第3話
第3話 結成!魔法少女隊!
「えっ、もう見つけた?」
「たぶん、一応、ってレベルだけどね」
休日に再び集結した3人。楽子の第一声は驚くべき事に、「魔法少女を見つけた」というものだった。
「いったいどうやって…」
ゆいには能力がある。沙弥にはアプリがある。しかし楽子は、魔法少女を探し出す手段を持っていないはずだ。
「一昨日、学校が早く終わってね。せっかくだからいつもと違う場所で女の子に声を掛けようとしたらフラれた、それだけだよ」
ただの偶然だった。
「何やってるの楽子ちゃん…でもグッジョブだよ!」
「ああ、だからこの駅で集合だったんですね~」
今日の集合場所は楽子の提案によるものだ。そのフラれた子に声をかけた駅を指定したのだろう。
「どんな子だった!?」
「なんていうか、キリッとしてて真面目そうで…堅物って感じの子だったなぁ。声をかけたら怖い顔で睨んできて、話も聞かずに逃げられたよ。睨んだ顔もかわいかったけどね。たぶんこのへんが生活圏だと思うから、ここから先はゆいちゃんお願いね」
「うん、わかった!」
さっそく見つかるかもしれないという期待から、気合を入れて探知能力を発動させる。
「でも、休日も平日の生活圏にいるとは限らないんじゃないですか~?」
「ダメで元々。それにノーヒントよりはいいだろう?」
「…見つけた!あっち!」
「ほら」
「杞憂だったみたいですね~」
3人はゆいの能力を頼りに歩みを進め、表札に「立木」(たちき)と書いてある家の前までやってきた。
「…ここ!」
「ここですね~」
「一気に来たね…ゆいちゃん、能力使いっぱなしだけど大丈夫かい?」
「大丈夫!」
ゆいは満面の笑みで親指を立てる。無駄に力んでいるので必要以上に疲れてはいるのだが、次なる魔法少女に対する期待が勝っていた。
「もうオフにしていいんですよ~」
「あ、うん。そっか」
「この家の方なんでしょうか~。それとも、お友達の家~?」
「どっちにしても、ここまで来れたらもう会えたも同然さ。ぼくに任せて」
そう言うと楽子は、いきなりインターホンを押した。
「…はい、どなた?」
少し間が空いた後、応答される。声からして、おそらく母親だ。
「おはようございます、奥様。お嬢さんにお会いしたいのですが、取り次いでいただけますか?」
「はっ!はいっ!ただちに!」
こちらの名前も聞かず、声の主はばたばたと愛娘を呼びに行った。
「友達に偽装作戦大成功。まあこれから友達になるんだからいいよね」
「今のは友達のお母さんにする話し方じゃないと思う…魔法使った?」
「うん、今だけね」
「ここの子が魔法少女じゃなかったらどうするの?」
「この家にはいるんだろう?その子に改めて案内してもらうさ」
「インターホンに出たのが男の人だったら?」
「クラスメイトを名乗って、「立木さん」を呼んでもらってたさ。家にいるのはみんな立木さんだろうけど、ぼくたちと同じ年代の子なら娘さんを呼ぶはずだ。その辺は臨機応変にね」
楽子ちゃんの同年代なら高校生か、下手したら大学生だと思うんじゃないかなぁとは思ったが、それを口にする時間はなかった。
家のドアが開き、眼鏡をかけたストレートロングの少女が母親に押されて出てくる。母親の様子に困惑しているようだが、その顔立ちはしっかり者という印象を受けた。
「だからお母さん、素敵な人ってだけじゃわからない…げ!」
「やあ!また会えたね!」
「この前のチャラ女!」
「こら孝美(たかみ)!なんてこと言うの!」
「いいんですよ奥様。孝美ちゃん、ここじゃ何だから上で話そうか」
「なんであんたが仕切ってんのよ!あと馴れ馴れしく呼ぶな!」
「孝美、そんなぎゃんぎゃん騒ぐんじゃありません。お母さんちょっとケーキ買ってくるからあとよろしくね」
「お母さん!?ああもう!」
立木の母親は足早に…スキップしながら出掛けていった。
「あ、あのー…」
おずおずとゆいが話し出す。
「…何よ、あんたたちもこいつの仲間?」
「仲間…はい!仲間です!魔法少女です!」
「はぁ?」
<ゆい、能力を見せたら?>
「あ、そうだね。えーっと、あそこの草」
「?」
ゆいは庭先に生えている雑草を指差して、切断の魔法を発動させる。ひとりでにズバズバと切り裂かれていく草を見て、孝美の顔に軽い驚愕の色が浮かぶ。
「…手品師、ってわけじゃなさそうね。いいわ、上がって。少しだけ興味が出てきたわ」
「ぼくも孝美ちゃんに興味津々だよ…」
「あんたは黙ってろ!」
「楽子ちゃんお願いだから大人しくしてて…」
「話が進みませんね~」
「えぇー…」
「あんた…達も能力者、ってことでいいのよね」
「魔法少女です!」
「そう呼んでるんですよ~」
それからゆいたちは、今までの事を説明した。楽子抜きで。
「ふぅん…だいたい解ったわ。いや、正直助かった。この力には結構戸惑ってたから」
「孝美さんのはどんな魔法なんですか~?」
孝美は右手を伸ばし、空中で何かをつかむ動作をした。そのまま持ち上げるように腕を動かすと、沙弥の前に置かれたカップがひとりでに浮き上がる。
「わ!念動力…?」
「そんな感じ。正確に言うと離れた所にある物に、手のひらで触れられる能力ってとこかしら。対象を認識できれば遮蔽物があっても触れるみたい。距離はどこまで有効かわからないけど」
「…ふぅーん、なるほど」
それまで黙っていた楽子が口を開いた。
「ゆいちゃん、確か魔法はその人の資質や精神に依存するって話だったよね」
「マソミンはそう言ってたけど…それがどうかした?」
「そうすると孝美ちゃんは、潜在的にいろんな物に触れたいって思ってるのかなーって。案外えっちな子なんだね」
「んなっ!?」
それは怒りか恥ずかしさか。とにかく孝美の顔が真っ赤になった。
「そんなわけないでしょ!あんたみたいな軽薄スケベ女と一緒にしないでくれる!?あたしそういうの大ッ嫌いなんだけど!」
「いい加減訂正させてほしいんだけど、軽薄なんて云われるのは心外だよ。ぼくは女の子たちと真摯に向き合い、付き合っているつもりだ」
楽子は孝美の目を真っ直ぐに見つめて答える。その声は真剣そのものだ。
「そ、そうなんだ…悪かっ…ん?ちょっと待って、女の子『たち』って言ったわよね。複数の子にちょっかいかけてるのは軽薄そのものじゃない!」
「しょうがないよね。だってみんなかわいいんだもん」
「それにスケベってのは否定しないの!?」
「そこはそんなに間違ってもないかなって」
「くっ…!もういいわ、あんたのペースに付き合うと疲れる…」
なおこの後、年齢を聞いて更に疲れることになるのだが、それについては割愛する。
「ちょっと待ってて、電話してくるから」
孝美はそう言って一時退席した。
「なんというか…楽子ちゃんの言ってた通りの子だったね」
「でしょ?言った通りの…」
「真面目そうな子だったね」
「かわいい子だったでしょ」
「えっ」
「ん?」
一瞬、会話が途切れた。
「…楽子ちゃん、なんだか嫌われてたように見えたけど大丈夫?」
「照れ隠しでしょ?かわいいよね!」
ゆいは、孝美の気持ちが少しだけ解った気がした。
「お待たせ」
間もなくして、孝美が戻ってきた。
「これから時間、あるわよね」
「あ、うん。一応」
「手伝ってあげるわ、魔法少女探し。さっそく行きましょう」
「ありがとう!じゃあ探知を…」
「必要ないわ。話はつけてきたから」
「え?」
「知り合いなのよ。最後の魔法少女」
孝美に連れられて訪れたのは、家、と言うよりは屋敷と呼んだ方が相応しい豪邸だった。門には「舘山」(たちやま)という表札と、「舘山剣術道場」という看板が掛けられている。
「はい、どなたですか?」
「立木です。真(まこと)さんをお願いします」
「ああ、はい。どうぞお上がりください」
4人は屋敷に上げられ、その一室に通された。ベッドや勉強机がある。どうやら真という子の部屋らしい。
しばらくして部屋のドアが開き、1人の少女が入ってきた。ポニーテールに凛々しい眼差し、真っ直ぐとした姿勢。いかにも剣士然とした立ち居振舞いだが、身長はこの中の誰よりも低い。
「待たせたな」
「ごめん、稽古中だった?」
その子、真の格好は道着姿だった。
「いや、いいんだ。父様が『友達は大事にしないといけない』と言って抜けさせてくれた。それでその子たちが…」
「ええ、さっき話した能力者よ。魔法少女、って自称してるわ」
「ふぅん…」
真は3人を順に、見定めるように眺める。ゆいはその視線に緊張した。
「改めて、話を聞かせてもらえるか。二度目になって悪いが、孝美に話したことを、最初から全部」
「あっ、はい。うん、まずは…」
「ふむ…次は能力、いや魔法か。それを実際に見せてもらえるか」
話を黙って最後まで聞いた真は、次にそう要求してきた。
「あ、じゃあ私から。えーっと、真っ二つにしても良い物って何かある?」
「少し待ってくれ」
真はごそごそと机の中を探し、消しゴムを取り出した。
「これでいいか、切れても使えるし。やってくれ」
「うん…えいっ」
真の持つ消しゴムが、ゆいの魔法によりパカッと二つに割れた。
「…ふむ」
「次は沙弥がやりますね~。ちょっと失礼して~」
沙弥が割れた消しゴムを手に取る。片方を下に落とすとスーパーボールのように跳びはね、もう片方を近付けると磁石のようにくっついた。
「ほう…」
「ぼくはどうしようか。この場で見せるのはちょっと難しいんだけど」
「あんたのはあたしが保証するわ。真、こいつのせいであたしのお母さん、ちょっとおかしくなったの」
「おかしくって、酷いなぁ。ちゃんと戻したでしょ」
「当たり前よ」
「…わかった、信用しよう。そして謝罪する。実を言うと半信半疑だった」
「そんな、いいよ…だって私たち、魔法少女の仲間でしょ?」
「ん?うん…そうか。そう、なるのか…。では、わたしの『魔法』も見せよう。そうしないと不義にあたるからな。少し離れてくれ」
真は空中で何かを掴み、真っ直ぐに振り下ろす。その手にはいつの間にか、一振りの日本刀が握られていた。
「この刀を出すことができる。それだけだ。それだけだが、刀の方にはいろいろと出来るようだ。たとえば刀身の長さは自在に変えられるし、切れ味も変化させられる。手から離しても消えないが、同時に出せるのは一振りだけだ」
「へぇ~、面白いですねぇ~」
伸び縮みする刀を見て沙弥はそう言い、ゆいは
「刀…かっこいい…!」
目を輝かせて呟いた。
「真ちゃん、かわいい…!」
楽子はいつも通りだった。
「ところで、これでゆいが探していた…魔法少女?は全員見つかったことになるが、これからどうするんだ?」
「どうって…どうなるんだろ」
魔法少女探しと魔法少女妄想に夢中で、そこまで考えが至ってなかった。
(マソミン)
<はいはい>
(全員見つけたけど、これからどうするの?何するの?)
<別に何も?>
(へ?)
<見つけた時点で僕の目的は半分達成だよ。もう半分は時間がかかるし、君たちに何かしてもらえるような事でもない。好きにすれば?>
「なんて言ってるの?そのマソミンとかいうのは」
「見つけた後は好きにしろって…」
「よし…とりあえず、みんなでデートしようか」
「好きにしろって言われても逆に困るわよね…」
楽子の提案は自然にスルーされた。だんだん扱いに慣れてきたようだ。
少しの間、訪れる沈黙。それを破って、孝美がぽつりと呟いた。
「別に何もないんならそれぞれ普通の生活したら…」
「ひ、人助け!」
それを遮るように、ゆいが急に声を上げた。
「…しませんか?」
「人助け…あたしらの魔法で?出来るのかしら、そんなこと…特にこいつ」
「ぼくの力は孝美ちゃんが一番よく知ってるでしょ?あ、ぼくはゆいちゃんに賛成するよ。他ならぬゆいちゃんの提案だからね」
「沙弥も依存ありません~」
「わたしも賛成だ。人を守り助けることが真なる剣の道だからな」
「だってさ。孝美ちゃんはどうするの?」
「…誰も反対なんかしてないわ。でもこんな能力、堂々と使ったら目立ってしょうがないわよ?」
「ああ、それならこれがお役に立ちそうですね~」
沙弥はストラップを取り出した。概ね普通のストラップなのだが、小さいダイヤルロックのようなものが付いている。
「それって…もしかして!」
「はい~、ゆいさんに頼まれていたものです~。ナンバーを合わせて思いっきり引っ張ると使えますよ~。」
「さっそく試していい!?」
「どうぞ~。ナンバーは000です~」
ゆいはストラップを受け取り、言われた通り数字を000に合わせて強く引っ張った。するとストラップは強く発光し、その光が収まったとき…ゆいの姿は一変していた。
フリフリの服に大きなリボン。カラーリングは白とピンク。髪形と髪色まで変わっている。
それはまさしく、アニメに出てくるような魔法少女そのものだった。
「わぁ…。うわぁ…!うわぁぁぁぁ!!!」
ゆいはキョロキョロと全身を見回し、歓喜の声を上げる。カシャッというシャッター音。沙弥はゆいの姿を写真に収め、本人に見せた。
「ふわぁぁぁぁ!!!!!すごい!かわいい!ありがとう沙弥ちゃん!」
「えへへ~、けっこう大変でした~」
ゆいは沙弥に抱きついて感謝する。そのままキスでもしかねない勢いだ。
「みなさんのも作りますね~。作り方はわかったので、同じものであればもっと短時間でできるかと~」
「ちょっ、ちょっと待って!それを着るの!?みんなで!?それでいいの!?」
孝美は自分があの姿になるのを想像し、困惑する。
「はい~。さやは問題ないです~」
「ぼくはゆいちゃんが喜んでくれるなら構わないかな」
「…確かにここまで姿が変われば、正体もバレず堂々と力を使えるな。この靴は上げ底のようだが…動きづらくないか?」
「真まで乗り気なの!?」
「動きを補助する性質も付けてあるので、むしろ動きやすくなるかと~。ゆいさんほどではありませんが、強化になりますね~」
「それならわたしも異論はないかな」
「孝美ちゃんはどうする?やめる?それとも1人だけ普通の格好で魔法を使うのかな?」
「…ああもう、着るわよ!着ればいいんでしょ!」
「満場一致だね。沙弥ちゃん、衣装の方はよろしく」
「おまかせあれ~」
こうして全員の同意を(?)得られ、少女たちは1つのチームになった。
「魔法少女隊、結成だね!」
「…あ、はい~」
「…うん、そうだね」
「…ああ」
「…もうなんでもいいわ」
…名前はともかく、少女たちは1つのチームになった!
つづく
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