初陣

 訓練を始めてもう1ヶ月。

 大分攻撃をかわせるようになったし剣も振れるようになった。


 今では木の棒から模擬刀に代わり痛さも倍増! 最近じゃ壁を蹴って三角飛びとか側面をダッシュさせられたり、ビル3階ほどの高さから飛び降りて着地するとかスタントマンもビックリなことをやっている。


 進路希望は「ソルジャー」に続き「スタントマン」が書けそうだ。

 そんなことを思いながら商店街を歩く。

 

 スーパーの買い物も良いけど専門店が並ぶ商店街は意外に侮れない。目当てのお肉と野菜を目指して歩いていると


 ドックン!!!


 周りが震える感じがした後、サーーと広がる違和感。

 結界だ!? ミカとの訓練で慣れたこの感覚。

 

 さてなにが起こる……身構える私。

 なにせ前回の私とは違う。ミカと訓練してきた日々がある。

 なにが来ても絶対に逃げ切ってみせる!!!


 この1ヶ月で分かったこと、ちょっと訓練したからって勝てる訳無いってことだ。

 私は全力で逃げる! そしてミカの到着を待つ! で、ミカが倒す!!


 そんな私の前にゆっくり


 ドスッ、ドスッ


 と足音が近づき、背丈2メートル以上の筋肉ムキムキな頭が牛の男が現れる。


 犬ゾンビほどではないが牛の口周りはただれ、左目は腫れている。体も所々ただれているのが分かる。


 こういう化け物なんだっけ、確か

「ミノタウロス」

 だった気がする。


 でも私は


「こい! 牛おとこ!」


 適当な名前で精一杯の悪態をつき震える足を勇める。怖いけどやるしかない! そう腹をくくると牛おとこに背を向け全力で走る。

 

 さっきの感じだとそんなに素早くはないはず……後ろを振り返るともうダッシュで追いかけくる……


  牛おとこ!?


「ちょっ! 速すぎじゃない」


 予想より速過ぎる。そこで作戦を切り替え、建物の間の少し細い路地に入る。

 ここなら体の大きい牛おとこは動きが制限されて攻撃の向きも限られてくる。

 つまり避けやすい! これでミカが来るまで避け続ける確率を上げる!


 牛おとこは私と同じ路地まで追い付くとゆっくりと両腕を曲げ体の前に構えファイティグポーズ。

 そしてリズミカルな足のステップ……


       瞬間!


 前に屈むように一気に間合いを詰めてきた牛おとこは、左ジャブ、右ストレートの順で拳を葵に叩き込む。


「なっ!?」


 予想外の動きにギリギリ反応し真横に転げるように避ける。チラッとみた壁は牛おとこの拳より2回り大きな穴が空いている。


「なに、ボクシング!? あり……」


 あり得ないと言い終える前に牛おとこは間合いを詰め右のストレートを繰り出す。垂直に飛んで壁を蹴り牛おとこを飛び越える。


「ヤバい! 避け続ける自信がない」


 それからもその巨体に似合わず素早い動きとリズミカルな足さばき、切れのあるパンチを繰り出してくる。

 その攻撃を壁を蹴ったり、壁を走ったりと最近の訓練の成果を存分に発揮しながらギリギリのところで避ける。

 

 一瞬でも気を抜くと殺られる。

 時間はそんなに経ってないんだろうけど、もう半日は避け続けている感覚。


「早く来てミカ、あんまり持たないかも」


 私は天使に祈るのだった。

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