天使の女王

 天使の町の1番奥に城がそびえ立つ。その中の一番大きな部屋、女王の謁見の間に2人の天使がいる。


 ブロンドの長い髪に細い目にどこか虚ろな瞳。座ってはいるが背も高くスタイルも良いのが分かる。ものすごく美人なのだが、どこか近寄りがたい雰囲気を放っている。

 近づくと切られそうだ。

 その女性が女王の椅子に座っている事からこの人が女王なのだろう。


 その椅子の肘掛けにすがるようにして座っているの女性は以前天使の門で葵達の邪魔をしたトリスである。


 その2人がトリスが手にもった小さな水晶から浮かび上がる映像の人物と話をしている。


 その像の主は前にニサを斬りつけた光の魔女であることが確認出来る。


「そうか、人間と魔物の魂融合率は80%まで上がったか。融合までの時間が3時間なら実践投入出来そうだな。知能の方は?」

「あ~それならね、結構複雑な命令もこなせると思うよ。集団戦とかリーダーの指揮にしたがって陣形を変えるとかね。人間の知能が高いのが良い結果を出してるね」


 像の光の魔女が映像越しでも目をキラキラさせて楽しそうに話しているのが分かる。対する女王は表情一つ変えない。


「天使と魔物の魂の融合は出来ないか?」

「それはほぼ無理だね。拒否反応で死ぬか、ゾンビみたいにウロウロするだけで戦闘能力も皆無だし。人間が一番だよ」


 その答えに女王は眉を少しだけ動かす。恐らく欲しかった答えではないらしい。


「たださ、一部移植なら上手くいく事もあるよ。魂は混ざりにくいけど体の一部なら馴染んだりする個体もいるよ。それも使ってみようか?」


 光の魔女の答えにトリスが満面の笑顔で食いつく。


「へ~面白そうねぇ~」

「あ、トリスさん好きそうだね。そう言うの」

「あら~分かる~? わたしのとこに強くなりた~いって言う、かわいい子達がいるから~、使える段階になったら教えて~」

「うん、良いよ!

 じゃあ、じゃあ、戦闘データー取りたいんだよねアリエルさん、こないだくれたなんだっけ?」


 アリエルと言われ、女王が口を開く。


「翼の騎士団だ」

「あーそれ、翼の騎士団じゃ役不足なんだよね。全滅しちゃったし。

まあ生きてるのは実験に使わせてもらってるけどさ。もっと強いのが欲しいんだ」


 光の魔女が映像で踊る様にくるくる回る。その映像にトリスが相変わらずの笑みで語りかける。


「それなら~丁度良いの呼んでるから向かわせる予定よ~」

「ほんと! 期待してるよトリスさん、あっそうそう、こないだ頼まれたやつ上手く出来たよ! 動力にね凄いの使ったから楽しみにしててよ! 絶対トリスさん好みだよ」

「本当~? 楽しみねぇ~」

「じゃ、アリエルさんもまたね」

「あぁ。ご苦労」


 そう言って、水晶に浮かんでいた光の魔女の像は消えトリスは水晶をしまう。


「実験の事になると生き生きしてるな」

「好きなのよ~、良いじゃな~い」

「悪いとは言ってないさ。あれのお陰で計画が現実になり順調に進んでいる」

「アリエルはまじめよね~わたしはドレスが染めれるならなんだって良いけどねぇ~」


 アリエルとトリスが会話をしていると謁見の間に1人の天使兵が入ってくる。


「失礼します! トリス様に申し上げます」


 かしこまる天使兵に先程のねっとりした笑みと違って優しい微笑みに変わったトリスが天使兵を見る。


「なにかしら?」

「はっ、カノン ニーベルング様がトリス様の召集に応じ外で待機しております。この後の指示をお伺いに参りました」

「ここに連れてきてちょうだい」


 天使兵は一礼すると謁見の間を出ていく。それから直ぐにカノンが部屋に入ってくる。


「カノン ニーベルング、トリス様により召集に応じ伺いました。ご命令でしょうか?」


 カノンは深々とお辞儀をする。


「カノンちゃん 人間界へ行ってくれるかしら~。なんでも前に灰の魔女と戦闘になった魔物が現れたらしいの~。

 翼の騎士団を派遣したのだけど帰ってこないのよ~」


 トリスとカノンの目が合い、そこで1拍間が空く。


「分かりました、出発はいつでしょう?」

「申し訳ないけどすぐに行ってもらえるかしら~手配はしてるわ~」


 2人は目を合わせ続けていたがやがてカノンが目を反らすように目を閉じ、礼をする。


「はい、すぐに出発致します」

「お願いね~」


 トリスとカノン両者とも含みのある微笑みをみせる。

 そのとき入り口に1人の天使が走って来る。


「伝令です……あっ」


 ちょうどカノンが礼をしているところだったので伝令を止める。


「かまわん、話せ」


 アリエルの許可が出て慌てて伝令を伝える。


「はっ、ニサ ニーベルングと魔物を発見し討伐に向かったサキ様、メサイア様、両名敗北、その後行方不明です」

「ほう、あの2人が負けるか」


 アリエルが少しだけ微笑んだ感じがする。

 そんなアリエルを見てトリスも笑みを浮かべ伝令の兵を下がらせる。


「2人の捜索はアイネにまかせるわ、下がって良いわよ」

「はっ!」


 伝令が下がると同時にカノンが


「では私も下がります。準備出来次第、出発致します」

「お願いね~カノンちゃん」


***


 カノンを見送った後、トリスが口を開く。


「あいつ色々嗅ぎ回ってるのよね~、これで一旦遠ざけれるわ~、うっとうしいのよね~」

「うっとうしい? お前がそこまで警戒するものなのか? 戦闘記録を見るにそんなに目立った戦績はないが。」


 トリスは椅子の肘掛けにもたれながら心底嫌そうな顔をする。


「あれね~本当は強いのよ~。

 アイネ隊で実力は3番目になってるけど~アイネ超えてるわね~。

 恐らく私たちと同じ領域に入ってる気がするのよねぇ~。それに頭が良いの、うっとうしいくらいねぇ~」

「ほう、それは実験の記録を見るのが楽しみだな」


 ***


 アリエル達の部屋を出た後カノンは思考する。


(嗅ぎ回ってるのバレてますね。完全に厄介払いの遠征ですか。

 まあサッと済ませて戻りましょう。


 さっきの伝令を聞くに、ニサは無事なようですね。

 サキ様達を撃破したのならかなり成長した感じですか。

 次会うのが楽しみです。よしよししてあげましょう。よしよしされてるときのニサ可愛いんですよね。

 あーーニサに会いたいです。


 おっといけない、お仕事に集中です。

 人間界へは久々ですね。そう言えば人間界行ったら何を食べましょうか。あっちの食べ物美味しいんですよね。


 前は急がしくて駅内で食べましたが、今回は足を伸ばして遠くへ行きたいですね。ショッピングの時間ありますかね? ニサとメサイアになにかお土産買ってあげましょう。

 では着いたらまずは、ガイドブック買いましょうか)


 人間界の食べ物や服などを思い浮かべながらニコニコで旅路の支度へ向かうカノン。

 

 周囲からは物静かで、冷静かつ聡明な人として人望も、人気もあるカノンだが、頭のなかは割りと賑やかだったりする。

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