第4話

第4話 出動!魔法少女隊!


ある日の昼下がり。テレビでは最近増加している詐欺についての特集を流し終えたところだった。

「さて、次の話題は……え?はい。…速報です。銀行に強盗が押し入り、行員や客を人質にして立てこもる事件が発生しました。現場に繋げます」

「こちら現場です。銀行周辺は警察に囲まれており、状況は完全に膠着しています。今のところ事件発生直後に逃げ出した人たちが転ぶなどして軽い怪我をした他には被害が出ていませんが、中の人質の安否が………?」

事件現場のリポーターは、そこで言葉を失った。この場にあまりにも不釣り合いな連中が現れたからだ。


「まさか、デビュー戦がこんな派手なものになるとはな」

「事件現場が近かったのは、幸運と言っていいんでしょうか~」

「何にせよ、銀行員や人質の女の子たちが心配だ。早く、そして安全確実に解決しないと」

「早く、っていうのには強く同意するわ。珍しくあんたと意見があったわね」

「えーっと、警察の人がいっぱいいるけど、言ったら通してもらえるのかな」


現れたのは、警察の増援でも特殊部隊でも交渉人でも犯人の家族でもなく、それぞれ青、黄、赤、緑、ピンクの、フリフリの衣装をまとった少女たちだった。

「…」

「…」

スタジオのキャスターたちも言葉を失った。軽い放送事故である。


「おい、なんだ君たちは!」

「魔法少女隊です!」

「まほ…?ふざけてないで早く帰りなさい!」

「うん、そうなるよね。どうしようか?」

「通してくれそうにありませんから~、飛び越えちゃいましょう~」

「そうだな、シンプルでいい」

「馬鹿な事を言ってない…で…?」

五人はそれぞれ、ガードレールや郵便ポストを足場にしたり、道路脇の店舗の壁を走ったりと、パルクールのような動きで警官隊の壁を易々と突破していく。ピンクの少女に至っては文字通りひとっとびで銀行の前に着地した。否応なしに、包囲していた警官全てが、のみならず中継に来ていたマスコミやその報道を見ていた視聴者たちもが彼女らの存在を知ることとなった。

「お…おい、君たち!何者か知らないが早く下がりなさい!」

警官の一人が力ずくでも戻らせようと近付いてきた。

「おわっ!?」

だが、数歩歩いたところでこけた。そしてそのまま道路に貼り付いて起き上がれない。

「なんだこれは、動けん…!」

「ごめんなさい~。この周囲の道路に対して、強力な粘着性を持たせました~。イメージは、ゴ」

「あ…待って」

黄色い衣装の少女の口を、赤い衣装の少女が塞いだ。

「それ以上いけない」

「ははひはひは~」

「おまわりさんごめんなさい!事件は私たちが解決しますから!」

ピンクの衣装の少女はそう叫び、他の四人を連れて銀行の中に入っていった。

「いったいどうなってるんだ!?おい、待ちなさい君たち!」


「さて、ここまでは上手くいったな」

五人は入り口から入ってすぐのATMコーナーに潜んでいる。そこから先は、シャッターが下ろされており見ることはできない。

<ただいま>

(お帰りマソミン。どうだった?)

偵察に出ていたマソミンが戻り、ゆい経由で中の様子を伝える。

「よし、あとは事前の打ち合わせ通りに」

「上手く出来るかしら…」

「大丈夫だよ、私たちなら!」

「あんた本当、魔法少女の事になると人格変わるわね…」

「みんな、怪我だけはしないようにね」

「準備はいいか?行くぞ、3…2…1…!」


派手な音を立てて、シャッターが破壊された。

「何だ!?」

犯人グループにとって、シャッターが破壊された事自体も予想外だったが、破壊のされ方に至っては想像の外だった。シャッターがバラバラに切り刻まれたのだ。

その向こうから、青とピンク二つの影が銀行内に飛び込んでくる。

「なんだこいつら…うがっ!」


『作戦を説明するぞ。まずわたしとゆいが室内に突入する。私は部屋の右端から、ゆいは左端から順に犯人たちを無力化する』

『無力化、って真。あんたの刀で…?』

『ああ。刃の切れ味をナマクラにした上で、触れると相手を気絶させるようにする。スタンガンモードとでも言おうか』


青の魔法少女、真の刀が次々と犯人たちを気絶させていく。その一方で。

「なんだこのヒモは!ほどけん…っ!」

ピンクの魔法少女、ゆいがビニール紐を犯人にぶつける。するとその紐はひとりでに動き、犯人を縛り上げていく。ナイフで切ろうとするが、抜いた瞬間に刃が柄から切断されて使い物にならなくなる。


『私はどうすればいいの?殴ったりとか…?』

『それはやめておいた方がいいな。ゆいのパワーで思いっきり殴っては相手が危険だ。ケンカや武道の経験がないと手加減も上手く出来ないだろうし。そこで沙弥、君の能力でこのビニール紐に、叩きつけた相手を拘束する性質を持たせてほしい』

『は~い。ついでに丈夫にしておきますね~』

『相手が武器を持っていたら、切断して使えなくしてくれ』

『うん、わかった』


「くそっ、何かわからんがくらえ!」

部屋の中央にいる、おそらく犯人グループのリーダーがその手の銃を、真の方に向ける。

しかし、その引き金が引かれることはなかった。

「はぁ!?」

その銃はリーダーの手を離れ、床を転がっていく。


『孝美、君はわたしたちが突入したら、入り口で立ち止まって部屋全体を観察してくれ』

『何を見ればいいの?』

『犯人たちの動きだ。特に離れたところから銃を使おうとする奴だな。接近戦ならまず負けないだろうが、銃はまずい。わたしたちは、あくまで肉体は普通の人間だからな。ゆいは強化されているから丈夫かもしれないが、それでもただでは済まないと思う』

『銃を使おうとするのがいたら、あたしの魔法で邪魔したらいいのね』

『ああ。取り上げてしまうのがベストだが、出来なければ銃口を天井に向けるだけでもいい。横や下はやめてくれよ、誰かに当たるかもしれない』

『わかったわ。責任重大ね…』


「なんで銃が…くそっ!」

リーダーは銃を拾おうとするが、緑の魔法少女、孝美の魔法により、銃は彼女の足下へと床を滑っていく。

「なんなんだよいった…がはっ!」

あり得ない現象に戸惑うリーダーの腹に、真の刀がヒットする。それを最後に、犯人グループは全員無力化された。

「終わったみたいだね」

「こっちは大丈夫みたいです~」

ちょうどその時、赤の魔法少女、楽子と黄の魔法少女、沙弥が戻ってきた。


『ぼくたちは何をしたらいいんだい?』

『二人の魔法は便利だし強力でもあるが、はっきり言って戦闘向きじゃない』

『ですね~」

『だから、わたしたちが戦っている間に、他の場所に犯人の仲間が潜んでいないか確認してきてほしい。ゆいに渡すのと同じ紐を持ってな。狭所なら銃を使われる前に拘束できるだろう』


「これで終わりってことでいいのよね?ならさっさと撤収しましょ」

「そうだね…あ、ちょっと待っててくれないかい?」

楽子は、未だ恐怖に怯える一人の女性行員の所へ行き、膝をつき優しくその手を取った。

「遅れてしまって申し訳ありません。でももう大丈夫、犯人はぼくの仲間がやっつけました。後は安心して、警察の保護を受けてください。ね?」

「は…はいぃ…」

恐怖に青く染まっていたその女性の表情は、楽子が再び立ち上がる頃には頬を赤く染め目はトロンと甘い夢を見ているかのようだった。

「お待たせ。行こうか」

「あんたって本当に…」

「ん?何かな孝美ちゃん」

「…なんでもないわ。行くわよ」

彼女たちは、中を制圧した事を示すため、気絶したままのリーダーを銀行の前にほっぽりだし、その足で撤収していった。

銀行強盗事件、そして魔法少女隊デビュー戦はこうして幕を閉じたのだった。


この事件はしばらくの間、天使騒ぎ以上に世間を賑わす。メディアもネットも、連日彼女たちへの評価や憶測が飛び交うことになった。


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「ヒーローって本当にいたんだ!」

 「ヒロインじゃね?」

 「すげージャンプ力だったな、あれどうなってんの?」

  「NASAの力だよ!」

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「警察の邪魔してんじゃん、ただの自己満」

 「調子のってる感じがするよね」

  「でしゃばりすぎ。まさか今後も首突っ込んでくるのか?」

 「解決したんだしいいじゃん」

  「結果論。ガキだな」

 「ポリスはむしろあいつらを捕まえるべきでは?」

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「青い子かわいい。ちっちゃい」

 「ロリコン乙。あれ小学生だろ、俺は緑推し」

  「それも中学生くらいじゃねーか」

 「赤以外ありえないでしょ」

 「黄色になじられたい」

 「ピンクは淫乱」

  「あのピンクはいいピンク」

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そして、数日後の魔法少女隊ミーティング。

「ネットの評判、ご覧になりました~?」

「もちろん。いやぁ、賛否両論だねぇ」

「予想はしていたがな」

「これからの活躍で巻き返していけばいいのよ!」

「私淫乱じゃない…」

「ところで!チームならリーダーが必要だと思わない?」

「リーダーといったら~、やっぱり赤い方ですかね~」

「ぼく?でもそれって戦隊もののセオリーじゃない?」

「戦隊でも赤以外がリーダーの場合もあるぞ」

「私淫乱じゃない…」

「真ちゃん、詳しいの?戦隊もの」

「弟が好きでな。門前の小僧というやつだ」

「とにかく!チームにはリーダーが必要なのよ!そこでこの」

「だったらゆいさんじゃないですかね~?」

「私リーダーじゃ…え!私!?」

「唯一マソミンとコミュニケーションがとれる存在ではあるし、適切な人選かもな」

「全力で支えるよ、かわいいリーダーさん」

「あの…あたし…」

結局、リーダーの件はうやむやのうちに終わったのだった。


「孝美ちゃん、何気にけっこう乗り気になってるよね。最初嫌がってなかったっけ?」

「仕方なくよ!仕方なく!」


つづく

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