雷の魔女
私達はミケ族の集落を出発して天使の町へと向かっていた。
ヒヨ族とシベリ族の女性による地図も大分出来ていておよその方向は分かる。
それにシベリ族の男性による道案内やヒヨ族の空からの偵察、そして夜にはミミ族と言うふくろうみたいな種族によって案内と夜営の見張りをお願いする完璧な旅をしている。
ただそれも森の中央付近まで、魔界の森は恐ろしく広い。地図が作成出来ているのもそこまでだ。
それに今把握している種族達のテリトリー外になるので、そこからはヒヨ族、ミミ族頼りで進む事になるはずだ。
「後、3日もすれば森の中央付近までいけるはずだよ」
夜営で料理をしながら私は話す。
因みに野菜とお肉のスープに魚の蒸し焼きが今日のメニューだ。
これも、魚人族、エルフとダークエルフ達からの食材をドワーフ族が作った専用の運搬樽に入れ、シベリ族が運んでくれるお陰で充実した料理が作られている。
更にシベリ族の女性が作ったジュースも運ばれてくるから快適な旅が出来ている。
「はぁ~わたくし達が獲物を狩りさばいて肉を食べていた時に比べなんと充実した食事かしら」
充実した食材を目の前にしてニサちゃんはため息をつく。
「わらわにもそれとってくれんかの?」
そう言われニサちゃんがスープをよそおい手渡す。
「あーあー、メサイアちゃん顔についてるよ」
私はメサイアちゃんの口周りを拭く。嬉しそうにするメサイアちゃんに対しニサちゃんが怒る。
「メサイアわざとやって、葵の気を引こうとしてますわね!」
「むっ そんなことは ない」
2人がなにか言い合いながら小競合いをしている。
「ほう、この飲み物なかなか美味じゃな。葉っぱを煎じた物とは違って、これはこれで美味しいのう」
「だよね、シベリ族の人達が作るジュース美味しいよね」
シベリ族のジュースを誉められ私も嬉しくなる。
「あたしにもスープくれよ」
「ほい、熱いから気を付けるのじゃ」
「あぁ、ありがとう」
舞がスープを渡され美味しそうに飲む。
…………!!??
「誰?」
私は叫ぶ。
「なんじゃ、反応が遅いのう。このまま朝まで行くつもりかと思うたのじゃ」
金色の髪に着物姿、メサイアちゃんと同じぐらいの年齢? 特徴はなんと言っても狐の耳と尻尾。この姿でそのしゃべり方あざとい……
「なんじゃ、わらわの顔になんか付いてるかの?」
「あっいえ、可愛いなあと」
大きな尻尾がふぁさふぁさ大きく揺れる。喜んでる?
「ほう、お主見所があるのう。新人の魔女はそれぐらい謙虚な方が良いぞ」
「新人魔女? と言うことは貴女も魔女なんですか?」
「わらわは雷の魔女、メイじゃ宜しくな」
「私は灰の魔女 日向 葵です。
で天使のニサちゃんとメサイアちゃん。魔物の舞です」
突然の自己紹介に慌てて、簡単な紹介を済ませる。
「主ら賑やかなじゃな。わらわは好きじゃぞそう言うの。
今から食事も御馳走になるし、食べ終わったら運動もするのじゃ」
「運動?」
「鈍いのう、わらわと戦えと言うことじゃ」
戦う? 突然出てきて、突然戦うとか物騒な事を言い出す狐の女の子、いや雷の魔女メイさん。
「葵、お主は魔女と戦ったことなかろう。
今後、光の魔女、ケルンと戦うのは避けられんじゃろ。そこで模擬戦をしようと言うわけじゃ。先輩として胸を貸してやるんじゃ、遠慮するでない!」
メイさんが胸を張る。見た目が幼いので胸が無い……。
「なんじゃ、わらわになにかついておるか?」
「いえ、可愛いなって」
「誉めすぎじゃの、恥ずかしくなるのじゃ。葵、お主もなかなか可愛いのじゃ」
何だかんだで照れて嬉しそうなメイさん。さっきより大きく尻尾ふぁさふぁさって振ってるし。
「本来なら魔女として関わることはないのじゃが、この
「メイさんとか魔女の人達が直接、天使と戦ってはダメなんですか?」
魔女が何人か集まればすぐ解決するのでは? 当たり前の疑問だと思う。
私が出るまでもないし何よりすぐ終わりそうだけど。
「そうしても良いんじゃが、お主らが中心なって戦わないと意味が無いじゃろ。葵と天使と魔物が一緒に戦って勝つ。そこに意味がある。
その後の国の復旧までを考えたらお主らが表で戦うべきじゃの」
そこまで言ってまだちょっと納得していない私にメイさんの小さな指が、ビッシっと
「確かにわらわが行けば早いのかもしれん。でもそれでは何も残らんのじゃ。ただ勝った事実が残るだけで人の心は迷いで揺らぎで何もせん。そして力有る者に頼り同じような過ちを繰り返し歩み始める。
力あるわらわ達魔女は、裏方に徹するべきなのじゃ。
ただ葵お主は別じゃ、今の立場は今後の為に必ず役に立つのじゃ!」
そこまで言われたらやるしかないのかな。じゃあ前向きに気持ちを切り替えて聞きたいこと聞くことにする。
「じゃあ、1つ質問です。光の魔女ってケルンって言うんですか? 魔女食いってなんですか?」
「2つ質問しておるんじゃが、まあ良かろう。光の魔女の名前はケルンじゃ。
魔女食いはそのままの意味で魔女を食べてアニママスを体に取り込むことじゃ」
魔女を食べる? 想像したくない……
「お主、トリスと戦ったんじゃろ。あの強さおかしいとは思わんかったか? 普通天使の力では魔女には勝てん、恐らくじゃが魔女見習いを狙って食ったんじゃろ」
門での戦いを思い出す。確かにあの頃弱かったとは言え4人がかりで傷ひとつ付けられなかった。あの圧倒的強さは魔女の力が関わっていた訳だ。
「食べんでもわらわ達魔女が、アニママスを分ければ同じように強くはなるじゃろうが、天使に分けるやつは稀じゃろうて」
「じゃあ、トリスは魔女なんですか?」
「いや、あくまでも天使じゃ。天使がアニママスの発現と基礎能力向上を得ただけで、わらわ達みたいな戦い方はできぬはずじゃ。
そう言う戦い方を求めて火の魔女、ミーテを狙ったんじゃろう。
だがミーテは負けた後自分を燃やしつくし魂をアニママスに混ぜ逃げて、計画を阻止したんじゃろうて」
メイさんはジュースを一口飲んでコップを置く。
「で、どうするんじゃ。わらわと手合わせせんか? 葵の為にもいい経験になると思うがの。まだ本気で戦った事ないじゃろ?」
「それじゃあ、手合わせお願いします」
「そうか、そうか、じゃあ先ずはご飯食べるのじゃ、わらわは魚が食べたいのじゃ」
ちゃっかり、食事に参加し楽しそうに食べるメイさん。その楽しそうに食べる姿はこの後、戦う人とは思えない。
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