ファイヤーボール(弱)
「なんのつもりだ、サキ!」
「……」
向かい合うミカといつかのポニーテールの女性。
『くない……ユリ』
静かな声で女性が呟くと両手に小さな魔方陣が出る。
そして中から忍者が仕様する「くない」が現れるがそのくないは、黒い刀身に白いユリの花が装飾されており、よく本やテレビで見るような忍具とは違う品格を感じさせるものだ。
「あくまでも邪魔をする訳か」
『ベガルタ、トリステス』
そうミカが呟くと右手にショートソードが左手には丸い盾が召喚される。
盾は全体が青く白の模様が涙のように型どってあり泣いているように見える。
「道を開けてもらうぞ!」
そう言って剣を振り下ろすミカだが、サキと呼ばれた女性は左のくないを少し傾け体を上手に使いながら柳のようにユラリと受け流す。そして右手のくないをミカへ突き立てる。
ミカもそのくないを左の盾で弾き返す。
「時間稼ぎか!」
本気で戦う気のないサキにイライラしながらも冷静に長丁場になることを悟るミカだった。
* * *
路地での攻防に限界を感じた私は再び走って逃げることを選んだ。
単純なスピードでは私の方が少し速い。
それに加えて商店街の看板や商品のケース、道端の自転車なんかをギリギリで避けながら逃げる。
牛おとこは体が大きい分看板なんかに当たって少しスピードが落ちる。
だが牛おとこが障害物を物ともせず、全部粉砕しながら走ってくる姿はかなり怖い。
走りながらミカの講義を思い出す。この1ヶ月体だけではなく頭も鍛えている。
戦術を学ぶ、女子高生には縁のなさそうな講義を思い出す。
「結界と言うのは外部との遮断だ。つまり対象のものを閉じ込めなければならない。
その為、術は対象のすぐ近くで発生し、そこから螺旋状に巻きながら広がり最後の端が引っ付いて蓋をする」
そう言って紙に図を描いてくれる
「ロールケーキみたいだね」
「そうそう、そんな感じ。最後の端っこがこう本体にペタッとついて蓋をするんだ。上も覆うからこう、カタツムリみたいかな?マイマイだ。
で最後に引っ付いたここ、ここが結界の綻びで弱いとこになる。
ここを叩けば抜け出せる可能性はあるってこと」
「どうやって見つけるの?」
「とりあえず真っ直ぐ走って壁みたいなのに当たったら、今度はそれに沿って走れば良い。ただ左回りか右回りかは走ってみないと分かんないけどね」
ミカの話を思いだし頭の中で確認する。
壁はもう見つけてある。左回りに走って段々中心から離れて行く感じがするので多分あっている。
ミカが来れない場合を考えてまずはこの結界から出るのが最善の方法だと思う。綻びを壊す手段は持ってないけど、ここで逃げ続けているよりは良いはずだ。
商店街のあちこちが破壊されるが牛おとこの勢いは止まらない。
もう少し距離を離したい。
そう思いポケットからライターを取り出す。
あれから腕の文字らしきものは少し増え、濃さを増している。力も上がってる気がする。
「火よ丸くなって」
そう言うとライターの火は真っ直ぐ上に伸び、ぐるぐると丸くなり始めテニスボール位の大きさになる。
これならいけるかも!! この状況に希望を見出だした私はその火の玉を持ち大きく振りかぶる。
「くらえーー! ファイヤーボール!」
私の手から離れた火の玉は結構なスピードで牛おとこ目掛け飛んでいく。
バスッ!
ちょっと軽い音と共に牛おとこに当たった火の玉は飛散した。
当の牛おとこダメージはなさそうだ。
ただ、熱いお鍋とかに指先が触れて「熱っ!」って感じで手を引く位には熱かったみたいで鋭い目で私を睨み付けてくる。
「まっまずい……やるんじゃなかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます