日だまりの森 ~みんなの日だまりへ~

点と点を繋ぐこと

「あっ、あの~魔女様?」


 恐る恐るドワーフの村長が私に話しかける。


「その村を庇護下にすると言うのは……その、本当でしょうか?」


 そう私は確かに言ったこの村を庇護下にすると。

 天使が攻めてこないようにと言ったつもりだが、ドワーフ達にとっては今後の生活に関わる重大な発言だったに違いない。


「えーーとはい、庇護下にします。と言っても何も変わりませんよ。今まで通り生活してて下さい」


 精一杯の笑顔を振り撒く。


 ドワーフ達が混乱している。私の意図が読めない的な事が聞こえてくる。

 まあ、ついさっきまで天使の腕を吹き飛ばして笑顔見せてた訳だし、笑顔は逆効果か……


「いえいえ、魔女様が何の見返りも無しに我々をお守り下さるなどあってはなりません。何でも仰って下さい」

「いやあ、今晩泊めてもらえればそれで良いですよ。あ、ご飯もつけてくれたらもう満足です。それで手打ちにしましょう」

「いえいえいえ、何でも良いですから、生け贄ですか? 何人必要ですか?」

「生け贄なんていらないよ!」


 あーーどうしよう、なにか良い方法は……考える、考える……

 

 そのとき私の胸でゴソゴソしていたメサイアちゃんが呟く。


「むっ お腹 空いた」

 

「私と連れはお腹が空いたので、一先ずご飯を要求します。あっ、普通のご飯ね。

 そこで今後についてじっくり話し合いましょう」

「は、はい、すぐに準備させます」


 よし、問題を先送り出来た、でも解決した訳ではないので話をしながら考えよう。


 ***


 空き家にて食事を用意される。何の肉かは分からないけど素揚げされたものと野菜を蒸したものが出される。素材の美味しさが感じられる料理だ。


 これがこの世界の食事なら、なるほどニサちゃんがカレーを食べて美味しさを叫ぶわけだ。

 この世界でカレーとか売って商売したら儲かりそうだなと一瞬考えるが、そもそもここ魔界にお金とか有るんだろうか?

 天使は外貨を稼ぐみたいなこと言ってたから有りそうだけど。

 そう言えばこの魔界の森のこと何も知らないな。私は村長さんに色々聞いてみることにした。


「魔界の森ってドワーフさん達みたいに村が沢山あるんですか? 後、ドワーフさん達は何をして生活しているんですか?」

「いえ、いくつか聞いたことはありますがあまりないと思います。

 基本魔物は群れませんが、我々のように弱い種族は生きる為に群れるのです。

 それから生活ですが、鉱山で鉱石を採掘し加工道具を作り、狩りや農業をしています。狩りや農業は苦手ですけど」


 弱い種族は群れるか……それなら他にも村とかありそうだ。

 得意な作業と苦手な作業がある。

 うーーん、なにか出来そうだな……


「そう言えば伝えるの遅くなったんですけど、鉱山に残された2人、残念だけど着いた時にはもう亡くなっていました……間に合わなくてごめんなさい」

「魔女様が謝ることなど何もありません。我々を助けようとしてくれたのですから、あいつらもあそこで死ねて本望でしょう。後で遺体は山にでも埋めます」


 間に合わなかったので、仕方ないのだけど、それでもやっぱり罪悪感を感じてしまう……。 

 あれ? ここは罪悪感を感じるんだ? 

 先程の戦闘で相手の命を奪う事に躊躇しなかった事、むしろもっと残酷な方法を取っても何も感じない自分を確認出来て安心していたのに。この世界でもやっていけると。


 私が真剣に考えていると、村長さんが恐る恐る話しかける、真剣過ぎて怖い顔をしてたかな。


「それで魔女様、先程の件なのですが……」

「あぁ、それね……この村が一番得意なことってなんですか?」

「出来ることですか、先程も言いましたが鉱石で日用品を作ったり、武器なんかも作れますが」

「それを他の種族から頼まれて作ることってあります?」

「いえ、ありません。他の種族と交流を持つことはありませんから」

「じゃあ持ってみる気はないです? 

 まあ、まだなんにも決まって無いから予定ですけど。決まったら報せるってことでどうでしょう?」

「魔女様がやれと言えばやりますが、それで庇護下に入る条件には関係ないような気がするんですが」


 村長さんはいまいち分かってない顔をしている。

 途中まで思考を巡らせ必死で考えていたが、ここまできて何となくビジョンが見えてきた。

 ただ他の魔物の村があってその種族の特産品みたいなのがあればだけど。

 ドワーフの村単体でも私にとって価値はある。


「ありますよ。今後、天使達は魔界の森を攻めて来る可能性があります。

 そのとき今のまま迎えうつか、連携がとれた状態かでは違うと思うんです。

 いきなり連携とかは無理でしょうから、初めは他の種族と交流を持つことからやってみませんか?」

「それは魔女様の為に天使と戦うと言うことですか?」

「前線に出て戦うとかではなくて、武器作ってくれたり、修理や整備、あと日用品など作ってもらって協力してもらえれば良いってことなんです」


 不安そうに聞いてくる村長さんに、今の段階でちゃんとしているビジョンの部分だけを伝えて少しでも安心してもらう。


 蒸かしたジャガイモをフーフーしながら黙々と食べていたメサイアちゃんがきれいな瞳を私に向け訪ねてくる。


「むっ 葵 強いから 協力必要?」

「んー、なんて言えば良いだろう。1人じゃ出来ないこともあるんだよ。

 私じゃ武器とか作れないし。

 強ければ何でも出来るって訳じゃないよってことかな」

「むっ 葵 謙虚」

「そうそう、謙虚でないといけないんだよ。色んな面で強くならないとね」

「おーー 凄い メサイア 見習う」

「よしよし、メサイアちゃんも一緒に頑張ろう」


 メサイアちゃんを抱き締め、頭をよしよしする。

 私の胸で嬉しそうに顔を擦りるメサイアちゃんに和む。

 抱き締めるのが当たり前の行動になりつつあるけど、可愛いから良いか!


 ***


 次の日ドワーフの村を出る。

 村から出て、ドワーフの指差す方へ向かうとエルフの住む場所がある……かもしれないとう言うことでそっちを目指してみる。

 地図も無いし、方角も分からないので指差す方へ行くしかない。

 これは先に出発したニサちゃんと舞いは間違いなく迷ってるな……


 そう思いながら、ドワーフ達に別れを告げてメサイアちゃんと歩き出す。

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