第10話 犯人は・・・・誰?

 三日後、紅倉邸。

 関係者を集めて、紅倉が今回の事件の真相を説明しようとしていたが、


 その前に、その後の顛末てんまつ



 通報でやって来た救急車。到着するまでに、途中渋滞にはまり、事故があり、ずいぶん遅れてしまった。

 到着してみれば、現場はまだ混乱していて、肝心の患者の居場所を、誰も知らなかった。

 慌ててみんなで捜して、シャワールームにいるのを見つけた。

 二人はシャワーを浴び、バスローブを羽織り、のんびりスポーツドリンクを飲んでいた。

 救急隊員が診察したが、二人ともどこにも火傷などしていなかった。

 不審がり、半分怒っている救急隊員に、

「二人で冷たいシャワーをずうっと浴びてましたから」

 と沖州茉央が申告し、なるほど、火傷は軽度で、処置が良かったから治ったのだろうと納得せざるを得なかった。


 消防車とパトカーがやって来て、白玉ホール周辺はまた騒然となったが、

 結果を言えば、火を出したことに

「厳重注意」

 されただけで、消防も警察もすんなり引き上げていった。


 これは学園理事長から、

「これはあくまでも事故なので、犯人探しは決してしないでいただきたい」

 と強い要請があり、同様に、

 沖州茉央、宇賀神妙子、それぞれの所属事務所からも、

「こちらから被害届を出すことはないと確約します」

 と、おおやけの事件にしないよう強く要請されたからだった。


 この強い要請がなかったら、

 沖州茉央に「パアーフェクト・コーデ」で服が選ばれた彼女が重要参考人として取り調べられるところだった。



 実は、学園理事長、各所属事務所に「強くアドバイス」したのは紅倉だった。

「その方が、みんなの為ですから」

 と。

 実は紅倉は、白玉女学園に大口おおぐちの寄付を行っていて、

 二つの芸能事務所は紅倉と特に関係はなかったが、別筋べつすじ……芸能界に多大な影響力を持つ大物から、紅倉のアドバイスに従うように、と連絡があり、大いに恐縮して従ったのだった。


 警察への「要請」もまた実にスムーズに通った。



 こうして、公権力は更なる強権で押さえることが出来たが、


 今のご時世、権力でもどうにもならないのがネット社会である。


 客席から携帯電話で撮影されていた「沖州茉央 炎上!」の様子は、動画共有サイトに多数アップされ、あっという間に拡散してしまった。

 大人気の沖州茉央を心配する声が多く寄せられる中、


 ーーウガジン(笑)とかいうのが怪しい


 と言った悪意あるカキコミも相当数あった。

 こうしたネットの声に対し、

 夜になって、「bloomin'」の公式ホームページで、沖州茉央が動画で登場し、メッセージを送った。


『わたしの使っているスプレーが舞台照明の熱で発火したようです。ご迷惑をおかけしました。危険をかえりみず守ってくれた宇賀神さんには心から感謝します』


 茉央は首周りの大きく開いた服を着て、肌に火傷などないことをアピールした。

 原因にかなり疑問はあるものの、茉央が無事なのは確かなようで、


 ーーたいしたことなかったんだな


 と、落ち着いていった。




 そして、三日後。

 紅倉邸に関係者が集められたが、実はそれは、たったの二人だった。

 岩崎玲緒奈と、白玉女学園大学四年生の浜野夏菜(はまのなつな)だった。


(誰?)


 だった。

 紅倉の指示で、玲緒奈が探偵して、見つけ出した。

 大して難しい依頼ではなかった。

 玲緒奈は彼女を覚えていた。

 バザーで、「高額品コーナー」の案内係に立っていたとき、あのピンク・ボストンバッグについて質問してきたオシャレさんだった。

 彼女はE社のハンドバッグの番号札をもらっていったが、残念ながら抽選は外れていた。

 当たったのは…………


「さて」

 と、芙蓉が皆にお茶とケーキを配って、紅倉が話し出した。




「今回の事件ですが、わたし担当の怪奇現象といたしまして、


 ファッションショーの舞台で、超人気モデルの沖州茉央さんの服が、突如燃え出し、彼女が炎に包まれた、


 というものでした。

 かなりの炎が上がりましたが、茉央さんも、彼女を助けようとしていっしょに燃え上がった宇賀神妙子さんも、幸い、まったく火傷など負わずに済んだようです。

 ですからまあ、


 よかったよかった、


 で済ませてよかったんですけどね。

 よかったんですけど……、すっきりしませんよね?



 何故、どうやって、茉央さんの服に火がついたのか?


 犯人は誰なのか?



 茉央さんはビデオで「スプレーが発火した」と説明してましたが、もちろん、そんなんじゃあありません。メーカーに告訴されます。


 あれは、わたしの分野の、超常現象です。


 具体的には、念力の類です。


 では、

 誰がそれをやったのか?


 怪しいのは、まあ、宇賀神妙子さんですね。

 あの人は、蛇神に取り憑かれてますから、そういう力もあるでしょう。


 宇賀神妙子さんが犯人なのか?

 違います。

 彼女は茉央さんを守ったんです。彼女がいなかったら、茉央さんはやはり大やけどを負っていたかもしれません。


 犯人は、あなた、


 浜野夏菜さんです」



「馬っ鹿馬鹿しい」

 浜野は最初からこの場に居ることに不満顔だったが、今やはっきりと侮蔑ぶべつと敵意の目を紅倉に向けていた。

「そもそもわたし、超常現象なんてもの信じてませんし、わたしが?、茉央さんを燃やしてやろうなんて、するわけないわ」

 浜野は苛立いらだち、お茶を飲んだ。ケーキには手を付けてない。


 紅倉は、

「ふうーーん……」

 と浜野を眺め、肩をすくめた。

「ま、あなたがそう言うなら、それでもいいですけどね。お呼び立てしてすみませんでした。どうぞ、お詫びにケーキを召し上がって、帰っていただいてもけっこうですよ? あ、美貴ちゃん、お茶のお代わりを」

 浜野はお茶を飲み干してしまっていた。

 芙蓉がお代わりを入れてやり、浜野は不機嫌にケーキにフォークを入れたが、口に運ぶのを迷い、猜疑さいぎの目を向けながら紅倉に訊いた。

「どうして、…………わたしが犯人なんですか?」

 へたくそにケーキを食べていた紅倉は、「ふむ」と浜野を眺め、


「あなたにも、悪い神様が憑いちゃってるわね。もう今回のような極端な事件は起こさないでしょうけど……、これからもずうっと、あなたには不幸が続くでしょうねえ」


 と、実に気の毒そうに言った。

 浜野の顔色が変わった。何かしら心当たりがあるようだ。

 まだまだ疑いの警戒心は持ちながら、

「悪い神様って、どんなのでしょう?」

 と訊いた。

 見ている玲緒奈には、浜野がまんまと新興宗教の魔手に捕まってしまったように思えた。

 紅倉が答える。


「ズバリ、狐ね。火を使うくらいだから」


 狐火きつねびというものだろうか?

 そんな根拠なのかなあ……、と、まんまと、浜野も不安そうな顔をした。

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