りは3人…)
ちょうどその時、真が次の敵を倒すのが見えた。これで残り2人のはず…と視線を泳がせたゆいは、とんでもない光景を見た。
敵が2人、別方向からサブマシンガンを構え、真を狙っている。
「真ちゃん!」
咄嗟に能力でサブマシンガンを切断するゆいだったが、何発かは既に放たれた後だった。
銃弾が無情にも、真に向かって飛来する。回避は困難。着弾までの刹那でそう判断した真は刀を構え、
「はっ!」
と短く叫ぶ。そして振られた剣先は、銃弾の悉くを叩き落とし、彼女の身を守った。そのまま間髪入れず敵の喉元まで跳躍、残りの敵をゆいと同時に切り伏せる。
敵が倒れる音。それが止むと同時に、廃工場内は不気味なまでの静けさに包まれる。
もう銃声はしない。戦いは、終わった。
「沙弥ちゃん!」
魔法少女たちは再び、沙弥の下に集結する。
「おい!撃たれたのか!」
そこへ渡辺も走り寄ってきた。
「ナベさん、救急車を!」
「とっくに呼んだよ、こっちも何人か撃たれてんだ。到着にはもう少しかかる」
「…はぁっ…!…はぁっ…!」
沙弥が震える手で、渡辺の足を掴んだ。
「おい、なんだ、どうした」
「はぁっ…!ナベ、さん……手帳、持ってます…よね……?何枚か、はぁっ…!いただけ、ますか…?」
「こんな時に何を…」
「いえ、ナベさん。渡してあげて」
魔法で、紙を何かに作り変えるつもりだ。沙弥の意図を察した孝美が、渡辺に促す。
「わかった、これでいいか」
渡辺は手帳を取り出し、その数枚を破いて沙弥に渡す。
「ありがとう…ございます…」
沙弥はそのうちの2枚を、それぞれ脇腹と足の傷跡近くに貼り付けた。
「はぁっ…!はぁっ………!はぁっ…………!……………ふぅ……っ…」
沙弥の呼吸が少しずつ緩やかになっていく。
「孝美さん…ちょっとお願いしてもよろしいですか…?」
「え、あたし?いいけど…それより沙弥、あんた大丈夫なの?」
「はい、随分…楽にはなりました。ナベさんのおかげで」
「俺?何もしてないぞ」
「さっきいただいた手帳の紙に、麻酔の効果を与えました。痛みは…まだ、残ってはいますが…だいぶ軽くなりました」
「…そんなの出来るのか、すげえな魔法少女」
「それで、あたしは何したらいいの?」
「足の傷に銃弾が残ってるみたいなので、取り出して…もらえませんか?」
「わかった、やってみる」
孝美は傷口に手をかざし、探るように動かす。
「…あった、これね」
そして空中をつまみ、ゆっくりと引っ張る。沙弥の足の傷口から、銃弾が摘出された。
「ありがとうございます、あとは…」
再び手帳の紙を、今度は傷口を覆うように貼り付けた。
「しばらく休めば、動けるくらいには回復するはずです~…」
「えーっと…じゃあその紙って、今はすごい絆創膏みたいになってるの?」
「はい~…あ、そうだナベさん、残りはお返ししますので、撃たれた方に使ってあげてください~…」
「お、おう…」
紙を受け取り、渡辺は足早に警官たちのところへと戻っていった。
「…はぁぁ~~~…」
大きくため息をつき、楽子がその場にへたり込む。
「よかった…みんな無事で、沙弥ちゃんも治りそうで、本当に…」
涙を流しながらも、その顔には安心の表情がうかがえる。
「それにしても沙弥ちゃん、すごいね。麻酔とか傷薬とか、そんなのも作れちゃうんだ」
「それは自分でもちょっと驚いてます~…薬なんて複雑なもの、最初の頃はこんな短時間では作れなかったはずなんですが~…」
「成長してるのかしら?あたしたちの魔法って。あたしもあんな大きな銃奪えるなんて思わなかったし、真だって、銃弾斬れるなんて聞いてないわよ」
「ああ、まさかあんな漫画やアニメみたいな事が出来るとは…」
「やっぱり強くなってるのかな、私たち。でも…こういうのは、もうやりたくないね…」
今回は怪我人は出たものの何とか切り抜けられた。だがそれは運が良かっただけで、今後も上手くいくとは限らない。下手をすれば誰かが重傷を負ったり、命を落としてしまうかもしれない。それは言葉に出すまでもなく、この場の全員が身に染みて理解していた。
「調子に乗っていたのかもな、わたしたちは」
「そうね。反省すべきだわ、今日の事は。大人のいう事は聞いとくもんね」
「もしかしてみんな、魔法少女活動…やめたく、なった?」
話の流れに不安を感じたゆいが、おずおずと問いかけた。
「…いやまぁ、そういうわけでもなくって」
「もう少し内容を吟味した方がいい、という話だ」
「よかったぁ…やめるって言われたらどうしようって」
「あたしは最初なし崩し的に始めちゃったけど、今は結構悪くないって思ってるわよ」
「格好も?」
「…それはまだ、ちょっと恥ずかしい」
「そんなぁ~」
遠くから救急車のサイレンが聞こえる。
沙弥が、傷口をさすりながらゆっくりと起き上がった。
「お待たせしました~。とりあえず大丈夫そうです~」
「じゃ、帰ろっか」
「はぁ…ぼく、なんだか今日すっごく疲れたよ…」
「…楽子、あんた一番何もしてなくない?」
事件の収拾を大人たちに任せ、魔法少女隊は帰途に就いた。
つづく
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