綻ぶ日常

「今の話、詳しく聞かせてもらおうカ」

「あそこのスタボでじっくりとネ」

 

 クイッと親指を立てて後ろの建物をミカは指す。

 

 季節限定のストロベリーカフェラテを2人とも注文する。


「また奢ってもらってすまないナア」

「いや良いよ。この話を誰かに聞いて欲しかったし、むしろお願いするから奢らしてよ」

「ン、それでもありがとう。それジャ、話なんだけド」

「あ~えっとね……」

 

 私は停電の夜、コンロの火を動かせたこと、その後の火の実験のことを詳しく話した。

 ファイヤートルネードを噛んだことは内緒にしたけど。

 

 それとバスで声が聞こえたことも話した。ミカは笑う訳でもなく真剣に話を聞いて一言


「その声まだ聞こえるカ?」

 

 私は首を横に振る。


「ンー不思議現象だな、アオイの体調に問題がなければ良いんじゃナイ?

 なんにも解決してなくて悪いけど、体調とか悪くなったら言ってヨ」


 ミカの優しい笑顔に気が軽くなった気がした私は心からお礼を言った。


「うん、人に話したの初めてだしなんかちょっと楽になった気がする。ありがとう」

「ワタシは和、洋スイーツ奢ってもらったし満足しかないゾ。

 後、アドバイスになるか分かんないけど火を操るのはやめといた方が良いと思うヨ。

 よく分からないものは関わらないのが無難ってヤツだ」


 笑いながら冗談ぽく言うミカだが何となく威圧を感じてしまう。


「そうかな、まあ使い道もないしその辺問題ないと思うけど」

「そうか、なら安心ダネ」


 再び笑うミカはいつもの優しくフワッとした感じに戻っていた。


 * * *


「今日はありがとう、また明日学校で」

「こっちこそありがとうナ 気をつけて帰れヨ」

「うんまたね」


 ミカと別れの挨拶を交わし、なんとなく軽くなった気がする足で家路に向かう。


 * * *


 葵を見送った後、ミカは後ろを歩いていた20歳前半の社会人らしき女性に話しかける。


「さてと、盗み聞きとは感心しないけど何か用事?」


 茶色寄りのブロンドの髪を後ろにピッチリと束ねたポニーテールに細く切れ長な目。

 その瞳は濃いめのエメラルドグリーン。背も高くスーツをスラッと着こなしたハーフ美人ぽい外見だ。


 そんな女性に対し、ミカはいつもの可愛らしい顔ではなく、威厳と厳しさのある顔をして女性を睨む。

 そしてその言葉にはカタカナは混ざっておらず普通に話している。


「申し訳ありません、私も仕事ですので」


 社会人らしき女性はミカに深々と頭を下げる。

 女性の方が歳上にしか見えないのに女子高生に深々と頭を下げる光景は周りから見たら異様な光景だろう。


「大体この件は私が見極めるって話じゃなかったの? なんできみがいる? トリスの指示?」

「申し訳ありません、お答え出来ません」


 頭を下げたままの女性にミカは頬を膨らませる。


「トリスなら話せないか……まあ良いけどさ、あの子は私が見極めるって約束なんだから、そっちは手を出さないでよ」

「……」


 無言ですれ違う二人。


 女性の背中を見送った後。


「ゆっくりと時間をかけて見守るつもりだったけど、トリスか……あれが関わると絶対めんどくさいことになるんだよねえ。さてどうしたものか」


 空を見上げてミカはため息をつく。


 * * *


 人通りのない地下駐車場に人影が2つ


「準備は出来ている。明日には決行するぞ」


 黒いローブを被って顔には黒く笑っている表情の白い仮面。

 怪しさテストがあれば満点取れそうな人物が先程ミカと話していたスーツを着た女性に話しかける。


「ああ、貴方に任せるように命を受けている。実行も好きにしてもらって構わない」

「いや助かるね。こっちもやりたいことあるし楽しみにしててくれよ」


 ローブの人物はそう言うとスッと闇に消えた。


「これで良いのか……正直分からないが命令には従わねばな……」


 社会人風の女性もそう呟くと闇に消えていった。


 * * *


「あーイライラする」

 タバコを吸いながら「町田 健太」は先ほどの事を思い出す。


 先方に納めた製品に不良品が混ざっており、その引き取りと新しい製品の納品手続きを終えたばかりだ。必死に謝って先方もなんとか納得してくれた。


 謝っているとき正直「なんで俺が」的な気持ちがなかった訳ではないが問題はその後。一緒に謝りに行った上司からの説教……と言うか八つ当たり。


「そもそもこの件はあいつの担当じゃん。あータバコやめられんし、吸う所も少ないし狭っ!」


 なんかイライラし出したら何もかもが気に触る。

 イライラに身を任せ喫煙所の壁を蹴る。


「ちょっと微妙だが良いかな。探してみると人を殺したいほど憎む者は意外にいないものだね」

「へ?」


 町田は後ろから聞こえた声に振り向こうとしたが目の前は暗くなり意識が消えていく。

 最後に


「こんな事ならもう少し早めにこっちに来るべきだったな」


 そんなボヤキのようなものが聞こえた。

 

 この瞬間「町田 健太」はこの世から消えた。

 代わりにそこにはおぞましい化物が立っていた。

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