受け継がれ燻る火
その日もミーテは空中を漂う。
(意外になかなか消えないものですね)
マイと別れて数年、意外に消えない火に驚きつつ浮遊するミーテだが最近その火が薄くなっている事には気づいていた。
そして人の死に際に何故か引っ張られる事にも。
(何なんでしょう? アニママスの本能でしょうか?)
そして運命の日、眼下に一台のバスがガードレールを突き破り崖を転がり落ちていく。
消え行く命の火に引き寄せられ気付けばバスの中にいた。
目の前の少女。額から血を流し、太ももには何か刺さっている。右手は有り得ない方向に向いていて、目に生気が感じられない。ミーテはこの子を前にして魂が震える。
他にもっと酷いことになっている人もいる、既に絶命している人もいる。逆に軽症でこのままなら助かるであろう人もいる。
(この子の魂、私に近い何かを感じる。火を継げる器。この子を生かしたい)
「生きたい?」
そう訪ねると
「私は生きたい!」
と声ではなく心で叫ばれた。
(この子の魂の火を消したくない……分かってるこれはエゴ。私の我が儘。あれだけ人の命の尊さを訴えながら最後にやることがこれなのか。
目の前の火の器を消したくないそれだけだ)
火の玉がほどける様に火の渦を巻き車内を火に包む。その燃える火は生存出来たであろう人の命をも奪う。
(たまし い あつめ このこを いかす……)
薄れ行く意識の中必死で周囲の魂を集め繋ぎ合わせる。少女の魂に縫うように繋ぎ最後に自分の魂も縫い合わせる。
(き ず あと まで けせなか た ごめ ん)
そして消えていく意識。
……
…………
………………
暖かい何かが生まれる感覚。えん? 違う何か。
……
…………
………………
激しく燃える 熱く 生きる強い意思。火じゃなく違う何かの燃え方。
……
…………
………………
目の前に火が灯る。
(あなたは?)
火が問いかける。
《? 火だった》
(僕の名前はイグニス、ご主人様に付けてもらった名前です)
《良い名前》
(はい、ご主人様の葵様より頂いた大切な名前です)
《あおい……》
それから時々イグニスは来てくれる。そして火をくべてくれる。
(あなたは、前の魔女様と前の僕なのでしょうね)
《記憶は無い。知識はある。ただの残り火》
(だとしても大切な火です。もう少しだけ教えて欲しいです。力の使い方を)
イグニスが今出来る事を伝える。
やがて時間が過ぎ嬉しそうに報告にくる。
(火の発現が出来ました。あなたとリエン様のお陰です!)
《リエン?》
(ええ水の魔女様です)
《そう》
思い出せないけどほっとする好きな名前。
しばらくしてイグニスがやってくる。
(罪悪感は消せますか?)
あおいが命を奪うことに感じる罪悪感を消したいらしい。
心や記憶を変える事は出来ない、でも魂に届く前の思いなら受け止められ緩和出来るはず。そう教えた。
(悪い方向に出ました……。ご主人様がより残酷な方法を選択してしまいました)
落ち込むイグニスを慰める。
それから直ぐにやって来た。今度は嬉しそうだった。
(前回のことをお友達のニサ様から叱咤されて思うところがあったようです)
それから色んな事を報告にくる。天使の仲間が増え、魔物の仲間も増えて魔女達とも仲良くなったと。
仲間や友達だけでなく、お母さんや日だまりや後輩なんかにもなったらしい。聞いているだけでも楽しそうだ。
そしてある時からイグニスが火をくべても私の火が弱まる一方だと気付いた。
もう残された時間は少ない。ゆっくり消えていこう。
……
…………
………………
外で激しい音がする。もうあまり意識はない。
遠い昔、聞いた音。
炎と光がぶつかる音。
力を全て出しきっているのだろう。辺りが熱く燃える。でもまだぬるい。
最後……本当に最後、きっかけだけで良い。
残りを全て燃やし尽くし私は叫び呼び掛ける。
《さいごの火をみて!》
きっかけを与えてから直ぐ戦いは終わり辺りが静かになる。
近くに火が灯る。
(僕たちを助けてくれてありがとうございました)
《うん》
それだけ答えれた。もう喋れない、消えていく。すぐ近くに懐かしい気配を感じる。
そして消える。
火は灰に代わり燻りながらも力強く燃えていく。
これからもずっと。
灰の魔女 ~アオイ日だまりへ~ 功野 涼し @sabazukikouno
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