ドワーフの村へ

 メサイアちゃんの案内でドワーフの村へたどり着く。

 よくよく考えてみるとずっとリエンさんのところにいたから、こっちの世界に来て初めての村だ。

 村へ着くとドワーフの人達に案内され髭の長い村長さんの元へ案内される。


「最近、客が多いな。お前さんはなにしにきた? 隣にいるのはこの間来た天使か!?」

「はじめまして、灰の魔女 日向 葵です」

「ま! まま魔女!」


 周りにいたドワーフ達が皆引いて怯え始めるのが分かる。


「な、なんだってここに、あっいや、魔女様がなんの用事でしょうか?」

「あ、えっと、ここに天使と魔物の女の子いませんか?ニサと舞って言う子達なんですけど」


「2日前に村から出ていきましたけど、あいつら魔女様の何ですか?敵ではないんですよね?」

「敵?違います、お友達ですよ。そうかすれ違いだったかぁ」


 私が残念そうにしてると村長さんがおそるおそる話しかけてくる。


「あの~1人天使を預かってるんですが」

 

 村長さんに案内されて預けられてる天使の元へ向かった。

 なんとなく予測はしてたけどサキさんがそこにはいた。

 怪我と火傷が酷いらしくベットに寝ていた。


「お前……魔女か」


 私に気付くと寝たままこっちを見て苦しそうにしゃべる。


「私を殺して食べにきたか……」

「いや、食べない……食べたくありません」


 私は冷静に答える。


「て言うか魔女に対する認識ってどうなっての?」

「天使や魔物をバリバリ食べると聞いている」


 なるほどそれで周りの怯えようが分かった。

 他の魔女達が何をしてきたかは分からないが、灰の魔女は無害だってのを認識させていく必要がある。今後の課題だ。


「サキさんはニサちゃんにやられてここにいる、であってます?」

「ああ、ニサに負けてその後ここへ運ばれたらしい。気がついたときにはここで寝ていた」


「この方を治療してくださるかしら。この村にまた迷惑をかけますがお世話になった人なのですわ。治るまで面倒見てもらえないかしらって言ってました」


 ここでなぜか1人のドワーフがニサの口調で説明してくれる。


「いや、真似しなくて良いよ……」


 私がボソッと言うと


「もうしわけありません魔女様。おい! 誰かこいつを摘まみ出せ! 外に吊るして魔女様のお食事にするんだ!」


 村長さんが怒鳴る。


「いやいや、やめて食べないから。うん、良いよ良いよ、今の説明、ニサだってすぐ分かったし。

 それにサキさんのがここになんでいるかも分かっっちゃたし完璧!」

「そうですか、魔女様がおっしゃるなら。おい、そいつを放してやれ」


 涙目のドワーフは解放される。

 今後発言には注意が必要だ……


「話を戻すけどサキさんはニサを討伐しにきたんだよね。天使は私達をどうしたい訳?」

「ミカ、ニサ、魔物、灰の魔女この4人の討伐命令が出されている。

 灰の魔女の配下となり全員我々天使の脅威に成りうる故の討伐だ。

 この中でミカ様は司法のソフィー様の元で軟禁されていると聞いた」

「軟禁? ミカは無事なの?」

「母上であるソフィー様の領内だ、手厚く保護されてるはずだ」

「そうか、良かった」


 これでみんな無事なのが分かってホッとすると同時に疑問が沸く。


「ねえ、サキさんすんなり話してくれたけど良かったの? えっと立場とか」

「私は2度も失敗した身だトリス様も見放すだろう。もう死んだ身だ話す事などどうってことはない。

 ただ……メサイア、私と共に来た天使が心配だあいつももう帰れないかもしれないからな」

「メサイアちゃん? いるよここに」


 部屋に入らずドアの影から様子を見るメサイアちゃんを手招きして呼ぶ。

 ちょっと躊躇したが私の隣にきて腰の辺りにしがみつく。


「メサイア! 無事だったか……」

「むっ 葵 助けてくれた …… サキ様 痛い?」


 メサイアちゃんは私から離れサキさんの横に立ち両手を広げる。


「むっ 癒しの光」


 メサイアちゃんの両手の甲に小さな魔方陣が描かれ光を放つ。

 サキさんの体がぽわっと光る。


「あぁ、すまない少し楽になった。」

「むっ 怪我酷い メサイアの力じゃ ここまで」


 そう言って私のところへ戻って再び腰にしがみつく。


「え、今の何? メサイアちゃん傷治せるのすごい!」

「む~ 癒しの光」


 ちょっと照れてる。可愛い。


「魔女になついてるな。メサイアが人になつくなんて初めて見た」

「むっ メサイア 葵と お友達」

「そうか……」


 サキさんははしばらく上を見て真剣に何か考えている顔をしていた。


「灰の魔女、お前に学校や町で披検体を襲わせるようにしたのは私だ」

「披検体? あぁ、犬ゾンビとかね。あれ、めちゃくちゃ怖かっし怪我もしたし大変だったんだよ」


 牛おとこだっけ? あれなんてお腹に穴空いたし、傷跡も大きく残ってる。


「私を恨んでるだろう。私を殺せ」


 サキさんがまっすぐ私を見てくる。メサイアちゃんの私を握る手がキュッと強くなる。


「殺さないよ。サキさんはなんで殺されたいの?」

「私は任務に失敗した。トリス様の計画も知る身。どのみち消される。ならせめてお前に!」

「……サキさんは何がしたいの? 天使の事情は知らないけど、もう少し好きに生きたらどうかな? なんか自分を圧し殺し過ぎな気がするよ」

「なっ、私の事も知らないで!」


 サキさんは寝たままだが叫ぶ。


「うん、知らないよ。だって私、サキさんじゃないし。

 私の経験上、相手の気持ちが分かるってのは嘘だね。本人の気持ちは本人しか分からない。

 だから本人が心の内を話さなければ他人は分からないまま。

 ん? 今思い付いた。これね、『察してくれで伝わるなら離婚する夫婦はいない!』名言じゃない?」


 サキさんはキョトンとして見ていたがやがて笑いだす。


「ふっ、ふふふふ。なんだそれは……意味が分からない」


「むっ サキ様が 笑ってる 初めて見た」


 メサイアちゃんが驚いている。珍しい事なのかな?


「いや、名言でしょ! とりあえず恨んでるとかは置いといて、サキさんの事話してよ。

 そこから恨むか決めるから」

「面白いな、灰の魔女は」

「葵で良いよ。とりあえず今は傷を治して。サキさんをここまで運んだニサちゃんの気持ちは汲んであげて。治ったら色々話そうよ」


 サキさんは、あぁと言って目をつぶり寝てしまった。具合悪そうだし無理して喋ってたんだろうな。

 そっと私達は部屋を出る。


 村長さんの家に戻り今後の予定を立てる為ニサちゃんたちの行った方向を聞く。


「それが天使達の住む方向へ行きたいって言われたんですが、わしらも分からないのでなんとなくあっちの方へ行ったと思われます」


 うわーーアバウトだなとか思っているとドワーフの1人が慌てた様子で入ってくる。


「たっ、大変っす!鉱山の坑道に雷鳥が出て怪我人がいるっす!」

「なにぃ! 全員部無事か?」

「まだ2人残ってるっす!」

「なんだって雷鳥が坑道の方まで入ってくるんだ……と言うか雷鳥は魔物の姉ちゃんが倒したばっかだろ。次が来るのが早すぎねえか」


 話についていけない私が訪ねる。


「次が来るって1匹しかいないんですか?」

「あぁはい、基本1山に1匹です。巣が作れる場所が決まっているので前に住んでるのが死んだら次のがやって来ます」

「ふーーんてっきり、つがいかなって思いましたけど」

「!?それです! 50年1回ほど卵を産むためにつがいになる事があるんです。さすが魔女様!

 魔物姉ちゃん達が討伐した死体を見て激怒したってとこか」

「私が行きます」

「え!?」


 私の言葉にドワーフ達が驚く。


「いえ、魔女様にやって頂くなどそんなこと出来ません」

「なんか舞達が関わってるみたいだし責任感じるから行きます」

「いえしかし……」

「考えてる時間無いでしょ!そう!今日ここに泊めて下さい。それで良いです!

 仕事として請け負うから遠慮はなし!じゃあ行ってきます。鉱山どっち?」


 ドワーフ達が指を指す方向へ私は逃げるように走る。


「むっ メサイアも 行く」


 メサイアちゃんも走ってついてくる。

 2人で鉱山へ向かうことになった。

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