多種多様な種族たち①

 ドワーフの村を出て2日経った。まあ分かってた事だけどここが何処か分からない。道もないから仕方ないのだが。

 時々メサイアちゃんに空から確認してもらっているので、ドワーフの村からここまでの道のりを何となく把握出来ているのが救いだ。


 それにメサイアちゃんが荷物を収納してくれてるので助かってる。なんで魔女は出来ないんだろ。


「イグニス荷物をどうにか出来ない?」と以前聞いたところ

(ごめんなさい、無理です。荷物を燃やし消すことは出来ますけど)

 とんでも無い答えが返ってくる。魔女は意外に攻撃的な種族らしい。


 隣を歩いていたメサイアちゃんが立ち止まり周囲を警戒する。


「むっ 葵 何かくる」

「なんだろうね? 4体位かな?」


 リエンさんとの修行以降、感知能力も鋭くなってなんとなく周囲の様子が分かる。

 人間やめたけど、本当に人間じゃ無くなっていくなぁと改めて実感する。


 相手も警戒しているのか、ジリジリ近づいて来るのが分かる。

 やがて、茂みから1匹の犬? が出てくる。よーーく見るとあれだ! シベリアンハスキーにそっくり。あれをちょっと大きくした感じだ。


「貴女様は灰の魔女様で間違いありませんか?」


 出てきたシベリアンハスキーがしゃべる。おぉ! なんか新感覚! 人間の形をしていないものが言葉を話す。物語の様な光景にかなり興奮する。

 この可愛いシベリアンハスキー、略してハスキーに飛び付いて撫でたい……


「むっ 先に 残りの奴を 出す!」


 メサイアちゃんがいつの間にか出していた斧でハスキーを威嚇する。


「も、申し訳ありません。もし我輩が魔女様の機嫌を損ね死んだ場合、皆に伝えてもらう為に待機させておいたのです。決して魔女様を貶めようなどとは思っていません」


 慌てるハスキー。やっぱり可愛い。もう飛び付きたい。


「お前達、出て来てくれ」

 

 ハスキーが茂みの方に向かって呼び掛けると、3つの茂みが揺れだし3匹のハスキーが現れる。


「申し遅れました我輩達はシベリ族の者で、我輩がギフラ、右からコロネ、フィッセル、フーガスです」

 

 うん、覚えられない。模様は微妙に違うけどハスキーにしか見えないから。とりあえずリーダーぽい『ギフラ』さんだけ覚えておこう。


「私が灰の魔女であってるけど、シベリ族さんが私に何か用かな?」


 突然シベリ族達が顔を地面に付け前足をノビーーとしてお尻を上げた状態になる。

 なにこれ可愛いすぎ!!


「恐れながら申し上げます。我輩達に魔女様の庇護を頂きたくお願いに上がりました」

「私の庇護を?」

「はい、勝手ながら天使との戦いを拝見させて頂きました。その圧倒的な強さと美しさに感銘致しました。

 それにドワーフの村への庇護宣言を聞いて、我輩達も庇護して頂けないかと思い参った次第です」


 力を入れて更に低く伏せる。

 ヤバいめちゃくちゃ可愛い……


「むっ 何か 嫉妬心 メラメラ」


 メサイアちゃんが斧を振り回す。


「ひぃ」


 ギフラさん達が悲鳴をあげる。


「こらこら、斧を振り回さない。ギフラさん達怖がってるよ」

「むっ 怒られた」


 と言いつつ嬉しそうなメサイアちゃん。この子の教育方針を考えないといけないな。


「ごめんなさい、ちょっと元気が良いんで……えへへ」

「あ、いえ大丈夫です。元気の良い娘さんですね」

「むっ 元気な 娘です ふふふ」


 メサイアちゃんがギフラさんの『娘』の言葉に上機嫌になる。斧をすぐ収納しギフラさんの頭をポンポン叩くように撫でている。

 触れて羨ましいけどギフラさんめちゃくちゃ怯えてるよ。止めるのもめんどくさいので悪いけどこのまま話を進める。


「えと、話を戻しましょう。私の庇護を受けるのは別に良いんですけど、今後の天使対策として魔界の森の連携を取りたいんです。

 それに協力してもらいたいんですけど、具体的に何がができます?」

「我輩オスが出来るのは、狩りと、速く走るぐらいです。メスなら手先が器用なので細かい作業とか得意です」

「狩りが得意そうてのは見たまんまな気がするけど、手先が器用なメス?」


 手先が器用なメスの想像が出来ない。魔界だしメスだけ手が人間みたいだとか? 会ってみるのが早いかな。ついでに周りの様子も聞けるだろうし。


「住んでる場所って近いんですか? 案内してほしいんですけど」

「はい、すぐ近くです。案内いたしますので付いてきて来てください」


 そういってギフラさん達の案内で住みかへ向かう。4匹のハスキーに囲まれ森を歩く。なんかこの光景凄く良い!


「この森って道とか無いけど、どうやって住みかとかの道覚えてるの?」


 道中同じ様な景色を迷いなく歩くギフラさんに聞いてみる。


「匂いと木の形でしょうか、我輩達は弱い種族ですので敵から逃げて遠くへ行ってしまっても必ず住みかに帰る為、瞬時に匂いなど覚える事が出来ます」

「へぇーー凄いですね」


 道に迷わず目的地に着くか……使えそうな感じがする。

 色々と思案しているとシベリ族の住みかへ到着する。

 森のなかに木に草を編んだような家が周囲から隠れるように並んでる。


「シャミー、今帰った。魔女様をお連れしている。おもてなしをしてくれ」



 ギフラさんが家に向かって呼び掛けると、家の入り口に掛けてあるのれんが揺れて、頭に犬の耳とお尻に尻尾のはえた女の人が出てくる。


「魔女様、私たちの住居へようこそ来てくださいました。大したもてなしは出来ませんが中へどうぞ」


 そう言って深々とお辞儀をしてくる。ん? 獣人? ギフラさんをチラッと見る。ハスキーだ。どっからどう見てもハスキーだ。

 気になることは多々あるが今はシャミーさんの方へ意識を戻す。


「いえいえ、こちらこそ突然来てすいません」

「腰の低い魔女様なのですね。言い伝えで聞いていた話しとは違うんで安心しました」

「あ、食べないですよ。みなさんを突然食べたりしないですから」

「はい、魔女様を見たらそのようなことをしないと分かります。

 ではこちらへ、子供達がいてうるさいかもしれないですけど」


 シャミーさんは笑みを浮かべながら中へ案内してくれる。

 中の床は干した草で敷き詰められており、意外に広い。


「むっ モフモフ」


 メサイアちゃんが、子供達が寝ている草で出来たベットを見つけ覗き込む。


「10日前に生まれたばかりなのです、宜しければ見て下さい、子供達も喜びますので。

 今飲み物を用意します、少々お待ち下さい」

「へぇ~どれどれ」


 私は可愛い子犬を想像しながら覗き込む。

 2匹の子犬と3人の頭に犬耳でお尻に尻尾のある子供が並んで寝ていた。

 手を伸ばしてみる。一人の犬耳の子が小さな手で私の指を握りしめる。目はつぶってるから反射みたいなものかもしれないけど、人の子ながら愛おしさを感じてしまう。

 大きくなったら遊ぼうねって心で思いながらそっと指を抜いて指先で頭を撫でる。


 ん? ここで違和感復活。ギフラさんが犬型で、シャミーさんは人型。子供を改めて見るとおそらくオスが犬型、メスは人型だ……?


「あの~ギフラさん達ってオスとメスで姿が違うんです?」

「えぇ、オスは狩りに特化し、メスは家を作ったり日用品や我輩達の世話などをするために手先が器用に進化した結果です」

「へぇ~進化って凄いですね」


 進化の言葉で片付けて良い問題でない気はするがここは人間界とは別の世界。それで納得しよう。

 人間界と世界が違えば進化の方向も違うんだろう。本当に不思議だ。

 

 そう言えばギフラさんとシャミーさん、どうやって子供作ってるんだろう?


 想像して…………

 灰の魔女 葵 はそっと考えることをやめた。

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