お嬢様の記憶

 ──ねえ聞いた? 領主様の跡継ぎのこと……

 ……ニーベルング800年ぶりの跡継ぎ誕生でしょ? もうすぐ生まれるって聞いたよ……

 ……もう生まれたのよ、でもまだ発表しないの、何でだと思う?

 なんと双子なのよ!!……

 ……!?本当に? 不吉ね……


 * * *


 ……うわーー見てよ本当にそっくり、どっちがどっちかわからないわね、気持ち悪いわ……

 ……本当、気持ち悪いわ!!……


 * * *


 ……わたくしはニサ、カノンと違いますわ。わたくしの方が足も速いしちょっと背も高いですの。

 頭はお姉さまの方が良いですけども。……

 ……髪型も変えなきゃ、リボンの色も違うものを、そうだしゃべり方も変えれば分かるはずよ……ですわ……


 * * *


 ……何で! 全然違うよ私とお姉ちゃん! 言い伝え? 知らないよそんなこと! ねぇ誰が決めたの!

 双子が生まれたらニーベルング領に不幸が訪れるとか、証拠はあるの?


 ……………………


 ………………


 ……………


 …………


 ………


 ……ふにふにする……撫でられてる? 優しい?


 お姉さま以外に撫でられたことないからよく分からない……


 んっ、くすぐったい……


 優しさ以外になんかこう……身の危険を感じる!?


 ハッ!!


 目を開ける……ここどこ? 部屋? ベットに寝てる?

 ゆっくり右を見るとニヤニヤしながら灰の魔女がわたくしの頭を撫でている!?


「ちょ、灰の、魔女なにぉ!?」

「いやーー可愛いなーーって」


 そう言って両頬を両手で挟んでうっとりする灰の魔女。


「いや、ちょ、やめ……やめりゅ……」

「うり、うり、可愛いの~」

「ひぇぇぇ」


「こら葵! 怪我してんだからそれぐらいにしなよ」


 舞に頭を叩かれてようやく葵が我に返る。


「いやごめん、可愛いいもの見ると抑えきれないんだぁ」

「アオイの可愛いものに対する執着心、怖いものがあるよ」


 葵が今度は注意したミカに抱きつく。


「ミカも可愛いよ~ほら、うり、うり、こうか! ここか!」

「いやっ、ちょっとやめて、やめてください、ごめんなさい」


 じゃれる2人を見て状況を把握出来ていないながらも呆れた顔でニサが舞に訪ねる。


「あの、この状況を説明して頂けないかしら?」

「ああ、ごめんな。あっちはしばらく帰って来ないだろうからあたしが説明するよ」

「貴女は確か、黒田 舞だったかしら?」

「そっ、でお前達が光の魔女に会って切られたのは覚えてる?」

「えぇ」


 そう言って胸を抑えるニサ。


「その後、切られたお前を葵が運んで手当てして、今に至るって感じだ」

「分かりやすい説明ありがとうですわ」

「血だらけのお前を抱えて葵が走って来たときは流石に驚いたぞ。後で良いから葵にはお礼言っとけよ。泣きながらお前を治してくれって頼んでたんだからな」


 ニサはミカとじゃれる葵を見ながら呟く。


「えぇ、わかりましたわ」


 * * *


「それで、この後なんだけど、どうする?」


 ミカとの絡みが一段落した葵に訪ねられる。


「この後と言うのはわたくしの身の振りのことかしら?」

「身の振り? いや、晩御飯何食べたいかなって? 今の材料からお肉があればカレーかシチューが作れそうなんだけど、どっちが良い?」

「え? え? カレー? かしら」

「OK、じゃあお肉買ってくる。舞、付き合ってよ。じゃ、ゆっくりしてて、傷は深いからね。安静にね」

「えぇ」

 

 走って行く葵を見ながら呟く。


「なんですのあの子……訳が分かりませんわ。そしてカレーって何ですの?」

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