明日へ向かって
髪の色は黒いままだが表面が燃え始める。火の粉が舞うのをやめ周囲に火が揺らめく。
手足の火も沸々と燃えるのではなく激しく燃え時々燃料を投下したように火の勢いを増す。
炎と言うより太陽の様な火の勢いに近い。
「あれはなんですかぁ、あの燃え方ってまるで……」
「えぇ、ミーテの燃え方ね」
葵を遠巻きに見ていたノームとリエンが呟く。
リエンの瞳がいつもより潤んで見える。
***
(あ おい……イグ……ニス ひ もやし……て なか から)
声に引っ張られる様に炎が激しを増していく。
「この声の感じはバスのときと同じ……ミーテさん?」
(間違いなくそうだと思います。なんでしょうこの内から燃える様な感覚)
「なにさ、こんな土壇場で覚醒とか出来すぎでしょ!」
ケルンからおびただしい数の閃光が放たれる。
私にミーテさんの火が宿ったとはいえ足の怪我が治った訳ではないのでふらつきながら立っている。
頭の中にミーテさんがどうやって炎を動かしていたかぼんやりイメージ出来る。
左手を振ると地面から宙に向け炎の波がうねり閃光を飲み込み燃やし尽くす。
その炎の波を掻き分けケルンが剣を構え突っ込んでくる。その剣を炎の剣で受け止めた訳だが左足の踏ん張りが効かず左手に炎の杖で倒れないように体を支える。
「左ががら空きだって!」
左肩から炎の羽のようなものを出し振り下ろされる剣を受け止める。
それをも嘲笑う様に蹴りが私の頬を切る。
そのままケルンが空中で回ると足についた光の刃が右肩に食い込む。
ニヤリと笑うケルンの足が私の肩ごと切り落とそうと動いた瞬間ケルンの右手、右足が吹き飛ぶ。
「な、砂!? ノームかぁぁ」
手足を失い地面に転がるケルン。
「あいつ! 切った時砂を入れやがったなぁぁあ、くそがあぁぁぁ!!」
(ご主人さま! ここで決めます!)
イグニスの声で目の前で起きたことに意識を戻すことが出来る。ケルンの手足を砂が切断されている。ノームさんが手を出したのは明白だがここで意地は張れない。
なぜなら私に限界が近いのを感じているから。
右手に小さな火を生み出す。ろうそくの先で燃えるような小さな火。暖かくて優しい火。
でも優しさの中に一度燃えれば全てを焼き付くす激しさを秘めている火。それは炎になる。
地面に炎の滴が落ちる。水面に落ちた滴が跳ねるような軌跡を見せると太陽のフレアの様な、もはや炎とは言えないようなうねりがケルンの体を飲み込みその存在を蒸発させる。
それはまさに刹那の出来事だった。その刹那の中ケルンの口元が笑った。
「
声は聞こえないけどそう口が動いた気がした。
意味は分からないけどただ私が限界なのは分かっていた。
そして意識が遠くなりゆっくりと倒れる。
(いきて……ね……)
はっきりとそう声が聞こえた。
……………
…………
……
(ご主人さま! 起きて下さい)
(んーー? イグニス?)
イグニスに内側から起こされる。内側から覚醒する、変な気分だ。
ゆっくりと目を開ける。
「あら? もう起きたのね。体の調子はどうかしら?」
目の前にリエンさんの顔がある。ゆっくり状況を確認する。どうやら膝枕をされているようだ。
起きようとするが頭を押さえられて動けなくなる。
「よく頑張ったわね葵ちゃん」
そう言って頭を撫でてくれる。
「私、結局1人じゃ何も出来ませんでした。ノームさんやリエンさん、ミーテさんに助けられて……」
話しているうちに涙が溢れてくる。
「葵ちゃんは立派に戦ったわ。そう、それは灰の魔女として立派だったわよ。ねえノームちゃん」
「そうですぅ、後輩お前はよくやったですぅ。ノームが誉めることなんて滅多にないから誇りに思いやがれですぅ!」
2人に言われ溢れた涙がボロボロ落ちてくる。
「悔しいのは分かるけど葵ちゃんは今からが大変よ。ここからが灰の魔女の本当のお仕事。なにせ皆の日だまりになる約束があるでしょう」
「はい……」
リエンさんが涙を脱ぐってくれる。そのまま優しく頭を撫でてくれる。
「今日は弱くとも明日にはちょっと強くなっていれば良いの。さあ立って涙を拭いなさい。
そんな顔じゃ皆が心配するわよ」
私はノームさん手を借りて立ち上がる。
ぼやけた視界を拭い前を見る。
進もう明日へ向かって。
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