非日常の幕開け

 授業が終わり職員室へ向かう。月に一回、担任の先生とカウンセラーの先生と面談をする為だ。

 これは私が学校に戻って来る際、学校側が私に配慮してくれた処置だ。

 面談と言っても堅苦しいものではなく雑談程度でカウンセラーの先生は、話が面白くて密かに楽しみにしている。


「今日は料理のレシピでも聞いてみようかなぁ」


 そう呟きながら職員室の戸を叩く。


 * * *


 スタボの席の一角に少女が2人。

 ブロンドのショートヘアーの少女と黒髪の少女だ。2人とも同じ制服なので同じ学校だと分かる。


 ブロンドの少女はミカ、黒髪の少女は腰まで届く長い髪が特徴的だ。

 目は大きくその瞳は力強さを感じる。身長はミカより少し高い位だが、少し日焼けした肌に引き締まった腕や足は活発さを感じさせる。

 ミカが可愛いなら、こちらは活発系美人って感じである。その黒髪の少女がミカに軽い口調で話しかける。


「なんかさーちょっと嫌な感じしないか?」

「ンー? マイもそんな感じするんだナ?」


 マイと呼ばれた少女がカフェラテを飲みながら呆れた顔でミカを見る。


「いやするし! て言うかそのしゃべり方どうなんだよ。胡散臭さMAXだな」

「仕方ないダロ、この歳で16、7歳の女の子とどう話して良いか分かんないし、なんかキャピキャピしてるし、どもったらこのまま定着してしまったんだからサ」


 ムッとした顔でミカは黒髪の少女を睨む。

 

「にしても、こっちから手を出すわけにもいかないし結局様子見るしかないんだろ。後手後手だな。組織ってのも面倒くさいな」


 マイはお手上げだみたいなポーズをとる。


「仕方ない、もどかしいけど……」


 ミカはカップの淵を口に咥えたまま頬をふくらませる。


「ところでさ、学校生活楽しんでる?」


 ミカが話題を変えてくる。


「ああ、めちゃくちゃ楽しんでる。学校なんて初めて行ったしな」


 マイは腰に手を当て自慢気に答える。


「だと思った、馴染み過ぎでしょ。ホント羨ましい、その性格は」

「だろ、だろ!」


 マイはミカに肘をグリグリしながら答える。


「はあ~いざって時は頼りにしてるからね」

「ああ! なにせ先輩だからな!」


 ピースサインをして更に自慢げなマイ。

 このマイと呼ばれる少女、リアクションがいちいち大きい。


「はいはい、頼りにしてますよーー舞先輩」


 ミカはマイのリアクションにうんざりした顔をしながら言う。


 * * *


「失礼しました」


 職員室の戸を閉めながらお辞儀をする。

 カウンセラーも終わり家路に着く為に一旦荷物を置いている教室へと向かう。


「今日の収穫はなかなかだったかな。帰りに買い物行くから早速作ってみようかな」


 ウキウキで教室のドアを開けた瞬間


 ドックン!!


 空気が震える。サーっと辺りの雰囲気が変わるような感覚。

 意味が分からず立ち尽くしていると


 ガシャーーン!!


 2階の教室の窓ガラスを突き破り何かが飛び込んできた。その飛び込んできたものから何かが飛んでくる。


「!!?」


 一瞬のことになんとか反応して避ける。右頬のギリギリのところ通過した鉄の棒が壁に刺さる。

 

 腰を抜かしそうになるが踏ん張って震える足を懸命に動かす。

 身体能力が上がってても上手く動かせないなら意味がないのが今分かった。


 意味も分からず必死に走る。そして職員室の戸を「先生!!」と叫びながら勢いよく開けるが異変に気付く。

 誰もいない。いなくなったと言うか初めからいない感じだ。

 見慣れた風景だけど別の何かのような違和感。


 後ろに気配を感じとっさに飛んで避けようとしたが間に合わず壁まで吹き飛ばされてしまう。

 ドスっと鈍い音に衝撃


「!?」


 痛いのかも分からず声も出ない。壁に叩きつけられたようだ。


 ゆっくりと迫ってくるなにかを必死で見ようとする。

 人? いや何かおかしい。見た目は人っぽいけど右半分は毛むくじゃらで左側はただれてる? なんだろ特殊メイク? 犬のようなゾンビのような……。

 犬男? いやゾンビみたいだし犬ゾンビ??

 

 そんな事を考えていたら犬ゾンビは右手の鋭い爪を出して私めがけ突っ込んでくる。

 息が苦しい、でも死に物狂いで体を右に倒して間一髪避ける。


 呼吸の仕方も忘れた体を無理やり起こし走る。


「こんなときあのゲームなら銃が手に入って、緑色ハーブで回復出来るんだけどな……」


 苦し紛れに出た言葉がこれ……


「バカか私……でも何か武器になるものは」

 ゼイゼイ言いながら走り戦えそうな物を探す。

 

 確か1、2階に上がる階段の踊り場に対不審者用の刺又があったはず。そんな記憶を思いだし刺又を取りに行く。


 追い付かれる寸前のところで刺又を手にし犬ゾンビに突き出すが、あっさり手で捕まれ折られてしまった。

 

 まずい、死ぬ……


 * * *


 職員室が見える向かい側の校舎の屋上に一人の少女が立っている。


「まずいなあこれは……て言うかなに、この結界? 私ですら通るのに苦労するってどんだけよ」


 その天使のような少女、ミカは向かいの校舎を見下ろす。少女が化物から死に物狂いで逃げている姿が見える。


「あ~もー! そもそもこの状況は何? なんであんな魔物がいるわけ?」


 イライラしながらも周囲を探る。気配は自分以外に3人。2人は分かる。

 最後の1人は分からない。


 おそらくこの人物が結界を張って今の状況を作り出していると思われる。相手の出方が分からない以上今飛び出すのは得策ではないのかも……それでも助けにいきたい。


「アオイ……」


 ミカは頭を掻きむしりながら葵を見て、結界を通ることに専念する。


 * * *


「はあ、はあ、もうムリ……どうしよう、何か方法…」


 色んな事が頭に過る中、何気なくスカートのポケットに手を入れる。コツっと指先に何かが触れる。

 取り出してみるとライターだった。火を操る実験の時に買ったものだ。ただなんとなく火を側に置きたくてポケットに入れておいたものだった。


「火、使えるかも…」


 藁にもすがる気持ちでライターに火をつける。

 そして火に話しかける


「お願い、助けて」


 ライターの火はボッと火力を増したがしょせんは元の2倍程度どうにもなりそうない。


 どうしよう、渦巻いても相手を包み込むような火力も無いし……

 そうだ!? 火を投げれないだろうか。

 石ころでも投げて当たればそれなりに武器になる。ましてや燃えていれば尚更!


 そうこう考えている内に犬ゾンビに追い付かれる。


 火に向かって「丸くなって!」と必死に叫ぶ。

 火はライターの上でゆっくりと丸くなり始め小石程度の大きさになった。

 無我夢中で熱いとかも気にせず、それを手に取り犬ゾンビへと投げつける。

 

 犬ゾンビは思わぬ反撃だったのか一瞬だけ動きが止まったがあっさりと火の玉を避ける。


 当たらない!?


 それは考えてなかった……

 火の玉を警戒したのか牙をむき出し唸る犬ゾンビに背を向けて私は再び走り出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る