終章

エピローグ

「ミカ様、今日のお茶はエルフの村産の茶葉を使用しています」


 テーブルの上に用意された品の良いカップにお茶が注がれる。

 フワッと良い香りが舞う。


「ありがとうコル。こっちのお菓子も魔界の森から?」

「はい、そちらはシベリ族の新作になります。そちらのカップも森のドワーフの作品ですよ」


 コルが満面の笑みで答える。


「へぇ~森の人たちも凄いなぁ。天使も負けてられないね」


 カップを掲げてミカが関心していると、ドアが開きカノンが入って来る。


「ミカ様、今日の予定ですけど民との対話が3件入ってます、その後、ソフィー様とタイス様とそれぞれ会議が入ってます。その後は魔王様を招いての会議となっています」


「うえーーーーカノンそこに私の休憩はどこに挟めば良いの?」

「今されてるじゃないですか」


 カノンがなに言ってんのみたいな顔で答える。


「いやいや、私一応この国の女王な訳。その態度はどうかなカノン」


 ニコニコしながらカノンが答える。


「はい、民からも親しみ易い女王だと評判ですよ。それに女王になったからって気を使うな! って言ったのミカ様じゃないですか。

 私は実行しているだけですよ」


 ミカが頬を膨らませ不満を精一杯表す。


「そう言えば今日もあの子来てましたよ。

 灰の魔女の弟子になりたいから紹介してくださいって」


 カノンが思い出したように言うとミカは頬を掻く。


「キュイだったけ? 葵も忙しいからね。帰ってきたらもう1度葵に聞いてみようかな」

「ええ、それが良いと思います。葵さんはみんなから愛されていてますね」


 ミカとカノンが笑う。


「おや、相変わらず楽しそうだな。ミカ様これを」


 ドアが再び開くと、サキが入ってきて手紙をミカに渡す。


「あぁサキ、ありがとう。ところで右手の調子はどう? リエンさんはなんて?」


 サキは右手を握ったり開いたりしながら答える。


「刀を握るような握力はありませんけど大分マシになりましたよ。

 リエン様が言うには長い年月をかければ治るかもと」


「そうかあ、治ると良いんだけど……」


 ミカが申し訳なさそうに答える。


「ミカ様がそんな顔しなくても良いですよ。

 トリスとの戦いで折れたまま腕を振り回したのが原因なんですから。

 それよりも復興の件ですけど町の東側、ノーム様に更地にしてもらいました」

「ああ、ありがとう。あそこの住民の移住も完了したし、これで復興に向けて進めれるね」

 

 お茶を飲んでいたカノンがカップを置き会話に入ってくる。


「あの戦いで人口の3分の1は失いました。

 ソフィー様がアリエルの作戦に対して魔物に対抗する兵を配置していたとは言え、全てに対処は出来ませんでした。

 悔しいですが、ほぼアリエルのシナリオ通りになったと言って良いでしょう」


 珍しく感情を出し悔しそうにするカノンをミカがたしなめる。


「あのとき出来ることは精一杯はやったよ。

 今ここで、まだ方法があったんじゃないかって言っても結果論でしかないよ。

 現状を見て今出来る事をやるしかないって。何が正解なんて分かんないんだよ。


 ただアリエルの時と違うのは、天使と魔物、魔女の仲が良好だってこと。これ結構前向きになれる理由になると思うんだけどそう思わないカノン?」


 ミカが言い終わると同時にコルがミカに抱きつく。


「ミカ様、今の格好良かったです! コルは感動しました!」

「おお! そう? なんか葵のパクリっぽいとか思ったけどそんなに良かったかな?」


 コルに抱きつかれ喜ぶミカを見てため息をつきながらも笑顔に戻るカノン。


「過去を知ることは大事ですけど、今を見ないと未来は作れませんからね。ところで私が持ってきた手紙をそろそろ読みませんか?」


 サキの言葉でミカが慌てて手紙を取りだし読み始める。


 ミカの顔が曇る。


「なんて書いてあるんですか?」


 カノンの質問にミカは手紙を握り潰し答える。


「ダルい! 副魔王が行く。よろしく! だってあいつめ!!」


 ミカが吠える。


「あーーそれは釣りに行ってますね」

「釣りだな」


 カノンとサキの意見が一致する。


 ***


 クシュン!


「おやおや、風邪ですか? マイ様」


 フクロウの姿をしたミミ族のラバッシュが木の枝で寝転ぶマイに訪ねる。


「あーーいやあれだ、ミカが噂って言うか怒ってるんだろうよ」

「行かなくて宜しかったのですか?」

「あぁ今日は良いだろう。ロゼッタの方が交易の駆け引きは得意だろうし本決めの時はあたしもちゃんと行くさ」


 体を起こし枝に座る。


「では今日はどうお過ごしで?」

「そうだな、とりあえず釣りは外せないとして、メイのところに行ってくるのと、森の奥へ行ってリエンさんに浄化の進行具合と様子訪ねてくるわ」


 そう答えるマイを見てラバッシュが涙を拭うような仕草をする。


「マイ様も立派になられて、初めは仕事をせず釣りしかしないからどうなるかと心配してたんです」


「おい! 何気にディスってないかそれ? あたしそれなりにやってたぞ!

 それにあれだ、葵との約束だからな。あいつ怒らせると怖いんだって」

「ほう? そうですか? いつもお優しい方ですが」


「ラバッシュさ、葵の炎の力を見たことないのかよ。

 あれはあたしなんか一瞬で消し炭だぜ。それを見せられた後に「ちゃんとやってね」とか言われたら従うしかないだろう」


 そんな風に語るマイを見てラバッシュが疑いの目を向ける。


「それは嘘ですよね? あの方がそんな事するとは思えませんが」


「ちぃ、ばれたか。炎が凄いのは本当だけど、あんな優しい魔女はいないよ」


 マイは立ち上がり枝から飛び降りる。


「じゃ! 行ってくるわ、後よろしくな」


 ***


「はぁ~~今日も疲れたですぅ」


 ノームがテーブルにうつ伏せになる。


「ふふ、お疲れさまノームちゃん」


 テーブルに紅茶とジュースが置かれる。


「おぉ! このジュースがこんなところで飲めるようになるとは感激ですぅ!」


 ノームがジュースを飲みながら目を輝かせる。


「葵ちゃんのお陰よ。感謝するなら今度お礼を言ったらどうかしら?」

「そうするですぅ」


 ノームがジュースをごくごく飲んでいると、ノックする音がして玄関が開きアイレが入ってくる。


「こっちに葵はいないかい? ちょっと頼みがあるんだけど」

「あら? アイレ。葵ちゃんなら人間界に行ってるわよ」

「メサイアとお買い物ですよぉ。羨ましいですが、今度はノームの番ですぅ」


 ノームは嫉妬半分楽しみ半分な表情をコロコロ変えて忙しそうにしている。


「そうか、まあ、また今度で良いか。帰ったらメイのところにも行ってやってくれって伝えておいてよ。あの人、葵が、葵がってうるさいのさ」


 アイレが笑いながら言う。


 ***


 クチュン


 太いふさふさの尻尾がピーーンと立つ。


「なんぞ、わらわの噂をしておるやつがおるの……マイか!

 あやつめ次にあったらビシッと言ってやるのじゃ! 魔女の威厳を見せてやるのじゃ」


 メイは昼寝をしていたのであろう寝癖を後ろ頭と尻尾に作り布団の上で威厳を見せる練習を始める。


 ***


「ねえ、お母さん今日はおばあちゃんの命日なんだよね? 命日って何?」


 母親と娘が手を繋ぎ歩道を歩いている。


「それはね、その人が亡くなった日のことよ。朱華しゅうかは難しい言葉を知ってるね。偉いねぇ」


 母親に頭を撫でられ朱華と呼ばれた女の子は嬉しそうにする。


「しゅうかはお勉強好きだもん、お墓に行ったら、ちゃんとおばあちゃんにおてて合わせるよ」


 母親は娘の姿を微笑ましく見ながら手を引く。


 お墓に着くと誰かが先にお墓参りをしているようだった。


 近づくと3人いるのが確認出来る。2人は外国の人だろうかブロンドの髪が日に照らされキラキラ輝いている。


「ねえ、お母さんあの人達だれ? 知り合い?」

「誰だろう? お母さんは知らないなあ。おばあちゃんの知り合いかもね」


 お墓に向かって目をつぶり手を合わせていた女の人が目を開きこちらを見る。

 

 目が合う。


「あ、葵お姉ちゃん!? いやでも……その姿は」


 母親は動揺する。


「?」


 女の人は不思議そうな顔をする。


「あぁごめんなさい。昔いた私の従姉妹いとこのお姉さんにそっくりだったのでつい。

 私は柳田やなぎた 里果りかといいます。この子は娘の朱華です」


 里果と朱華がお辞儀をする。


 女の人は少し驚いた顔をしたがすぐに微笑みながら自己紹介をする。


「私はひなみ みかです。この子は娘のメサイア、こちらがニサです」


 みかのお辞儀に続き2人の女の子がお辞儀をする。


「里果さんよろしければ、たちばな 奈保なほさんの事教えてもらえませんか?

 生前お世話になったのですけど、外国での生活が長くて久々に帰ってきたら亡くなったと聞いて驚いてたところなんです」


「あっ、はい良いですよ。私の母は3年前に亡くなりました。63歳でした。

 最後は病死になりますが穏やかに息を引き取りました。

 本人は良い人生だったと亡くなる前に言ってましたがただ……」

「ただ?」


 みかが真っ直ぐ真剣な目で見つめる。


「母のお姉さん、私の叔母さん夫婦を事故で失ったのですが、その娘である、葵お姉ちゃんの事を最後まで気にしてました。最後に一目会いたかったと。

 

 あ、えっと葵お姉ちゃんとは私の従姉妹のお姉さんで、事故の後、母があずかり、えーーとその、高校生の時に失踪したんです」


「失踪……やっぱり心配してましたか?」

「え、えぇ凄く心配してました。当時はあの事故の最後の生存者が行方不明になったのですから世間でも話題になりまして、その対応でも大変みたいでした。


 でも、母は葵お姉ちゃんはちゃんと生きて頑張ってると言ってました。

 何でも失踪する前に電話があったそうなんですけど、その時の口調から思い詰めたと言うより、何か決意した感じだったと。

 だから元気に頑張ってるって信じてました。


 世間からそれが自殺をする前の最後の電話だ! って言われても、あの子は命を粗末にする子じゃないと、そう言って笑って否定してました」


 みかが目の涙を拭い微笑む。


「ありがとうございました。

 里果さんとお会いできて、お話が聞けて良かったです。

 それでは私達はこれから行くところがありますので、これで失礼します」


 帰り際にみかが朱華の頭を撫でて3人がお辞儀をして去っていく。


「おばあちゃんの知り合いって外国にもいたんだね。そんなこと一言も言ってなかったのに。お母さんビックリしちゃった。

 あの2人の女の子、髪も綺麗だけど、目も凄く綺麗だったよ。まるで天使みたいだったね……? 朱華どうしたの?」


 朱華がみかに撫でられた頭に手を置いて不思議そうな顔をしている。


「ねえ、お母さん。今お姉ちゃんから「里果ちゃんの小さい頃にそっくり」って言われたよ。里果ちゃんてお母さんだよね?」

「!?」


 ***


「ねえ葵、ちゃんと言わなくて良かったの?」


 ニサちゃんが聞いてくる。


「言えないでしょ、日向 葵ですとか。あれから20年だよ。魔女になって帰ってきましたとか言うの?」


「それってダメなの? メサイアはおかしくないと思うけど」


 我が娘が不思議そうな顔をする。


「人間は年老いていくものなの。昔と変わらない姿で現れたらビックリしちゃうんだよ」

「ほーーメサイアはまた1つ利口になった」


 自慢気に笑う娘を撫でる。


 そんな様子を羨ましそうに見るニサちゃんの頭も撫でる。


「いやいや、私は撫でてほしいとか思ってないって」


 必死でニサちゃんが否定する。


「ニサちゃんも天使の社会から距離置いたんでしょ。今私の手伝いしてくれてるけど、この際娘にでもなる? ニサちゃんなら歓迎するよ」


「む、娘!? そんな魅力あ、いえ……」

「むふふふふ、ニサはメサイアの妹だ! メサイアお姉さんと呼ぶが良い!」


 超上から目線で娘が言い放つ。


「な! なぜ、ニサが妹なんですか。メサイアの方が年下でしょ!

 どっちかと言うとニサお姉さまと呼びなさい!」


「むーーーー」


 2人が顔を合わせ睨み合う。


「はい、はいそこまでね」


 私が2人の間に入って引き離す。


 ニサちゃんが咳払いをする。


「わたしは友だちのままで良いわ。そっちの方がお互い言いやすい事もあるでしょう」

「だね、頼りにしてるよニサちゃん」


 ニサちゃんの背中を軽くパシパシ叩く。


「いたたた。痛いですって。なんか葵、マイとかアイレ様に影響されてない?」


「そ、そう? 気を付ける。

 よし! 今回の目的を果たしに行くよ! まずはごはん食べよう。ニサちゃん何にする?」

「カ、カレー! カレーでお願いします!!」


 既にヨダレを垂らしそうなニサちゃん。


 娘を抱き締めて

「メサイアも一緒にカレー食べよう。その後はお待ちかねのお買い物タイムだよ!!」

「おーーーー! メサイア買う、バシバシ買う!」

「バシバシ買いなさい、何せ20年待たしちゃったしお金は天使の方から(主にミカから)支給されたから安心していいからね」

「わーーい! お母さん最高!!」


 抱きつく娘とカレーしか考えていないニサちゃんを引っ張って町へ繰り出す。




 これから私は永遠に生きていく、大変な事はあるだろうけど、後悔や失敗をしながら幸せに生きて行こう!!


 私は灰の魔女でみんなの日だまりを目指し生きていくんだ。みんなとなら絶対やれるんだ!!

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