人間界編 ~日常から非日常へ~

ブロンドヘアーのクラスメイト

 事故があってしばらくはお母さんの妹である叔母さんの住む東京で過ごしていたが、私の強い希望で元住んでいた地方に戻り元の学校に通っている。


 友達や先生達が気を使っているのもあるけど私もどう接して良いか分からず、なんとなく距離が出来てちょっと居心地悪い。

 

「アオイ! 帰りクレープ食べに行こうゼイ!」


 そんな私にカタカナ混じりな日本語で話しかけるのは同じクラスの『ミカ テレーゼ』 高校2年生に進級したときに転校してきたアメリカ人だ。

 

 ブロンドのショートヘアーにエメラルドグリーンの目。肌も綺麗で笑顔が可愛らしい。まるで天使みたいな子だ。

 私の事情については話しているのだが、気にせず接してくれる。


「一昨日マカロン食べに行ったばっかりじゃん」


 正直あまり乗り気ではない私は遠回しに断った。


「フム、あれは美味しかった。

 外の生地も美しく、なにより上品な甘さ。あれを作る職人は大したものだナ」


 幸せそうな顔でミカは語る。


「今回のクレープ、ただのクレープではないゾ! 和菓子屋が作る何でもそば粉を練った生地をベースにした和風クレープらしい。中身も素材にこだわっていて……」


 そう聞いている内にそのクレープ食べたくなってくる。


「よし、分かった行こう。ミカの情熱に負けたよ」


 ミカの情熱に負けたことにする。


「じゃあ今から行こうゼイ!」

「いや学校終わってからにしようよ」

「終わってからでは遅いかもしない、だから今から行こうヨ」

「いや意味分かんないし」


 そんなくだらないやり取りをしている内に次の授業が始まるチャイムが鳴る。


「ほら、後1時間で終わりじゃん。頑張るよ!」

「ム~クレープ食べたイーー」

「我慢、我慢」


 自分にも言い聞かせながら授業の準備を進める。


「和風クレープか楽しみ」


 そう小さく呟く私。


 ***


 放課後になりクレープを食べに2人で商店街に出る。


『和風一本堂』ここが目的のクレープを売っているお店だ。

 大正時代から続く老舗。最近4代目に引き継いでから目新しく斬新な商品を出し始めたお店である。


「これは美味しいナ 噂に違わぬ上品な甘さ。それにこの和栗が良い仕事をしている!」

「幸せだぁ……」


 背景に花が満開してそうなミカが幸せそうな顔で熱く語る。


「本当に美味しいね。このお店、先代から息子さんに代わって面白いメニュー出してくるし、攻めるよね!

 ただ、納豆とかナポリタンクレープは攻め過ぎな気もするけど」

「イヤ、案外そう言うのが旨いのかもしれないゾ」

「いやそれはないはずだよ……」


 少し気になる……まあ、買わないけど。


 あまり並ばずに買えて、クレープも美味しくて、今日は充実してるなぁとか思っているとミカが申し訳なさそうな顔でこっちを見てくる。


「そう言えばアオイ、ホントに奢ってもらって良いのカ?」

「良いよ、クレープのこと教えてくれたし、誘ってもらったお礼」

「カタジケナイ、借りは返すゼイ」

「変な日本語使わない」


 くだらないやり取りをしている中、なんとなくミカに聞いてしまう。


「ミカはなんで私に優しくしてくれるの? ミカは可愛いしクラスでも人気あるしさ……私より……」

 

 ミカは一瞬目を大きくしたが、ゆっくり答えた。


「始めは興味? どんな人だろうッテ。でも今は人間、アオイそのものが好きカナ。

 クレープ奢ってくれるしナ」


 そう言って笑顔を見せるミカに対し


「それって、他の人からの誘いを断ってまでの理由にならない気がするけど」


 つい、強めの口調で言ってしまう。

 その言葉に対しても嫌な顔もせずミカは答える


「ンーー、結局ワタシがどうしたいかジャン! とにかく、アオイといるのが楽しい。だから一緒にいるナ」


 そう天使の笑顔で言われてしまったら私はこれ以上何も言えない。


「そ、そっか、うん。分かったありがとう、なんか恥ずかしいね。

 そうそう、全然関係ないんだけどさ、もしさ私が火を操れるって言ったら信じる? こうぐるぐるって感じで」


 ミカのセリフに結構恥ずかしくなった私は、話を反らす意味でもなんとなくそんな事を口にしていた。

 

 その瞬間、ほんの一瞬だけどミカの綺麗なエメラルドグリーンの目に鋭い光が宿った気がした。

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