第6話 プレミアム
白玉女学園大学
「クリスマス・コンサート&バザー」
開催当日。
開始は九時と案内されているが、門は七時から開いていて、早く来過ぎたお客さんも、幸い青く晴れた空の下、エントリーコートから庭を散策し、学生気分を楽しんでいる。
エントリーコートには、ホットドッグ、チュロス、クレープ、たこ焼き、焼きそばと言った定番の模擬店が並び、時間前から営業を始めて、ライバルに負けじと華やかな呼び込み合戦を演じている。
白玉女学園はヨーロッパの修道院をモチーフにした設計で、等間隔に整然と窓が並んだまっすぐの壁、高い山屋根の、淡い青とベージュの校舎郡が緑の森に囲まれて小さな町のように並んでいる。この美しい学び
お客の中には、来年、再来年の受験の下見もかねて訪れている女子高校生の姿もちらほら見受けられる。
チャペルのコンサートは十時半開始。キリスト教系大学の
チャペルには外にも内にも、大きなクリスマスリースが飾られ、雰囲気を盛り上げている。
本格的なクリスマスムードに浸るのもいいが、お客の中心である若い女性たちのお目当てはやっぱり学生が出品したバザーと、午後のファッションショーだ。
バザー会場の学生ラウンジには、九時の開場を待ってお客さんが列を作り、開場と同時に当たりを付けてわあっと広がっていった。
玲緒奈は奥の
「高額品コーナー(抽選購入)」
の案内係に立っていた。
スチールラックに、厳選された十五品が展示されている。
内訳は、アクセサリー五点に、バッグ十点だ。
アクセサリーは、ネックレスとブレスレット。寄付品は扱いに困る貴金属品は不可になっているので、そんなに高い物ではないが、若い女性に人気のブランド品なので欲しい人も多いだろうと抽選にして、値段自体は五千円から一万二千円。
バッグはだいたい、一万円から八万円で、これも若い女性に人気のファッションビルにテナントが入っている若者向けのブランド品だが、
二点、シャレにならない値段の物があった。
一点はヨーロッパ老舗の高級ブランドのハンドバッグで、オーソドックスなタイプながら、そもそも生産数が少なく、予約を取るのも難しいという物で、それこそ高級品リサイクルショップに持って行けば軽く数十万円の買い値がつき、学生のバザーで扱う代物ではない。
学生のバザーで数十万という値段もつけられないので、許容範囲で切りのいい、十万円の値をつけた。超、超、お買い得品だ。
………偽物じゃないかと、こういうのが好きな教授に見てもらったが、間違いなく本物だとお墨付きを戴いた。「◯◯教授 鑑定済み」である。
………何かいわくつきの、呪いの品物じゃあないかと疑って、芙蓉に見てもらったが、芙蓉は特に何も感じなかった。
そしてもう一点、十万円を付けたのがまた、問題だった…………
購入を希望する人は、
「係の者に希望の品物を言って、番号札をもらってください」
と言う事になっている。同じ人が何枚も番号札を取るのを防ぐ為だ。
バザーには外からのお客さんばかりでなく、玉女の生徒も多く来る。
「高額品コーナー」にも、
どんなのが出てるんだろう?
という興味で多くの女子が見に来ていた。
十万円のE社のハンドバッグには、
「うそー!」「信じらんなーい!」
と驚きの声が上がっていたが、十万円のもう一点には、
「?」
と、疑問を浮かべる女子がほとんどだった。
そんな中から、オシャレな……四年生が、玲緒奈に訊いた。……クリスマス前の日曜日、学校のバザーにわざわざ来るものかと思ったが、案外四年生も来ているようだ。
まあ……
(クリスマスイベントのメインはイブだろうし。就職の内定ももらって、今頃は卒論書いてる最中かな? ま、気楽な息抜きってところ?)
と思いつつ、
「はい?」
とニッコリ営業スマイル。
「これってなんなの? どうしてこんなに高いわけ?」
質問した四年生はかなり不満そうなご様子だ。
(そりゃそうだ、Eのハンドバッグ様に失礼ってもんよね)
と心の中で同意しつつ、
ど・ピンクのビニールにでかでか安っぽいロゴの入ったボストンバッグについて解説する。
「こちらのS社のスポーツバッグ、スケートボードのスーパースター、マジックGとのコラボシリーズの一つで、S社はスポーツグッズのメーカーで、通常バッグは取り扱っていないんです。そのため数が少なく、買い逃したファンが世界中にいるんです。それでプレミアが付いて、この評価額なんです」
玲緒奈自身、
(あー、バっカバカしい)
と内心では思っている。
ネットで調べた現在の取引価格は、こんなものじゃないのだ。さすがにEのハンドバッグほどではないが、元の値段を考えれば、プレミアはこっちの方が勝る。
いっしょに値札つけ作業をしていた先輩によれば、
「マニアの世界の話だから。一般人の価値観とは違うわよね」
と言うことで、
「でも、マニアを舐めちゃ駄目よ? こんな所でこれが売りに出されるなんて知れたら、それこそ世界中から殺到するかもよ?」
と言うことで、このボストンバッグの存在は絶対部外秘が言い渡されたのだった。
解説を聞いて、質問した四年生は、
「ふうーん」
と改めてバッグを眺めたが、やっぱり納得いかないような感じだった。
普通の意識高い系のオシャレ女子には、相容れない価値観だろう。
しかし他の女子たちは、自分たちでネット検索し、
「えっ!嘘っ!? これ、◯◯万円だって!!」
「えーっ、うっそー、マジい~~~!?」
と大騒ぎし、
「2番のSのボストンバッグの抽選券ください!」
わたしも、わたしも、と番号札求めて殺到した。
「はい、順番にお配りしまーす」
と配りながら、
(これ、本当に買う気?)
と思ったが、番号札をもらった女子たちは、グループになって、
「当たったらどうする?」
「高級ホテルのスイーツビュッフェでどうよ?」
と、つまり、グループの誰かが当たったらみんなでお金を出し合って買い、即、転売し、差額をみんなで分ける、又は、ぱーっと使っちゃおう!、と言うことだ。
(これっていいの? 一人で番号札たくさんもらうのと変わりないんじゃ?)
と玲緒奈は思ったが、
(ま、いっか。チャリティーだもんね、誰が買おうと、お金を寄付出来ればそれでいいもんね)
と納得した。
転売目的なら、同じ十万円のE社のハンドバックも条件は同じはずだが、こちらは何故かグループ買いをする女子たちはいなかった。
チープなピンクボストンバッグと違って、恐れ多くももったいない、という心理からかも知れない。
こちらの番号札をもらっていくのは、本当に欲しそうな、お上品なオシャレさんが多く、あのボストンバッグに不満顔のオシャレさんもこちらの番号札はもらっていった。
番号札の配布は十一時半で終了し、十一時四十五分、抽選を行い、各品物の当選者が決まっていった。
S社のボストンバッグは女子グループが当選し、キャーキャー喜ぶ彼女たちに、他の希望者からクレームがつかないだろうか?とヒヤヒヤしたが、そういうこともなく、危惧していた熱狂的なマニアは来ていなかったようだ。
各品物とも辞退する当選者はなく、お金の支払いもスムーズで、無事、引き渡しが行われていった。
E社のハンドバッグに当選したのは四年生のオシャレさんで、
「ずっと憧れてたんです。手に入れられるなんて夢みたい。ほんと、ラッキーだわ」
と喜んでいた。
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