日だまりの森と魔王の誕生
夕方になるとドワーフやエルフ達がたどり着いた。その中にサキさんがいた。
「葵、灰の魔女の影響力は凄いな。今晩の発表楽しみにしてる」
「え、えぇ頑張ります」
サキさんにそう答えるしか出来なかった。後は流れに任せしかない。
そんな私の横から申し訳なさそうにニサちゃんが出てくる。
「サキ様、お体の方は大丈夫でしょうか?」
「あぁ、まだ全快では無いけど動けるようにはなった。それにしてもニサの技は効いた、強くなったもんだな」
「うぅ、申し訳ないですわ」
「いや、お互い全力で戦った結果だ。気にしなくて良い」
サキの話す様子を見てニサちゃんは思うとこがあったのか意を決して聞いたように見えた。
「サキ様、こんな事言うのは失礼ですけど何かありました?」
「何か? いや別になにもないが」
「いえ、前より喋られるので気になっただけですわ」
「そうかな?」
不思議そうなサキにメサイアとカノンもニサの意見に続く。
「むっ サキ様 表情 明るい」
「そうですね。良い顔されてます」
「メサイアやカノンまで言うならそうなのかな?」
サキさんはまだ分からないなって顔をしているが、こうも皆に言われるならそうなのかと考え込んでいるようだ。
4人の話を聞いているとヤエちゃんが飛んでくる。
「葵様、舞台の準備が整いました。皆さんお待ちですのでどうぞ。天使の方々も一緒に来て頂けますか」
「ん? 舞台?」
「ええ、灰の魔女様の重大発表の舞台です。魔界の森の革命が起きると皆さん待ちきれない様子です」
「あーーなんか話が大きくなってる」
私は頭を抱える。
ヤエちゃんに案内され広場へ行くと、それはまあ結構な人達がいて、私の姿を見つけると村の広場が震えるほどの歓声と「灰の魔女様」コールが起こる。
これはかなり恥ずかしい
半場やけくそで舞台に上がる。
舞台には既にソフィーさんをはじめとした天使達、メイさん達魔女、舞が立っていた。
私は舞台の中央に立たされる。会場を見回す、知ってる顔もあるが知らない顔の方が多い。
それにしても魔物と言うだけあって皆姿形が全く違う。人に近い者も居れば動物に近い者やその中間の者。人間も色んな人種がいるって言うけどそんなレベルじゃない。
だってシベリ族みたいに犬にしか見えない魔物もいるけど、話すときは1人としてあつかっているからもう人種なんて枠は越えている。
ソフィーさんから丸い玉を渡される。不思議そうにしている私に説明してくれた。どうやらこれはマイクみたいなもののようだ。
「えーー、皆さん灰の魔女 日向 葵です」
ワーーーーと耳が痛くなるような歓声が上がる。
「今日お集まり頂いたのはえっと……」
「葵、普通に話したら? 変にかしこまらない方が良いよ。魔女なんだし誰も文句言わないって」
私が緊張で言葉に詰まっていると、ミカが小声でアドバイスをくれる。
深呼吸をして再び話す。
「今後、私灰の魔女が魔界の森の東側を支配することを宣言します!」
うおぉぉぉぉ! と歓声が上がる。
因みに「管理」って言うつもりだったが、直前にメイさんから「支配」と言うのじゃと釘をさされて変えたのだ。結果喜んでくれてるみたいだから良かったのかな?
「そこで、私の支配する森の名前を決めたいと思うんだけど何か良い名前はあります?」
獣人の一人が手を挙げて提案する。
「灰の森はどうでしょうか? 庇護を広げれば灰の森も広がる良くないですか?」
「うん、やめよう。灰の森が広がるのはなんか縁起悪いよ」
獣人が残念そうな顔をする。とりあえず誰もが1度は考える「灰の森」を却下する。
その後も色々意見がでるが今一つ。なんだろう私に寄りすぎだ。
皆一旦、灰の魔女から離れようか。
話が煮詰まりかけたとき一人の獣人の男の子が手を挙げる。皆の注目が集まる。視線を集め凄く緊張した様子で必死にしゃべる。
「えっと、ぼく森で他の魔物に襲われたとき灰の魔女様に助けて頂きました。凄く強くて一瞬で相手を倒したんです。
凄く綺麗で凄く怖かったです。で、でもそのあと「だいじょうぶ?」って笑って頭撫でてくれたんです。その……他の魔女様達と違って偉大で怖いだけじゃ無いって言うか……手が暖かかったんです。日向ぼっこしてるときみたいに気持ちいい暖かさだったんで、だからえっと……」
必死過ぎて忘れたのか言葉に詰まってしまう。
森で魔物倒して結果的に助けた事はあったけど、私そんなに怖かったかな。と言うか他の偉大で怖い魔女様からの圧が凄い……
「そう、私を助けてくれた火の魔女の手もポカポカしてお日様みたいだった……とても優しくて、暖かい日だまりのようなずっとそこにいたくなるような暖かさだったなぁ」
ミカが呟く。
ソフィーさんが続く
「日だまりの森でどうでしょう?」
メイさんも納得した様に言う。
「良いと思うのじゃ、火の魔女ミーテを継ぐ者が支配する場所としてふさわしい名前と思うのじゃ」
なんか恥ずかしいけど明るい感じだし良いかな。
「今のきみ! 『日だまりの森』にしようと思うけどどうかな?」
発言してくれた男の子が笑顔で頷く。了承してくれたみたいだ。
「じゃあ、今から『日だまりの森』で決定!! みなさん良いかな?」
歓声を上げる人や頷いてる人しかいないので名前は決定。
「そして次、この日だまりの森に管理者を任命したいと思います」
皆が再び、どよめく。
「実はもう決めていますので紹介致します!」
皆の注目が私に集まる。学校でもこんな注目される経験したことないけど、ここまでくるとなんか楽しい!
「日だまりの森の管理者、略して魔王さんは 舞さんです!!」
「へ?」
全然聞いてないって顔でぽかーーんとする。舞のあんな顔は始めてみた。
「いやいやいや、おかしいだろ! なんだよ略して魔王ってどこ略しても王とか出てこないぞ! ていうかなんであたしが、周りを見ろ皆納得してないって」
周りを見る、まあ正直大半が誰あの人って顔してるし、納得はしてないかな。
そんな舞の周りに舞台の上の人が集まってからかわれてる
「よろしくな、魔王」
「いや、やめてくれよ、アイレさんのがよっぽど魔王に向いてるって」
アイレさんにつつかれメイさんがニヤニヤしている。
「むっ ビリビリ魔王」
「今度から舞魔王ってよびますわ」
「マイ魔王、なんかカッコイイね!」
天使の方々からも祝福を受けているようだ。楽しそうで何より。
森のみんなは納得していないようだが私には魔王は舞だと決定させる言葉がある。
「皆さん、魔王のお仕事について説明致します。
まず、日だまりの森の皆さんが日常で困ってること、こうして欲しいなどの要望、意見を集め私灰の魔女に伝えます。
これは私に直接言いづらい意見なんかも、匿名で魔王に代表して伝えてもらうことで小さな意見も拾えるんじゃないかなって思ったからです。
それと天使の方と魔女の方との調整も担ってもらいます。この事を踏まえて、舞を魔王に任命致しました。
この舞台の舞を見てください、魔女と天使に臆することなく仲良く話す姿を! これが出来るのは舞だけです!」
アイレさんに肩を組まれからかわれ、メサイアちゃん達に突っつかれる魔王の姿がそこにはあった。
再び皆を見る。皆納得してくれたような顔をしている。まあ、あのポジションは普通に無理だし嫌だよね。
「じゃあ、魔王は舞で決定! 流石に1人だと大変なんで、秘書にミミ族のラバッシュさんと副魔王にシベリ族ロゼッタさんを任命致します」
拍手が起こる。
事前にヤエちゃんに情報収集させた完璧な人材だ。
後ろから「副魔王ってなんだよ!」みたいな声が聞こえるが無視だ。
「では私の日だまりの森を支配する宣言と、代表者が決まったところで皆さんにお願いがあります」
みんなが再び注目する中、私は話し始める。
「3日後、一部の天使と戦う事になりました。大きな戦いになる可能性があります。
詳しい作戦はこの後伝えますが、まずは皆さんの命を優先して下さい。逃げることは恥ずかしくありません、生きて下さい。
それともう1つ、戦うのは一部の天使です、ここに来ている方のように理解ある天使の方が沢山います。
この戦いで森に逃げてきた天使がいたら今回だけで良いので助けてあげて下さい。
日頃敵対してくる天使もいるでしょうけど、今回は彼らも被害者になると思います。勝手なお願いですけどお願いします。
もしそれで皆さんに天使が危害を加えることがあれば私に言ってください、それは責任もって消します!」
途中までは怪訝な顔をしている者もいたが、私が責任を持つと言って納得してくれたのか、皆分かったと頷く。
***
「はぁぁぁ疲れたーー」
あんな大勢の前で話したこと学校でもないや、なんか最後の方気持ちが高揚して「消します!」とか言ったけど、今思うと恥ずかしいな我ながら。まあ、皆納得してくれたみたいだから結果オーライだ。
そんなやりきった私に舞が何か言いたそうに近づいてくる。
「あ、魔王さんお疲れさま」
「葵、おまえな……あたしは役にたたないぞ。管理者とか無理だって」
ちょっと怒った感じで言う舞。サプライズで発表したことに罪悪感を感じてしまう。
「急に発表したのはごめん。でも舞しかいなかったんだ。住みやすい森を目指してみるから手伝って欲しいなって」
舞は私の言葉を黙って聞いている。
「戦いが終わった後の事を考えて行動した方が良いって、メイさんやソフィーさんに言われたんだ。
私なりに考えて舞とミカと私ならそれぞれの立場を理解して行動出来るかなって思ったんだよね。だから森を舞がみてくれれば嬉しいんだけど……だめ?」
舞は深いため息をついく。
「……それって、聞いたら絶対断れないやつだ。やれるだけやるよ」
「うん、ありがとう」
支配するって宣言したからには責任持たないと、覚悟してくれた舞に申し訳ない。そう改めて決意する。
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