人間界へ
「と言う訳で死んでしまったのです」
マイの目の前で火の玉が死ぬまでの経緯を何故か自慢げに語る。
「いやな、死んだ経緯は分かった。あたしを頼って来るのも全然問題ない。だが人間界に行く方法があたしには無いぞ」
火の玉はふよふよ浮かび何か考えている様に見える。
「門を突破しましょう!」
「アホか!」
「いえいえ、マイなら出来ますよ」
「あんたそんな性格だったっけ? もっとこう神々しい感じがしてた気がするんだけど」
再び火の玉はフラフラと漂い始め思考中のようだ。
「こんな感じですよ」
「あ、そう」
マイは頭を抱える。
「あの時の約束とミカを助けてくれたお礼だ。行くよ人間界」
マイの言葉に火の玉はくるくる回って嬉しそうにする。
***
「ここが天使の門の入り口か。よく知ってたな?」
「だてに長く生きていませんから場所は知ってました」
火の玉はマイの右肩に引っ付いている。ここはミーテにとって居心地が良くマイも熱くない場所だった。ミーテ曰く昔、焼いた時の力が残っているからとのこと。
「ってこのまま行ったらミーテさん光ってるからバレないか?」
「多分大丈夫ですよ。私、マイ以外に見えてなさそうです」
火の玉が2人いる見張りの天使の前をふよふよ飛んでみせるが誰も気が付かない。
「ねっ」
「ねっ、て気付かれないなら1人で行けるんじゃないか?」
「恐らくですけど魂だけじゃ通過出来ない気がするんですよね。なのでマイに引っ付いて行こうかと思います」
「さいですか。まあ、あたしも人間界に行ってみたいしな」
マイは気配を消し石を1つ投げ見張りの天使の気を反らすと1人の天使の首を締め上げ落とす。
その天使が倒れる音に気を取られてる隙にもう1人の頭を鎌の柄で叩き気絶させる。
「鮮やかですね」
「あたしは本来こう言うほうが得意なんだって。正面から戦うのは苦手なんだよな」
それからも騒ぎにならないように最低限の敵を倒し進んでいく。
「流石に門の前は多いな。あの扉開けて入れば行けるものなのか? 操作とか必要ならあたしは出来ないぞ」
「あの人。あの人ちょっと偉そうな人に見えませんか? 締め上げて聞いちゃいましょう」
「……ミーテさん無茶苦茶言うな」
赤い霧が周囲に漂い始める。慌てる天使兵に次々と打撃が加えられ倒れていく。
最後に残った1人の天使の喉元に鎌の刃先が突きつけられる。
「後ろは見なくていい、人間界に行きたい。その行き方だけ教えてもらえれば命は取らない」
怯える天使兵に操作させ出先で敵に会わない様に座標を調整させる。
「ごくろうさん」
そう言って気絶させ門をくぐるマイとミーテ。
***
「それで? ミーテさんは何がしたいんだ?」
「人間界で余生を過ごします。後どれくらい生きていられるか分かりませんけど」
「おっと死んでましたね」とか言って恥ずかしがる様にふにゃふにゃ飛び回る火の玉。
「そっか、じゃああたしの役目はここまでで良いか? あたしもこの世界を見てみたい。ミーテさんと一緒にとも考えたけど何かする事あるんだろ?」
「ふふっ、鋭いですね。何となくですけどここでやるべきことがあると思ったんです。勘でしかありませんけどね。
それよりマイ今更ですけど無理を言って申し訳ありませんでした」
「良いって、いつかあっちに戻れる日もくるさ。それより折角来たんだ、今はこっちを楽しむとするよ」
マイが白い歯を見せて笑う。
「じゃあまた……とはいかないな。ミーテさんには感謝してる。あのとき出会わなければミカは死んでいたからな」
「お役に立てたみたいで何よりです。次は会えないでしょうけどマイの肩に思念みたいなのは残しておきました」
「えぇ!? なんかこえーな」
マイが右肩を触る。
「ふふっ、それではお別れです」
「あぁ、じゃあな」
この後ミーテは東へ向かって浮遊。
マイは宮崎から大分へと山沿いを移動していく。
余談ではあるがマイは宮崎の山で狩りをしながら移動中、素手で狩りをする少女を見たと言う噂が立つ。
その移動中に熊に襲われるお爺さんを助けてしばらくお世話になる。
そこから若い者は上京した方が良いと言うお爺さんの勧めで大分の町に降りて電車に乗ろうとした。その際、駅のホームでミカと鉢合わせる事となる。
今でも猪や熊を素手で倒す野生の少女が出ると言う噂が地元の人の間で話題になるとか。
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