第7話 ファッションショー

 ファッションショーの開演は午後一時三十分。

 0時三十分に入場開始し、一時過ぎには八百人くらいの主に若い女子のお客さんが入っていた。

 会場の白玉ホールはクラシックのコンサートにも利用される本格的なホールで、階段状の客席に千五百人収容できる。

 ファッションショーなら客席の中央をウォーキングするランウェイが欲しいところで、実際体育館を会場にする案もあったが、モデル七人で、一人一着ずつなので、手間も含めて見送られた。


 ショーの内容は、


 まず、一人ずつ選んだ服を着て登場する。掛ける七人。

 全員揃ったところで、人気スタイリスト・ヒロコの、ポイント解説。

 席を作って、モデルたちのトークショー。

 最後に、着ている服のオークション。


 という流れになる。

 だいたい一時間の予定だ。



 玲緒奈も会場にやって来ていた。

 バザーはまだ続いているのだが、高額品の抽選会も終わり、並べられている品物も、めぼしい物はだいたい売れてしまい、現在売り切り目指して大値引きセール中。

 タレント活動している玲緒奈に班の仲間が気を利かせて、

「ここはもういいから、行っておいで」

 と送り出してくれたのだ。

 一般のお客さんに混じって客席に着くと、会場案内に立っている芙蓉に見つかり、さりげなく手を振られた。玲緒奈も小さく手を振り返した。

 芙蓉の今日の出で立ちは、黒のスーツ上下に「案内係」の腕章を付けている。腕章がなければ紅倉の助手としてテレビに出る時とほぼ同じだ。


 開演のアナウンスがあり、照明が落とされ、客席は期待でヒートアップする。

 軽快な音楽が流れ、ステージ上に赤、青、緑のスポットライトが踊る。

「20××年・白玉女学園・クリスマスシーズンコレクション・フィーチャリング・bloomin'モデルズ、開幕です」

 三色のスポットライトが中央で重なり、白く照らされた飾り窓から、

「小日山花音(こひやまかのん)さん」

 一番手、こっひーこと小日山花音が、弾ける笑顔で両手を振りながら登場した。キャー!と女子たちの嬉しい悲鳴。


(やっぱりかわいい。輝いてるなあ)

 と玲緒奈も思った。正直な気持ち、自分もあのキラキラした世界の一員になりたい。

 今はただ、眩しくて、悔しい。


 かわいい系のこっひーは、Tシャツ、ミニスカートに、チェックの大判シャツ、頭に大きなリボン、のコーディネート。

 舞台の端に歩いていって、ポーズをとって、反対の端に歩いていって、ポーズ、

 後ろの外側に落ち着いて、ポーズ。


「平川陽菜(ひらかわひな)さん」

 二番手、ひーなこと平川陽菜が飾り窓に現れた。女子たちの歓声。

 アナウンスは二年生の池花衣(いけはなの)だ。

 大人しい感じのひーなは、やわらかな白のブラウスに、アートチックなしわプリーツのロングスカート、マフラー、のコーデ。

 ウォーキングをして、後ろのこっひーと反対側の定位置へ。


 三番手、クール系のゆめのこと新玉夢乃(あらたまゆめの)がキャップとパンツスタイルで登場し、


 四番手、

「加藤泉南(かとうせな)」

 が登場すると、客席は一斉に「キャーーッ!!」と爆発的に盛り上がった。

 キラキラ中のキラキラ、今、若い女子がなりたい顔ナンバー1、「bloomin'」専属モデルの中で一、二の人気を争う、超人気モデルだ。

 泉南が笑顔で手を振りながらウォーキングしてると、ファンの歓声と別に、「きゃっ」と言う(えー、うそ、どうしよう!)と言ったニュアンスの喜びの悲鳴があちらとこちらとそちらと上がった。

 今、泉南が着ている、ブラウス、ソフトジャケット、そしてかなり意表をついた和風柄のショートパンツ、をそれぞれ寄付した女子とそのお友だちのグループだろう。

 このファッションショーにはそういう楽しみがあるわけだ。


 五番手、なーごこと熊倉和未(くまくらなごみ)に続き、


 六番手に

「宇賀神妙子(うがじんたえこ)」

 が登場した。

 やっぱり専属モデルになってまだ三号の宇賀神は知名度が低いようで、歓声はかなり微妙だった。

 彼女は、コーラルイエローのニットブラウスに、エメラルドブルーのロングフレアスカートのコーデ。

 少ない歓声にもめげず、笑顔でウォーキングして、後方、中央寄りの定位置へ。

 そして、


「沖州茉央(おきすまお)」


 ラストにまおこと沖州茉央が登場すると、一番の歓声が上がった。

 加藤泉南と一、二の人気を争う茉央。次世代エースの泉南に対し、……ふんわりした雰囲気に、バチッと力のある目もとの、唯一無二の美貌……、「bloomin'」の人気を引っ張ってきた「ヤングのカリスマ」の人気はまだまだ絶大だ。

 優雅にウォーキングする彼女に、

「まおちゃーん!」

「まおさまーー!!」

 と声援が飛ぶ。

 彼女のコーデは、


 ワインレッドの背中の開いたドレス風ブラウス、

 ピンクベージュのロングプリーツスカート、

 紐編みのヘッドドレス、


 の三点だった。

 歓声の中にまた、

「えっ!」

 という驚きの声が上がった。その驚きの意味を察した女子たちが注目する。


「パーフェクトなんじゃない?!」


 ざわざわと、驚きの囁きが広がっていく。


 ……パーフェクト?


 ……パーフェクト・コーデ?


 ……え、本当?


 ……ついに神降臨?


 ……誰だれ?


 会場の注目が、舞台と、客席と、行ったり来たりする。

 客席で注目を浴びた女子が、周りの注目なんてまるで目に入らないように、感極まった顔で舞台の茉央を見つめていた。

 茉央はみんなに……彼女も含め……親愛の笑顔を振りまきつつ、後方の定位置、中央に着き、

 七人全員揃ったところで、前進し、茉央を先端の矢印になって、ポーズを決め、くるりと後ろを向いて、元の位置に戻り、前を向くと、全員横並びで前進し、ポーズをとった。

 わーーっと、感動の拍手が贈られた。



 舞台袖でモデルたちが出そろったのを見届けた里子は、時刻を確認し、奥へ引っ込んだ。

 廊下へ出て、携帯で電話をかける。

「いつもお世話になっております。あやめプロモーション、宇賀神妙子のマネージャー、里子でございます。「◯◯◯」プロデューサーの◯◯様でいらっしゃいます? どうもこの度は、はい、お世話になります」

 大きな仕事の大事な打ち合わせだ。

 決して失敗のないよう、静かな奥へ歩いていった。



 舞台上、ポーズをとって、笑顔で拍手と声援に応えていた茉央に、異変が起こった。


 沖州茉央は、炎上した。

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