訓練開始

 コメドコーヒーの帰り道。


「あんな説明で本当に良かったの?」

「ん? 可愛いミカが見れたから良いよ」

「可愛くないって!」


 全力で否定するミカはやはり可愛い。


「この魔女の力って、レベルアップとか出来るの?」

「レベルアップ? それは鍛えれば強くなるだろうけど」

「鍛える? 犬ゾンビ3匹倒したら、てってれー! て感じじゃないの?」

「? 人間だって筋トレすれば筋肉付くし、走り込めば体力ついて、素振りとかすれば剣裁きが上達する。逆に使わなければ衰えるものじゃん?」

「あぁ、その辺は現実的……」


 ちょっとゲーマーでもある私は落ち込む。


「でも今の時点で体力もスピードも上がって、多分頑丈になってるし傷の治りも早いよね? 十分に魔女の恩恵受けてると思うけど」


 確かに言われてみれば壁に激突したけど骨とか折れてないし傷もほぼ塞がっている。


「この間みたいに襲われる可能性は高い。そのとき身を守れるように、実践形式で体の使い方を覚える為にもアオイ、訓練しよう!」


 なんか話してるうちに熱く語りだしたミカ。


「えーーこの火でファイヤーってやりたい」


 地味な努力を避けよとする私。


「魔女の事が分からないのに火の力を強めるのは危険だよ。魂が乗っ取られる可能性だってあるし」


 そんこと言われたら何も言えない。


「でもこの火、なんか優しい感じがするんだけどなあ」

「訓練すれば火の方も強くなるかも知れないし、少なくとも体は鍛えられるから無駄にはならないよ」

「ぬ~本当に? ……分かったよ」

 

 あくまでも訓練をさせようとするミカにしぶしぶうなずく。


「じゃあ今度の土曜日、剣持ってスタボに集合で!」

「うんスタボに剣持って……」

「って!? 持ってないよそんなの!」


 慌て否定する。


「じゃあ貸してあげるから詳しい時間は明日決めよう」


 笑顔で手を振るミカに私も手を振って別れる。このときミカが


(気軽に剣の貸し借りができる友達って良いな)


 とか思いながら天使の微笑みをしていることを私が知ることはなかった。


 * * *


 土曜日がやってくる


「では早速、能力を測ってみようか」


 ミカはその辺で拾った木の棒を私に向けてくる。


「ところで、ここって結界ってやつ?」

「そう、周囲のものを壊しても現実に影響ないし、何より人払いが出来るんだ。流石に人前で剣を振り回す訳にはいかないから。こっちじゃ通報されちゃうしね。

 それじゃあ早速!」


 ブン!


 横に振られる木の棒をギリギリで避ける。

 がすぐに縦に振られた棒が頭に直撃する。


 ボキッ!!


 私の頭に当たった木の棒は折れる。結構痛い。


「1回目を避けて油断したね。本当の剣なら死んでるぜい! アオイさんよ」

「いたーーミカ、手加減してよ!」


 頭を押さえる私にミカは可愛い顔でニッコリ

「やだ」


 こいつ天使じゃない悪魔だ! こうなった全部避けてやる!


「こい! ミカ!」


 その後2時間は棒を避け続けた。それから本物の剣を渡され素振りをする。


「脇が開いてるぜい」


 と悪魔天使のミカに棒で突っつかれる。


「て言うか私、剣とか持ってないけど意味あるのこれ?」

「あるよ、魔女も剣とか使うって聞いたし」

「えっ、杖とかじゃなくて?」

「うん、かなり武芸にも秀でたはず。杖って言うか棍? 棒術とかも使えるんじゃないかな」


 ますます魔女のイメージが分からなくなる。ホウキに股がって飛んだりもしないんだろうなぁとか思いながら素振りを続ける。


「うん、今日はここまで! アオイお疲れさま」


 この可愛い笑顔も今は悪魔にしか見えない……。大体冷静に考えれば戦闘訓練する女子高生ってなんなの意味分かんない。


「動体視力も凄いし体力も思った以上だね。戦いに向いてるんじゃない?」

「そんなのやだ、進路希望になんて書けば良いの?」

「戦闘……ソルジャーとか?」


 いや真面目に考えるなよ、そう思いながら汗を拭くために腕のアームカバーを外したとき、ミカがダッシュで近寄って来て右腕を掴み凝視する。


「あれ? 前に見せたことあるよね、えっ、なに?」


 私の腕を凝視するミカは


「文字が増えている……」


 大きな声で言う。


「えっ、えっ!?」


 知らなかった、いつも見てるのに……


「前に見たときよりも文字も濃くなってるし、文字も増えてるよ」

「そして微かに力を感じる……何か生まれるような力」

「そんなにじっと見られると恥ずかしいんだけど……」

「おっとごめん」


 慌てて、手を離すミカ。


「これは……なんだろう、確か魔女は魔物を身に宿すと言ってたから……時間が無いのかな?」


 ぶつぶつ呟いていたミカは何かを決意した顔で私の方を向く。


「よし決めた! 訓練追加! 今から走る! アオイは私の攻撃を避けながら走るに決定!」

「えぇーーーーー!!」


 今日1番の不満を私はあらわにした。


 * * *


「いやーー走った。大分避けれるようになったじゃんアオイ!」


 笑顔で親指を立てグッジョブみたいにする、てん……いや悪魔がいる。


「爽やかに走った! とか言ってるけど棒で叩かれながら山2つぐらい越えて3時間以上走らせるってどうよ。やり過ぎ!」

「まあ、まあ、ちゃんとついてこれたじゃん、初日にしては上出来! 上出来!」

「今日は晩御飯美味しいよーー」


 笑顔の悪魔がお花畑満載の笑顔でニコニコしてる。


「よし今晩はミカさんが奢ってあげよう!

 なにが食べたい? 焼き肉行っちゃう?」

 

 あぁ、ここに天使がいる……。


 焼き肉屋「牛野郎」にて


「美味しいねぇ」


 ハモりながら幸せオーラを出す2人。


「あれだけ動いたから食欲無いと思ったけど全然行ける!」


 私はお肉を頬張りながら話す。対して上品に食べるミカは私を誉めてくれる。


「実際たいしたものだと思うよ。天使見習いとかなら今頃倒れてるね」

「話し変わるけどミカって何処に住んでるの? アメリカ人設定嘘なんでしょ」

「設定言わない。この近くのアパートだけど寄ってみる?」

「うん、うん! 行く行く!」


 天使の住まいに興味津々な私はすぐにOKを出した。


 * * *


 焼き肉屋さんから歩いて15分もしない内にアパートに到着する。

 最近建ったものなのか綺麗な佇まいのアパート。オートロックで防犯もしっかりしてそうなアパートに入りミカの部屋のドアを開ける。電気をつけるとそこは! なんと言うことでしょう!


「何も無い……」


 家具もベットも冷蔵庫などの家電もない。


「どうやって生活してんのこれ?」

「収納用魔方陣に着替えとか入れてるし、ご飯は外食かな。寝るときは床に転がってるよ」

「えーーじゃあこの差し入れに買ったプリンはどうするの? 魔方陣?」

「食べ物は魔方陣に入れるの無理なんだよね。プリンは玄関に置いててあそこ涼しいから」


 そう平然と言うミカ。こんな天使やだ!


 フと思いつく


「明日も訓練するよね? じゃあ夜は私のところへおいでよ。夜ご飯作るし、なんなら泊まってよ!」

「なに!? 良いの?」


 目をキラキラさせる天使は可愛くガッツポーズをする。

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