雷獣

「マイさん……マイさん?」

「ん?」


 その日マイは木の上で寝ていた。

 呼ばれる声で目を覚ます。寝ぼけて視点の定まらない目で前を見ると火の玉が浮かんでいた。


「火の玉? ウィルオウィスプ? あれって喋ったっけ? そもそも火の玉に知り合いなんていないぞ」

「いえ、私です。ミーテです」


 火の玉がペコリと頭を下げた気がした。


「いや、あたしの知ってるミーテは火の魔女で火の玉ではないぞ」

「そのーー実は先程死んでしまいました」

「いや、死んだってなんだよ、しかも軽いな」

「天使と色々ありまして……死ぬ間際に私のアニママスえんちゃんに魂を混ぜてマイさんを頼ってここへ飛んで来ました」


 そう言って火の魂がくるくる回る。


「いや頼ってくるのは良いけど、よくここが分かったな?」

「前にマイさんの肩に焼き印したとき念を込めたのでその影響でここに引っ張られたんだと思います」


 マイは右肩を触る。忘れもしない、自分の愚かさと友達を失う悲しみ。


「それでお願いなんですが人間界へ行きたいのです」

「人間界?」

「はい、行くためにマイさんに天使の門を突破してほしいのです。人間界へ私を連れて行ってください!」

「!?」



 ……マ…………イ…さ……ん

 ……お……き……て


 ガバッ!


 舞はベットで勢いよく起き上がる。右肩を触る。今誰かに押された?

 いやそれよりここは? 今の状況は? 周りを見る。

 人の気配がしない。中央の広場が騒がしい。

 戦闘の音? 見に行かなければ。ニサは? 戦っているのか?


 舞は立ち上がって自分の格好を見る。寝巻きだ……葵に買ってもらったやつだ。

 着替えるか……いやそのままで良い、それどころではない、急がなければ!


 舞が屋根の上を飛びながら急ぐ。中央広場が見え始めると同時に稲妻が走る。

 落ちていくサキ? と地面で槍を杖にして立っているニサ。

 その後ろで斧を召喚し始める天使の姿が見える。

 舞は屋根を蹴ってニサとメサイアの間に飛び込む。


「チビッ子! あたしが相手してやるよ」

「むっ 魔物 邪魔する …… なにその服? かわいい」


 メサイアが舞の格好に興味津々の様子だ。小さい体をピョコピョコ背伸びしながら観察している。


「だーー! 格好はどうでも良いだろ! チビッ子、戦うならあたしと戦えよ!」

「むっ チビッ子違う メサイア」


「いいさなんでもな! デスサイズ」

「むっ なんか 強引 スウォーレ」


 文句を良いながら武器を構え戦いを始める。

 お互い鎌と斧なのでニサ達の戦いと違い豪快なものとなる。

 一回、一回の火花の大きさも大きくドワーフ達の歓声も大きくなる。


「むっ ちょっと 不利 ウイング」


 体格の小さいメサイアは舞との地上での切り合いに不利を感じ空中戦を選択した。

「デュオ」2本の小振りな斧を召喚し空中を飛び回り舞に切りかかる。

 舞も体の一部を召喚で武器化し、対抗するが空中からヒット&ウェイを繰り返すメサイアに手こずっていた。


「くーーっ! ちょこまかとうっとしい!! いかずち解放!!」


 バチッ! バリバリ!


 舞の体から電撃が吹き出す。


「いくぜ!」


 舞が鎌を振るが先程と違い電撃の分、攻撃範囲が広がったのと攻撃を受け止めても若干痺れるのがメサイアにとってうっとうしく感じる。


「むっ ピリピリ 嫌い リング」


 メサイアはリングを召喚するとボリボリ食べ始める。食べ終えると更に上空へ飛び上がる。


「スウォーレ」「エゼグィーレ」「デュオ」「コンチュアトー」


 次々に斧を召喚しては舞に投げつけてくる。

 斧は物凄い勢いで飛んでくるが舞はなんとか避けていく。


「なんだ? 遠距離攻撃か?」


 舞は空に浮かぶメサイアを睨むと次の武器を召還しようとしている。


「ディレットーレ」


 メサイアの手に召喚されるトランペット。口に咥え、力強い演奏を始める。


 ファファファフアーーン!


 トランペットの音に舞に投げられた斧が共鳴し振動始める。

 メサイアが舞を囲むように投げていた斧が振動することで地面にヒビが入り始め足元が悪くなる。

 しかも音がうるさいのか舞は耳を塞いでいる。


「コンチュアトー」


 メサイアは1本の斧を手元に戻し舞へ斬りかかる。

 舞はそれをなんとか鎌で受け止めるが受け止めた鎌に段々と斧が食い込み始めヒビが入る。


「なんなんだ、これは!」


 舞は分かっていなかったが斧が微細に振動することで鎌の刃を砕きながら、斧の刃を進めていたのである。


 バッキーーン!!


 鎌が砕け斧が舞に突き刺さる。


「むっ!」


 刺したはずのメサイアの顔が歪む。


「捕まえたぜぇ~! 早くしないと骨も折れちまうな」


 胸から飛び出たあばら骨で斧を受け止めたまま舞いが叫ぶ!


「全力でいくぜ! 雷獣電翔らいじゅうでんしょう!!」


 電撃が舞を中心に走り周囲を激しい光が暴れ狂う。


「くぅぅぅっ!?」


 メサイアは電撃を両手に受けたが、それ以上電撃を受けないように全力で上空へと逃げていく。

 舞は背中までの長さになった髪の毛に触れながら


「ハール モストロ、たまには違う形になれ。杭みたいのが良い」


 髪の毛に青い魔方陣が這うと黒い杭を作り出す。

 それを口に加えたまま大きく両手を広げる。手と手の間に電撃が走りその真ん中辺りに杭を置き口で引っ張るように胸をそらす。

 口の方にも電撃が引っ張られ大きな弓のようになる。


「あたし、待望の飛び道具だ!」


 口を開けると杭が稲妻のように飛んで行く。


 地上から物凄い勢いで稲妻が飛んでくる。メサイアが避けようとするが


 ズドーーーン!!


 杭はメサイアの羽を吹き飛ばし、電撃を受けたメサイアは森の方へ落ちていく。

 それを見届けると舞は既に座り込んでいるニサの元へ駆け寄る。


「勝ったぜ! ニサ大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですわ」

「見たか! あたしの活躍を!!」

「ええ、凄かったですわ。ただ……」

「ただ? なんだ?」

「パジャマをそんなに血だらけの穴だらけにして、葵に殺されますわよ。もしくはまた着せ替え人形となり引きずり回されるかですわね」


 ピキッ!!


 舞はトラウマと共に固まる。

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