第2話

第2話 魔法少女たち


魔法少女として覚醒した次の休日。ゆいは種子を有する少女=魔法少女の探索に赴いていた。

<どうだい?>

「うん…けっこう近いと思う」

都心ではないとは言え、駅前にはけっこうな人がいる。ゆいは周りに聞こえないよう、声を殺して答える。

<そうそう、僕と話すときは話したいって意思を込めて念じれば声出さなくても解るからね>

(先に言ってよ!)

<それにしても多いね。人>

(休日だからね、ちゃんと見つけられるかなぁ…あれ?)

ふと違和感を覚える。近くに魔法少女がいる。それは解っているのだが、それが自分から近付いてきているのだ。

(ねえマソミン、他の魔法少女も探知魔法って使えるの?)

<使えないはず、としか言えないね。どんな能力が発現しているかは僕にもわからない。でも能力は宿主の資質や精神に依存するから、種子を探知するなんて限定的な能力が発現してるとは思えない。あるとしたら探知系の応用…>

「あのー…」

声をかけられた。おっとりのんびりとした、女の子の声だ。

(この子だ…!)

振り向くと、そこにいた少女はゆいと同年代の、髪の長い女の子だった。軽くウェーブのかかったロングヘアー、垂れ目がちな顔を優しく微笑ませており、柔らかい印象を受ける。

「もしかして~、超能力少女さんですか~?」

ゆいは、探していた人物が向こうからやってきた事に驚きつつ、問いへの答えを返そうとする。

(うん…。あなたも…?)

<ゆい、声出さなきゃ>

「あっ、そうだった」

「?」


「魔法少女さんですか~。素敵ですね~。じゃあ今度から沙弥もそう呼びます~」

二人は近くの喫茶店に入った。彼女の名前は川建沙弥(かわだち さや)。ゆいと同い年の魔法少女だ。

「それにしてもびっくりしたよ、そっちから来るんだもん。なんでわかったの?あ、マソミンがいるからか」

「マソミン?」

「うん、マソミン。このメカ雪ウサギみたいなの」

「メカ雪ウサギって…?」

ゆいはマソミンを指差すが、沙弥は不思議そうな顔をしている。

「すみません~。誰もいらっしゃらないように見えるんですが~」

「えっ?」

<言ったでしょ?僕の姿はゆいにしか見えないって>

(他の魔法少女にも見えないの?)

<そうだよ>

(そうなんだ…知らなかったそんなの)

<いいんじゃない?別に気にしなくても>

(そういうわけにもいかないでしょ…)

ゆいは沙弥に、知っていることを話した。マソミンのこと、種子のこと、他の魔法少女を探していること、そして自分の魔法のこと。

「切断ですか~。便利そうですね~」

「かわいくないけどね…そういえば沙弥ちゃんの魔法はどんなの?」

「さやのはですね~。物体の性質を変化させられるみたいです~。たとえば~…手を出していただけますか~?」

言われた通り手を差し出すと、沙弥はスプーンでグラスから氷を取りだし、ゆいの手に乗せた。

「あったかい…!?」

「いま、その氷の『冷たい』という性質を『温かい』という性質に変えました~。こんなこともできますよ~」

今度は自分の手に氷を乗せ、指で押し潰す。その氷はぐにぐにと、ゴム製品のように伸縮した。

「すごい…!」

「地味ですけどね~。ちなみに、ゆいさんを見つけられたのもこれの応用です~」

沙弥はそう言うとスマホを取り出した。

「このスマホの地図アプリにですね~、同じような能力を持っている人を表示させる性質を加えました~。と言っても有効範囲は狭いし、複雑な性質変化には時間がかかるみたいで、今日ようやく完成したんですけど~」

「すごい…すごいすごいすごい!すごいよ沙弥ちゃん!これがあれば他の子達もすぐ見つかるよ!」

「えへへ~、そんなに言われると照れちゃいますね~」

「あ、そうだ。だったら…こういうのも作れたりする?」

ゆいはダメ元で、かねてより欲しかった物の事を沙弥に話した。

<…それ、まだ諦めてなかったのかい?>

「当然だよ!出来る?沙弥ちゃん」

「できるかどうかわかりませんけど~、やるだけやってみますね~」

「やったぁ!後でデザイン送るね!」

<そんなの必要かなぁ>

「要るよ!絶対に!」

鼻息荒く言い切る。今のゆいにとっては、何よりも重要なものだった。

「それで~、これからどうしますか~?」

「そうだね…」

今は昼前、まだ時間はある。

「そう遠くない場所にもう1人いる感じがするから、お昼食べたらその子にも会いに行こっか」

「了解です~」


2人は昼食の後、電車で隣の駅に移動した。

「近い…たぶん駅の周りか、中にいる。沙弥ちゃん、そっちはどう?」

「ちょっと待ってくださいね~」

沙弥はスマホを取り出すべく、バッグを開いて中身を漁る。

「魔法少女って、駅の近くにいなきゃいけない決まりでもあるのかな」

「偶然じゃないですか~?」

沙弥がのそのそとスマホを取り出している合間に、1人の女性が近づいてきた。整った顔立ちにショートヘア、顔だけ見ると美少年に見えなくもないが、そのプロポーション、突き出した胸とくびれたウエストは間違えようもなく女性のものだ。

ゆいはぼんやりと

(綺麗な人だなー、モデルさんかな?)

などと考えていた。なので、

「やあ君たち、時間あるかな?良かったらぼくと一緒に遊ばない?」

「ひゃいっ!?」

彼女の誘いに変な声で反応してしまったし、感知も疎かになっていた。

「あ、あああのー、わたっ私たち」

「あれ?おかしいな。効かない子もいるのかな」

「あ~、ゆいさ~ん。この方ですよ~、魔法少女」

「へっ?」

「魔法少女…?」

改めて目の前の女性を能力で判別すると、確かに種子の反応があった。

「えーっと、あの、ちょっとお時間よろしいですか?」

「えっ!いいよいいよ、喜んで!」

その女性、次なる魔法少女は顔をぱあっと輝かせた。


「へぇ…魔法少女か。ロマンチックだね」

「あの、でも本当なんです」

「信じるよ。ぼく自身身に覚えがあるし、それにこんなかわいい子達が嘘をつくわけないからね」

「あ…はい、えへへ」

ゆいは恥ずかしそうに顔を赤らめる。聞く人が聞けば、よくもまあこんな歯の浮く台詞を次々と繰り出せるものだと呆れるところだが、彼女には効果覿面のようだ。

「ところでえーっと、安達(あだち)さん」

「楽子(もとこ)でいいよ。むしろそう呼んでくれた方が嬉しい。それに敬語もいらないよ?同い年くらいみたいだし」

「え?でもあだ…楽子、さんって高校生くらいですよね?」

「よく言われるなぁ、でも本当はもっと低いんだ」

「中学生さんなんですか~?」

「そ。何年生だと思う?」

「3年生ですよね」

「ブッブー。1年生」

一瞬だけ、場に静寂が訪れた。

「えええええええええええ!?」

「はははは、いいリアクションだね。でも迷惑になるからもう少し静かにね」

「あ、ごめんなさい…でも、えぇ…?」

「2人は何年生?」

「2人とも2年生です~」

「そっか、じゃあぼくの方が敬語にするべきですかね先輩?」

「あ、いえ、違和感すごいんでやめてくだ…やめて」

年下なのに、スタイルも落ち着き方も、自分の遥か高みにある。ゆいは格差社会というものをまじまじと感じていた。

(そういえば、コーヒーにミルクも砂糖も入れてたなぁ)

「それで、何か聞きたかったんじゃなかった?」

「あ、そうでし…そうだった。えーっと楽子、ちゃん?」

「はい、楽子です」

ちゃん付けにまだ違和感があるが、慣れるしかない。

「楽子ちゃんの魔法ってどんなの?」

「うーん、たぶんあれだと思うんだけど、ちょっと自信なくなったかなぁ。ナンパの成功率が100%になった」

「…は?」

「いやね、普通はまず断られるんだよ?でもちょうど、天使騒ぎを境にそうなったんだ。だと思うんだけど、君たちには効かなかったからなぁ」

<種子の能力は、種子を持ってる相手には効かないよ>

(マソミン?いたんだ)

<ずっといたよ…まあいいけど。とにかく、彼女らの能力は他の魔法少女には効かない。ただしゆい、君の切断と探知は別だ。種子の種類が違うからね>

(へー、そうなんだ)

「ゆいさん~?どうかされました~?」

「うん、マソミンがね。魔法少女の能力は魔法少女には効かないって。私の以外は」

「あ、そうなんだ。じゃあぼくの能力はやっぱりナンパの絶対成功ってことでいいのかな?」

「それだとちょっと効果が限定的過ぎますね~。他に何か変化はありませんでした~?」

「そうだねぇ、みんな積極的というか、従順だった気がするな」

「じゃあ、相手を魅了するとかじゃないでしょうか~」

「そんな感じなのかなぁ。あ、そうだ。1回だけ試してみたんだけど、どうも男には効かないみたい」

「対象は女性限定、と~」

「2人のに比べたら地味だね」

「絵的にはそうですけど、かなり強力な能力だと思いますよ~。人類の半分が味方ってことですから~」

「確かに…。沙弥ちゃんは頭がいいね」

「ありがとうございます~」

(う、うーん…)

マソミンの話だと、確か魔法は「資質や精神に依存する」だったはずだ。ゆいは、「対象が女性限定」という点に何か引っ掛かるものがあった。あったのだが。

(…でも楽子ちゃんかっこいいからなぁ)

気にしないことにした。

「おっと、もうこんな時間か」

「え?あっ…」

時刻は既に夕方を指していた。移動時間も考えると、中学生という身分の彼女たちはそろそろ帰宅しなければいけない。

「じゃ、今日はここまでだね」

「まだ2人残ってるんだよね、未確認魔法少女。そっちはどうするんだい?」

「次のお休みに探そうと思うけど…2人は?」

「さやはいつでも大丈夫です~」

「ぼくは事前に連絡してもらえれば、可能な限り付き合うよ。連絡先交換しよう」

ゆいは「付き合ってくれるか」という質問をしたつもりだったが、2人とも付き合うのは前提という答えを返した。それが少し意外で、すごく嬉しかった。

「うん…そうだね!」

「それがいいですね~」

「やった!美少女2人の連絡先ゲット!」

今日のところはこれで解散となった。


「お帰りー。あら、すっごい笑顔。何かいいことでもあった?」

「うん!」

帰宅した娘の表情を見て、ゆいの母親も釣られて笑顔になる。

「そう、良かったわね。ご飯もうすぐだから」

「はーいっ」

ゆいは足取り軽やかに自室へと入っていった。

「本当にご機嫌だね」

そのタイミングでマソミンが話しかけてきた。

「そりゃそうだよ~。だって今日だけで魔法少女の友達が2人も増えたんだよ!」

正直、家を出るときには不安があった。他の魔法少女が悪い子や嫌な子だったらどうしよう、と。しかし結果はこの通り。2人とも優しくていい子だった。まぁ、少し変な子ではあるとは思うが、魔法少女たるものそのくらいキャラが強くなくてはいけない。むしろ自分のキャラの方が少し弱いのではとすら思っている。

という思考を、なんとなく雰囲気で察したマソミンは

(…魔法少女のことになると急にグイグイ来るのはけっこうキャラ強いと思うんだけどなぁ)

と思いつつ、声には出さないでおいた。

<ともあれ残りは2人。次の休みだね>

「うん!いつごろがいっかな~。早めに連絡しなくちゃね」

もう、何も不安はない。ただひたすらに次の休みが待ちきれなかった。


つづく

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