堕天使

 天使軍部隊の1つ、りょくの騎士団隊長のクオレマは木々をギリギリで避けながら敵から逃げていた。


「なんだって言うんだこれは、新種の魔物の調査に来て、対象を見つけたは良いけどこんな事……」


 目撃情報があったと言う天使の村に情報収集に行ったらすでに村人はいなくなっていた。どこかに行った訳ではない、辺り一面血だらけで食べたような後があった事から魔物の仕業だと予想された。


 魔物は基本的に天使に比べればかなり弱い。中には強い個体や頭の良い個体もいるが、そう言う個体は森の奥の方にいて天使と関わらない。

 村を調査に隊員3人と天使兵20人で行動を開始しようとしたところ、新種と思われる魔物が現れる。

 体と腕はゴリラ系魔物で足と顔は狼系、体長は2メートル位だろうか。そして何より右腕から3本剣が爪のように並んではえているのが特徴だった。

 あっという間だった天使兵達が次々バラバラにされ仲間も悲惨な死に方をしていった。

 魔物は強かった、力と素早さ両方兼ね備え、爪のような剣の切れ味が凄まじかった。そしてその剣は天使の使う武器に似ていた気がする。


「とにかく逃げて、トリス様に報告をしなければ」


 クオレマは後ろの気配を探りながらも全力で飛ぶ。この魔物の事を報告して対策をとらねば、天使界の危機を回避出来るかは自分にかかっている。そう思い飛ぶスピードを上げる。


「あれ?」


 急に景色が反転してぐるぐる回る。そして失速を始め地面に落ちる。


「あれ? あれ?」


 手が動かない、手はあるのに力が入らない。

 ズサ、ズサ、近づく足音。例の魔物だ、何か持っている。


「!?」


 クオレマは気付いた持っているのは自分の下半身だと、そして今の自分の状態を。

 やがて魔物はクオレマを見ると足を食べ始める。意識があるのを分かってやっているようだった。

 クオレマは呪った絶命出来なかった自分を、意識のある自分を。そして願った早く死にたいと。


***


「カノンめ、逃がしてくれたのは良いけどもっとやり方があるだろうにさ……」


 ミカはブーブー文句言いながら空を飛んでいた。


「さて、ニサとマイを探さないと。葵の情報も知りたいし。

 どうしよう天使には聞けないし、魔物に聞いてみるかな、上手く話せれば良いけど」


今後の予定を考えながら飛んでいると下が騒がしい。意識を下に向けると逃げ惑う人々の姿が確認できる。

行政に関わってる時代の知識を使い村の名前を思い出す。


「天使の村、エグモント村だったけ? 男の村のはず。

なら戦闘能力は皆無か……

 確か国から派遣されて配備された兵がいるはずだけど」


 村の側にある警備兵の陣地見てみる。上空から見ても分かる悲惨な状況。間違いなく全滅だろう。

 再び村を見る。見た目は屈強な天使の男2人が魔物に襲われて座り込んで震えている。

 魔物がカマキリの鎌のような右手を振り上げる。


「逃げて!」


 1人の天使兵が飛び込む。ぼろぼろの鎧に先端が折れた剣、血だらけの体を気合いで無理やり動かしているのが遠くからでも分かる。

 盾で魔物の攻撃を防ぐが盾は割れお腹の辺りを切られ血が地面に飛び散る。


「あぐっっっ」


 天使兵は倒れ再び魔物は右手の鎌を振り下ろす。


 ガシィィィン!!


「あぁ、もう! 見捨てれる訳ないじゃん!」


 そう言ってミカが剣で魔物の攻撃を弾く。


「貴女は? なぜここに……」

「説明は後、出血は? まだ大丈夫?」

「え、えぇなんとか」

「じゃあ、ちょっと待ってて、こいつ倒すから」


 ミカは魔物を観察する。右手はカマキリのような鎌、左手は人間の手に盾が装備されている。体は人間の男の体に虫の足が4本生えている。頭はカマキリだ。


「うぇ、気持ち悪い、それちゃんと歩けるの? 一番気になるのは盾だけど拾った訳じゃなさそうだね」


 魔物が大きな手の鎌を振り下ろしてくる。その攻撃を盾の丸みを利用し反らすように避けていく。

 隙を狙って剣を降るが魔物の盾に阻まれる。


「固い! なにその盾、剣の方が刃こぼれしそう」


「リング」手にリングを持ち閃光を放つ。


 バシュ!!


魔物の盾で防がれる。


「なんか最近私のリング、咬ませ臭がする」


 ぼやきながらも弓を引き矢を放つがやはり弾かれる。


「元の色に戻ろうか、リング」


 ミカは頭上にリングを召喚する。

 右手で掴むと上に投げる。リングは空中で大きくなり、ミカの頭からつま先まで輪をくぐる様に通り、リングは地面に落ちると割れて消える。


 リングが砕けた後、銀色の髪に赤い瞳、羽は黒く輝くミカが立っていた。


「こっちの姿に戻るのは何年ぶりだろ。ま、本当の姿だからしっくりくるね」


「そ、その姿は……」


 驚く天使兵に対してミカははにかみながら答える。


「えーーと、堕天使ってとこかな」


「じゃあ、いくよ! リング レイチェル」


 ミカは手元にリングを5枚召喚する。そのリングを空中にばらまくとリングは魔物を囲う様に空中で停止する。

 そのまま、魔物に斬りかかる。魔物がミカの攻撃を受け止めた瞬間。


 バシュ!


 魔物背中側にあった1枚のリングから閃光が放たれ背中にあたる。よろめく魔物の隙を逃さず虫の足1本を切り飛ばす!

 

 次々と空中のリングから閃光が放たれる。あらゆる方向から攻撃され、ミカからは斬られ盾で防ぎきれず、最後は顔面を剣で貫かれ絶命する。


「もう少しリング動かせるんだけど久々だしこんなものかな」


 負傷した天使兵の元に近づくと天使兵に癒しの光を当てながら尋ねる。


「待たせてごめんね。私はミカ、君の名前は?」


気が緩んで傷の痛みが出てきたのだろう。顔を歪めて手を握りしめ耐えているようだ。震える唇からようやく声を出す。


「コル カンタータです」

「じゃあコル、君は帰ろう……」


 言いかけてコルの口を押さえ家の影に隠れる。


「おい、これで全部かよ。目撃者はとりあえず消せって命令だからな」

「知らないよーー村人の数なんて。これだけぐちゃぐちゃなら数間違えてても怒らんないって」

「違いないな、ハハハ」

「およ、あれ見てよ」

「なんだあれ、例の魔物じゃんかよ。あれ倒した奴がいんのかよ」

「へ~凄いね、どんな奴だろ」

「とりあえず盾回収して報告しようぜ」

「だね!」


 声は遠くなり気配も消える。


「コル、一緒にくる?」

「……は、はい」


 ミカの問いにそう答えるしかないと思ったコルだった。

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