メサイア VS マズルカ

 メサイアはマズルカのハンマーの衝撃を避け、住宅地の小さな広場に立つ。


「むっ くる」


 広場の近くの家の壁を突き破ってハンマーがメサイアめがけて振られる。

 その大振りな攻撃を空中に飛んで避ける。


「おれの相手はお前か。変な格好だな」


 バカにしたマズルカにむっとした顔をするメサイア。


「むっ メサイア この格好に誇りを持つ バカにするお前 倒す! エゼグィーレ」

 

 斧をマズルカに向け宣戦布告する。


「はん! チビが調子にのるなよ」


 そう言ってマズルカが先行で攻撃を仕掛ける。


 マズルカの攻撃は大胆で大振りに見えるが、柄の長いハンマーと短いハンマーを使い分け、間合いを変えて攻撃をしてくる。

 

 マズルカに比べ体格的にかなり小さいメサイアにとっては、牽制の意味が強い接近の攻撃でさえ致命傷になりかねない。


「どうしたチビ、威勢よく言ってた割りに何も出来てないじゃねえか!」


 ハンマーが振り下ろされ地面にヒビが入る。その攻撃をメサイアはかわし後ろに下がって間合いをとる。 


「スピードはあるみたいだな。ちょこまかとうっとうしいし、とっとケリをつけさせてもらうぜ」


 マズルカは左目の眼帯をとり瞳孔に赤い光を灯し始めるとメサイアを見てニヤリと笑う。


 一瞬で間合いを摘めるとハンマーが横に薙ぎ払われる。それに反応出来たのはノームから渡されたアニママスのお陰だろう。

 体制を反らし斧で受け流そうとするが斧が弾かれ飛んでいく。

 マズルカはハンマーを振ったまま1回転し、勢いを増し2撃目を繰り出してくる。

 メサイアもとっさに次の斧を召喚し刃で受け止めようとするが吹き飛ばされる。


 民家の壁を突き破り建物が崩壊し始める。瓦礫の下敷きになるメサイアにマズルカは瓦礫ごとメサイアをハンマーで叩きつける。


「この辺か! まあ全部叩き潰せば何処かなんて関係ねえけどな!」


 容赦なくハンマーを降り降ろす。


 メサイアは2撃目の瞬間、斧に音波を宿すことで衝撃を和らげたものの斧の刃は欠け、自身も骨折していないのが不思議な位ボロボロになっている。

 地上でマズルカが振り下ろしているハンマーの衝撃を瓦礫の隙まで2本の斧に音波を宿し、正面の大きな瓦礫に突き刺し音波を纏わせ衝撃を和らげる盾にしてなんとか防いでいる。

 おそらくマズルカはメサイアに恐怖を与えるために楽しんでいるだけ。フェアデルプとか言うピストンがついたハンマーを振られたら終わる。


「むっ 癒しの光」


 斧を両手に持ちながら、回復を試みるが手が使えないので効果が今一つだ。


「むぅ このままだと まずい……」


 どうすれば良いか、答えは持っている。今出来るのは魔女の力を発現させること。


 アニママスをもらって2日しかなかったが発現させようと何度も練習した。葵から内側から力を込めて一緒に頑張ろうって話しかけると出来たと聞いて真似してみたが出来なかった。

 ノームにアニママスの名前を聞いて呼びかけたりしてみたが声は聞こえない。

 天使の魂にアニママスは宿らず自我が芽生える前に取り込まれてしまうから声が聞こえないのは当たり前らしいけど、なんか寂しい。


 葵と出会って色々な話をした。自分でも依存し過ぎじゃないかって感じてる。家を開けることの多かった母、死んだ後引き取ってくれた人。

 愛情を受けたことなんてなかった。いやあったのかもしれないけど覚えていない。

 300年生きて今さら母を求めるのはおかしいのかな?


 人と関わりたくないし、変わった格好をして、言葉足らずなメサイアを皆が避ける。

 ニサとカノンは話をしてくれるけど、メサイアの話を最後まで聞いてない気がした。


 葵はメサイアの言葉を最後まで真剣に聞いてくれる。必死で話すメサイアに嫌な顔もせず優しく微笑みながら頭を撫でて聞いてくれる。

 お母さんってこんな感じなのかな?


 葵とずっと一緒にいたい。

 メサイアはこの戦いに行く前に葵に聞いた。メサイアはこの戦いが終わったら葵と洋服を買いに行くのが楽しみで仕方ない。

 戦う理由が葵と一緒にいたい、お買い物に行って沢山遊びたい。それは理由としておかしいのかと。


 みんな森を守ったり、天使の人間界への進出を防ぐとかちゃんとした理由があるけど、天使の立場に興味もないし、葵の助けになりたい位しか理由を持っていない。助けになった後葵と一緒にいたい。それが理由。


 自分勝手な理由。

 そんな話でさえ葵は真剣に聞いてくれた。


「戦うってことは命かけるってことだよね。命をかけて自分のやりたいことをする理由に立派とかそうじゃないとか関係ないと思うけど。

 周りからみたらどんなに小さな理由や大したことない理由でも私はおかしいとは思わないよ。

 良いんじゃない、メサイアちゃんが思うようにやれば、人を笑う方がおかしいんだよ。

 人が一生懸命生きる理由に大層な理由なんていらないって私は思うけど」


 葵の言葉が頭の中で再生される。


「メサイアはわがまま、自分勝手、それでも生きて、やりたいことをやる!」


 斧を持つ手に力を入れる。


「たっく、手応えないな。飽きてきたし、めんどくせぇまとめて叩き潰すか」


 マズルカが前に出た瞬間瓦礫が吹き飛ぶ


「へぇ~、良い面構えになったじゃんか」


 マズルカの前には右目に淡い茶色の光を宿し、羽も薄い茶色に光るメサイアが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る