一難去ってまた一難

 思いの他早く鉱山の坑道前に着くことが出来た。


 メサイアちゃんと2人で坑道を進んでいく。

 手をつなぐ訳でもなく周囲を警戒しているメサイアちゃんを見て伊達に軍に所属していた訳ではないなと関心させられる。


「むっ 血の 匂い」

「この先だね」


 無事だと良いけど、私達が坑道に着くまでの時間を単純に倍で計算しても、1時間以上は経過している。実際はそれ以上……


 坑道にそって歩くと、元ドワーフが座った格好でいた。お腹は食い破られ焦げている。血と焦げた匂いがする。


「メサイアちゃん大丈夫?」


 私はメサイアちゃんが気になり訪ねた。

 メサイアちゃんは一瞬なんのことか分からなかったみたいだが、察してくれたみたいだ。


「むっ 任務で 見慣れてる」

「そっか、私のがダメかな……」


 そう言いながらも何も感じてない自分がちょっと怖くなる。

 リエンさんに何度も言われた。生きろ! とただその為には相手を殺すことも必要、この世界では必要な事だと。


 躊躇して後悔するなら後でゆっくり後悔しろ、死んでは後悔もできないと。

 魔女になる覚悟をして1番ネックなのは元人間であること。なにせ死というものから離れた世界で生きてたから。


 バスの事故や、自分の死を感じた分他の人より経験はあるかもしれないが、他の命を奪うことはなかったから。

 死体をじっと見てみる……いや確かに気持ち悪いけど特に何も沸いてこない、私大丈夫かな……


「むっ 葵 大丈夫?」


 メサイアちゃんの声で現実に戻る。


「あぁごめん、色々考え事してたから。よし行こうか」


 メサイアちゃんが手を握ってくる。いや、握ってくれる。

 私に気を使ってくれているが分かる。


「ありがとう、大丈夫だよ」


 私はメサイアちゃんの頭を撫でる。目を細めて気持ち良さそうにする。


「よし、急がないとね」


 ゴツッ ゴツッ ドン! ゴツ!


 少し進むと鈍い音が響いてくる。

 音のする方へ向かうそこには雷鳥に蹴られている人型ではなくなった塊とクチバシにくわえられている何かがあった。


「スウォナーレ」メサイアちゃんが斧を召喚する。

 私はそれを手で遮る。


「むっ 葵 メサイアが やる」

「私がいくよ」


 灰の魔女を宣言すること、それは生きる事だったはず。

 私の躊躇でいずれメサイアちゃんや他の人を危険に巻き込む可能性がある。

 ミカから聞いた過去の話しのように多くの人が死ぬ事になるかもしれない。


 灰の魔女 葵として生きていく覚悟、それは私が後悔しながらも生きること。

 そしてそれが他者を押し退ける事になったとしても!

 その後悔ごと生きてみせる!!


「イグニス、いくよ」

(はい、ご主人さま)


 体内からのイグニスの発現。

 手首、足首から先は赤く火が燃え盛り、髪の毛と瞳の黒色から火の粉がふつふつ沸いては散り舞い上がる。右腕の魔女の刻印の黒文字からも灰が燃えるように赤い火の粉が剥がれるように沸いては消えていく。


 坑道に煌々こうこうと燃える私を雷鳥は見つけると体に電撃を走らせながら蹴ってくる。

 最小限で避けると手刀にイグニスの刃を纏い足を切り飛ばす。

 片足になりバランスを崩し、背中から倒れ始める雷鳥の頭を剣状にしたイグニスで後ろから刺して私が雷鳥を支える格好になる。


「爆」


 ドーーーーン!!


 頭が吹き飛び雷鳥の体は地面に倒れる。


 人ではないとは言え命を奪ったことに何かを感じようとする私、罪悪感、恐怖、後悔………


「感じないのか……イグニス……」

(ぼくがご主人さまの為にやってます。心が壊れないように。ご主人さまが死ねば、ぼくも死にます。寄生するものの本能です)

「うそ……そこまで干渉出来ないでしょ、優しいねイグニスは」

(…………)


 ふーーと大きく息を吐くとメサイアちゃんの方へ歩いていく


「あ、葵 強い 凄い」


 目をまんまるにして見てくる。


「うん、私もビックリ。よし帰ろう村長さんにこの事伝えないとね」


 メサイアちゃんの頭をぽんぽんと叩いて村へ帰る。


***


 村へ戻る途中で異変に気付く。騒がしい。

 鉱山から村へ戻るとドワーフの1人が私を見つけ走ってくる。


「魔女様、大変です! 天使が数人攻めてきました」

「天使? だれ?」

「分かりません。ただ天使と魔物を出せと。いないと言っても聞いてくれず既に3人は切られました」


 私達はドワーフを先頭に走り出す。村の広場に着くと短髪の女性を中心に4人の天使がいた。

 天使達は私達に気付くと武器を構える。


 短髪の女性が前に出てきて名乗る。


「私はアイネ バギンズ 君は?」

「灰の魔女 日向 葵です」

「魔女だと……」


 アイネの表情が険しくなり4人の天使の武器を持つ手に力が入る。


「そこにいるのはメサイアだな。君は何をしている?」

「むっ 葵 お友達」

「魔女と友達? それは裏切るということか?」


 アイネの目に怒りの火が灯りメサイアを睨む。一瞬の間が空くがメサイアちゃんが、なにかを決意した表情になる。


「…… そう! メサイアは 葵と一緒にいる」


 メサイアちゃんも負けじとまっすぐアイネを見る。


「本気だな。なら君ごと切るまで」


 元から召喚していた剣を握る。

「スウォナーレ」メサイアちゃんの手に斧が召喚される。


「アイネ様ここは我々が!」


 そう言って天使兵2人が飛び、左右からメサイアちゃんに斬りかかる。


「デュオ」瞬時に2本の斧に切り替え2人の剣を受け止める。

 その瞬間を狙ってアイネが斬りかかる


 ガシッ!!


 私はイグニスの剣でアイネの剣を止める。


「見た目、真面目そうなんで、正々堂々と戦うかと思ったらそうでもないんですね」

「魔女が!」


 アイネが私を睨み付ける。

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