そして
「越智姫っ!!」
ばっとベッドのシーツが跳ね上げられて、そこに寝ていた人物……フラインが飛び起きた。額に汗して、素早く周囲を見回してからはたと気が付いた。そこが、今まで暮らしていたあのあばら屋でない事に。
「そっか―――そうなんだ……」
そして、片手で顔を覆い、口元には自嘲にも似た笑みが浮かぶ。彼はここに自分がいる意味を、隣に越智姫がいない意味を全て理解した。
「ごめん、越智姫。本当にごめん―――」
また彼女を独りにしてしまった。折角、ようやく彼女は欲しがっていたものを手に入れられたというのに、自分はそれを再び奪ってしまった。
「でもね、僕は、いつか―――」
「まあ! お目覚めですか?」
その時、開け放しになっていたドアから、メイド姿の女性が姿を現した。その瞬間、フラインはここが自分のいた国であるという事の意味を思い出した。今までに受けてきた様々な実験が頭を去来し、恐怖の余り悲鳴も上げずにベッドから転がり落ちて壁際まで這いずる。
「フ、フライン様! お怪我はありませんか?」
慌てて駆け寄ろうとしたメイドにパニックに陥り、情けなく震える声を張り上げた。
「こ、こ、来ないで! 僕は、もうあそこには戻りたくない!」
「フライン様、どうか落ち着いてください」
あくまで穏やかに、困ったような態度のメイドに、フラインは恐怖が薄れていき徐々に疑念が強くなっていく。
「あ、あなたは誰ですか?」
「私はあなたの身の回りの世話を任されております、トリーです」
「トリーさん」
鸚鵡返しに繰り返すと、トリーは困ったように苦笑して訂正した。
「トリーとお呼び下さい」
「う、ううぅ……」
この状況をフラインはどうしたらいいのか戸惑い、唸り声を上げる。彼にしてみればこの国の人間は誰も信用できなかった。唯一、ノーマッド位が信用に値するが、それ以外は到底受け入れがたい。だから、目の前のメイドの言葉はおいそれとは信じられない。ここで、フラインは初めてそのメイドの格好を見詰めた。少々くせがあるブラウンの髪に、同種の色の瞳。落ち着いた立ち居振舞いは、よほどの訓練をこなしただろうことが容易に想像できる。身長はフラインよりもあるだろうか。スレンダーな体型で、機能的という言葉がぴったりくる。
一方、そんな警戒するような、慎重にこちらを窺っているフラインを前にして、トリーは困り果てていた。彼女の上司からはこのような状態になるとは聞いていなかったのだ。
「困ったわ。ノーマッドさんに相談してみようかしら」
それはついつい出てしまった独り言だったが、それを聞いたフラインが急に大人しくなる。
「……ノーマッドさん?」
その名を繰り返すフラインの瞳に、今までような怯えが急に薄れていくようだった。
「ノーマッド博士を知っているの?」
「あら、まあまあ、ええ、良く存じてますよ。私の上司に当る方ですから」
「え……そ、そうなんだ」
ようやくまともに話しを聞いてくれたので、トリーは顔を綻ばせる。しかしノーマッドの名がここまで効果がある事は、彼女の上司は当然把握していただろうに。彼は、適度にトリーを困らせようとする悪い癖がある。今回もその癖が出た類かと、小さく息をついた。しかし、今回は何かおかしい。ノーマッド博士と直接の連絡が取れない等、余りなかったことなのに。その微妙な違和感を不審に感じていた最中。
「こ、ここはどこなの?」
フラインの問いかけに、トリーは職業意識から瞬時に頭を切り替えて答える。
「ここですか? ここはあなたのお家ですわ」
にっこりと完成された笑顔のトリーに、フラインはその言葉の意味が解らずに困惑した。
「い、家って……どういう事? 僕は、もう……」
さっと懐かしい今は無き故郷が頭をよぎる。だが、あそこにはもう何もない。何もないのだ。ここが、あそこであるわけもない。あの地域一帯は完全封鎖されている。誰にも、そう、正しく"誰にも"立ち寄れない。"No body"。生きては、そこに行けないのだ。死の空間は、哀しい記憶ごと何もかも呑み込んでしまったのだから。
「そうですね、あなたの今お考えになっているような故郷という意味とは、違います」
フラインはトリーの言葉にぎょっとしたのだ。一言も喋っていないというのに、この人は何故自分の考えている事が解るのだろう?
「あら、まあまあ、そんなに怖い顔をしないでくださいな」
「えっ、ああっ、す、すみません」
驚愕が顔に出てしまっていたフラインは、流石に少しばかり無礼だったかと頭を下げた。
「ふふふ、フライン様はお顔にすぐに出るんですもの。お考えを読むくらい、簡単ですわ」
単純だと言われたも同然なので、フラインは恥かしくなった。
「さあ、まずはお立ちになってくださいな」
柔らかく腰を曲げ、優雅に、嫌味一つ無い動作で手を差し伸べてくる。フラインは無自覚にその手を取ると、立ちあがった。引き起こされたフラインは今更ながらそのトリーと言う人物と正面からまともに向かい合う。線が細く、蝋細工のように整った顔立ちで、少々垂れ気味な目が柔らかい印象を醸し出している。あるいはそれは、今は亡き母を彷彿とさせた。そんなフラインの胸中を知ってか知らずか、トリーは朝の挨拶をした。
「おはようございます、フライン様」
「お、おはようございます」
丁寧に腰を折って挨拶をするトリーに、フラインも同じようにぺこりと頭を下げた。その事にトリーは酷く驚き、そして破顔した。
「うふふ、もう、フライン様はお茶目ですね。どうしてそのような事を?」
「え、いや、っていうか、僕の方が聞きたいんですけど」
「何がです?」
「あなたは何者なんですか? どうして僕の事を様づけで呼ぶんですか?」
解らない事だらけだった。自分が、この途方も無く豪華な部屋を、というか部屋どころかこの家そのものが自分の家なのだと言われても、フラインには悪い冗談にしか聞こえない。彼が出発前に寝泊りしていた教育施設は、それは独房に比べれば格段に居心地が良かったが、この部屋には到底及ばない。
「あら、まあまあ、申し訳ありません。最初にご説明するべきでしたね」
「よろしくお願いします」
「はい。では」
「ここはフライン様のお家というのは、先程申し上げましたが……ではこの家はどこにあるのかというと、中央都市という街なのです」
「中央都市……?」
それはフラインには聞いた事の無い名前だった。このコミュニティを出てから1年余りの間に出来た街なのかもしれない。中央の名を冠するからには、ここは文字通り中心地なのだろう。
「かつてこの土地には"生体科学研究所"というものがあったらしいのですが……」
その名前を聞いて、ばくんと心臓の鼓動が加速した。フラインの脳裏に、様々な死が、今まで何十回となく繰り返されてきた恐るべき死の実験の記憶が脳を圧迫する。
「ぁ……か……」
虚空を見詰める瞳からは光りが消え失せ、瞳孔が好き勝手に収縮を繰り返す。顔色は紙のように白くなり、全身の毛穴から脂汗がにじみ出ていた。
「フライン様、お気を確かに!」
その尋常ならざる様子にトリーも声を荒げる。トリーには、そこで一体何が行われていたのか知るはずも無かった。ましてや、そこで生き地獄を見せられていたフラインの事に思い当たるはずが無い。
「うっがふっ」
最も忌避していたかつての地獄の上に今自分が立っているのだと認識してしまっただけで、フラインは自分を支える力すら失った。がくりとよろける体を、トリーが優しく抱きとめる。
「大丈夫、大丈夫ですから」
そのどこまでも慈愛に満ちた優しい声に、フラインは懐かしい心地よさを感じていた。それと同時に、どうしても拭えない恐怖心に動かされるように、まるで小さな子供のようにトリーにしがみつく。それでも、トリーは微塵も動揺を見せずにフラインを逆に強く抱き返した。
「何も怖がる事はありません。ここには私とフライン様しかおりません」
子供をあやすようにゆっくりと言って聞かせるトリーに対して、フラインもまた次第に落ち着きを取り戻していく。フラインは不意に、幼い頃の母を思い起こした。夜の闇を怖がっていたフラインを、母も同じようにあやしてくれていたのだ。どれぐらいそうしていたのだろう。部屋には時計も窓もなかったので判別はつかなかったが、フラインはそっと顔を見上げる。そこには、優しい瞳をたたえたトリーの顔があった。
「あ、ありがとう、トリーさん」
抱き締められていた手をなるべく穏やかに解くと、一歩、トリーから後ろに退いた。
「落ち着かれたようで何よりですわ。それと、私の事はトリーとお呼び下さい」
何度目かの訂正だったが、フラインはどうにもそれに頷く事を受け入れられない。自分には、やはり分不相応なのだ。
「それで、一体どういうことなのかな……僕には全然わからないんだけど」
「ええ、ここが中央都市だという事はお話ししましたね。そして、あなたのお家だという事も」
「うん」
「フライン様。あなたは、このコミュニティ、中央都市の更に中央、文字通り中心地にいるのです」
「ど、どうして?」
「おめでとうございます。あなたはこのコミュニティの神として認知されました。このコミュニティには全てあなたにとって害悪を為すものは何一つなく、また、このコミュニティの民は全てあなたの為に尽くすでしょう」
フラインにはトリーが言っている事の意味がまるで理解できない。全く唐突過ぎる出来事で、脳が考えるのを無意識に拒否しているように感じた。
「私はフライン様の第一の下僕、トリーです。この身はフライン様のためにあり、そしてフライン様の為にのみ朽ちます」
その自己を省みない献身に、フラインは恐ろしさと憐れみを感じずにはいられなかった。先程の、自分を抱き締めてくれていた女性と同じ人物なのかと疑う程に。
「で、でも! コミュニティはあらゆる宗教思想から解放された新人類群じゃなかったの?!」
絶対死を目の当たりにした人類が最初に為したのは、宗教の廃絶だった。あらゆる困難に立ち向かう上で、得体の知れないものに頼るのを止める事を決断したのだ。ノーマッドは、それを人類史上最高の英断だったと嬉しそうに語っていた。
「そうです。コミュニティはあらゆる困難から己を助けるために、宗教を廃絶しました。だからと言って、神も不要というわけではないのです」
「なんで!?」
意味が解らない。そもそも、神様なんていうのは、はっきりそれと作られていい存在なのか。
「それは、あなたが確かに目に見え、触れることの出来る存在だからですよ」
「神様なんて作っちゃダメなんだよ!」
フラインは、彼には珍しく憤っていた。本当の神を、最も愛しい少女の事を汚らしく蹂躙された気分になったのだ。
「フライン様は、不死なのですよね。それも、生まれつきの」
「そう……だけど」
「ならばそれこそ、自然のあるがままの神たる資格があるという事でしょう」
「でもそんなのオカシイよ! 絶対変だよ!」
「フライン様」
尚も納得のいっていないフラインに、トリーは表情を消した。消した、と思ったのはフラインの勘違いで、実際には悲しみを堪えていたのだ。
「フライン様……我々には、あなたのお力が必要なんです」
「僕には力なんてない。死なないだけ、なんて自分の命が続くだけで、誰も助ける事なんてできやしないんだ」
「私はあの絶対死の中で、家族を失いました」
「え……」
突然の告白に、フラインは戸惑う。それでもトリーは淡々と先を続けた。
「私は生きる希望も何もかも、全て失っていました。しかし、ある時私はフライン様の事を聞き及んだのです」
不死の人間が、絶対死の調査の為に単身デッドラインを越えた――。それは極秘プロジェクトであったにも関わらず、噂はまたたく間に広がった。
「不死。それこそ神性そのものではありませんか。フライン様は、今まで大変な苦労をされたと伺っています。それこそ、人類の悪夢を一身に受けていたと。これは今まで我々がしてきたことへのフライン様に対する償いです。どうか、甘んじてお受けください」
しかし、何を言われてもフラインには絶対に納得できないことだった。
「僕には解んないよ。そんな事を言う君達も、僕に何が出来るかなんてことも」
フラインの叫びに、トリーは哀しそうな顔でじっとフラインを見返した。
「フライン様。残念ですがあなたはもう神なのです。民衆はあなたが目覚め、自分達の前に姿を現すのを心待ちにしております」
「そんな……」
言葉を失い、口をつぐんだ時に、先程までは意識に上らなかったざわざわと大勢の人間達の喧騒が遠くに聞こえる。フラインは最初それが何なのか不思議に思ったが、トリーの言葉を思い出し、そして思い至った。待っているのだ。神たる自分が目覚め、姿を現すのを。思わずトリーの顔を覗き込むと、それを肯定するように、こくりと首肯した。
「さあ、皆さんがお待ちです」
「僕は、絶対に行かない!」
迎えるように手を差し伸べるトリーを睨み据えて、足に力を込める。越智姫を愚弄する真似は断じて御免だった。暫く、トリーは辛抱強くフラインが自分の手を取ってくれるのを待ち続けたが、やがて仕方のなさそうな溜息をついた。
「解りました。フライン様はまだお目覚めではないようですので、皆さんにはお引取りを願ってまいります」
「え……?」
てっきり無理矢理に引きずり出されるものだとばかり思って身構えていたフラインは、あっさりと引き下がったトリーにぽかんとした。
「フライン様、私は先程あなたの第一の下僕であると、申しましたでしょう。あなたの嫌がるような事は、無理強い致しません」
「え――あ――」
「今日はまだお目覚めではないと伝えます。フライン様、私は全てあなたの為にあるのです。ですが――どうか、お姿を皆さんの前に現す事を、どうかお考えになってください」
深々とお辞儀し、懇願するメイドに、基本的にお人好しであるフラインの心はチクリと痛んだ。皆の前に姿を見せるべきだろうかと驚くべき考えが頭をよぎったが、沸き上がる恐怖と、愛しい人への思いがあっという間にそれを打ち消した。
「それでは失礼致します。後程、お食事を持ってまいりますね」
あくまで上品に、扉を閉めて去っていく。フラインはようやく一人になった事で、とりあえずの自分の状況を理解しようと、目を閉じて必死に考え込んだ。ここがコミュニティの中心地であり、自分は神として奉られている存在なのだという。これが何か性質の悪い悪戯であれば、と思うがそうではないだろう事は、トリーと名乗ったメイドの彼女の様子を見れば明らかだ。さて、自分はどうすればいいのか。そこではっと気が付いた。自分がどうすればいいのか、ではない。自分は何をしたいのかを考えれば、自然とその答えは出てきた。
(越智姫――!! そうだ、僕は彼女の元へと帰るんだ!!)
おぼろげに記憶に残っている、可愛らしい自分の恋人の悲しみに満ちた必死の笑顔が、瞼を閉じた瞬間に浮かび上がる。ぐずぐずしてはいられない。一刻も早く戻らないといけない。
「そのために、僕は――」
しかし所詮自分はまだ、このコミュニティの中では子供と言っても過言ではない。不死の身体を除けば、特別身体能力が優れているわけでも、頭がすこぶる良いわけでもない。ならばどうすれば、自分は彼女の元へと辿り付けるのか。その答えは、先程目前でこれでもかと提示されていた。つまり。
「僕が、神様になればいいんだ――」
フラインは、およそその性格からは及びもつかない大胆な自分の考えに興奮してしまい、その夜はベッドに潜り込んでも暫く眠りにつくことが出来なかった。おかげで様子を見に来たトリーが心配するあまり添い寝を申し出る始末だった。もちろん、丁重にお断りしたのだが。
翌日、目を覚ましたフラインは、トリーに会わせて欲しい人がいると聞いてみた。
「まあ、それはどちら様ですか?
「ノーマッド博士です。まだ、帰って来てからまともに挨拶も出来ていないので」
しかしこれに対するトリーの反応は芳しく無かった。ほんの一瞬だが、動揺したように怪訝な顔になったのだ。すぐにそれは何事も無かったようにいつもの笑顔を浮かべる。
「ノーマッド博士は今お忙しいようで・……、申し訳ありませんが、お会いになられるのはまだもう少しかかりそうです」
「そうなんですか。まあ、昔から忙しい人みたいだったから……」
残念そうなフラインに、トリーは良心が胸を痛めているのを感じる。彼にはもう、家族と呼べる存在はない。唯一一緒に過ごした時間が長いのがノーマッド博士であったという事も、博士本人から聞いていた。出来るならすぐにでも会わせてやりたいのに、トリーにはそれが出来なかった。何故なら、トリー自身もノーマッド博士と会えないどころか、まともに連絡が取れなくなっていたのだから。前から抱いていた不信感は更に募るが、しかしそれをフラインの前で見せるわけには行かない。何やらキナ臭い感じがトリーの直感を刺激してくるのだ。
「それよりもフライン様。本日はご入浴なさってはいかがですか?」
名案でも思いついたように笑顔を閃かせて、手を合わせる。
「お風呂?」
「はい。昨晩は早々にお休みに……なろうとしておられましたので、お入りになっていませんでしょう」
途中から苦し紛れに言葉を変えたトリーに、自分が間抜けな事をしていたんだと言われているようで少し恥かしさが込み上げてくる。
「そう言えば、お風呂に随分と入っていない事になるのかな――」
考えれば送り出されてから昨日目覚めるまで、フラインの身体の自由は全く利かないのだから、お風呂になど入れるはずも無い。だが、汚れたままの身体でいる割には、自分の身体はそれほど匂うわけではないような……と、無意識に自分の着ている服を嗅いでいる所を、正面からトリーに見られてしまった。
「フライン様。あまりそのような振る舞いはどうかと思いますよ」
くすくすと上品に忍び笑いをしながら、トリーは柔らかに注意を促した。その姿に、フラインは何故か影達の姿が重なって見え、声を上げそうになる。影達の剣呑さはかけらも感じさせないトリーを、どうして似ていると思ったのだろうか。
「すみません……」
「いえいえ。それに、少々失礼かとは思いましたが、フライン様の身のお清めは定期的にやらせて頂いております。ただ、やはりご自分でお風呂に入られた方が」
「リフレッシュ出来るってことでしょうか」
そういうことです、とにっこりと微笑む。
トリーの案内に従って、浴場へと向かう。彼女が言うには、その浴場はこの家の中でも自慢の設備の一つなのであると言う。フラインには元々風呂に入ると言う習慣がなかった。モルモット時代には、身を清めるとはとても言いがたい、"掃除"、あるいは"強制洗浄"とでも言うようなものしか体験しなかった。だから、越智姫と暮らし始めた頃も、特にお風呂に入るのを抵抗してあまり入ろうとしなかったのだが、とうとう堪忍袋の緒が切れた影達によってたかって放り込まれてしまった。それからお風呂が実はさっぱりとして中々気持ちの良いものだと言う事に気がついて、以来こまめに入るようにしていた。だからか、彼はこの家の風呂に対して、結構期待していたのだ。
「さ、こちらです」
入り組んだ迷路のような建物の中を上がったり下がったり、ようやく辿り着いたその浴場の入り口には、ひらがなで"ゆ"と書かれた大きなのれんが垂れ下がっていた。
「……これは?」
「はい、何でもノーマッドさんがこのようにしろ、と強く希望されたそうでして。私には、一体どういう意味なのか解らないのですが」
フライン自身も資料の中で見たに過ぎない、温泉旅館とやらにつきものらしいのれんを前に、開いた口が塞がらない。絶対死線域を越える為の訓練施設にいた頃から、ノーマッド博士は何か違うなと思っていたのだが、ことここに来てフラインはついに確信した。彼はすこぶるつきの日本びいきなのだ。
「まあ、いいや」
やがて諦めたように一息つくと、そののれんを押し上げて中に入る。果たして、その中も入り口からの想像に違わぬ純和風の脱衣所となっていた。もうここまで徹底されると逆に小気味良い。むしろ浴場がどうなっているのか楽しみですらある。フラインは適当な棚を選んで、着ているシャツに手をかけようとしたところで、さっとトリーが回り込んできた。
「え? ちょっと、トリーさん!? な、なんで入ってきているんですか!?」
「何故って、フライン様の湯浴みのお手伝いをするために決まっているではありませんか」
慌てるフラインとは対象的に、何気負う事もない平然としたトリー。そして絶句している隙に、トリーがささっとフラインのシャツを取り去ってしまう。
「あ! じ、自分で出来ますよ!」
「いいえ、すぐにすみますので」
言いながらもトリーは次々にフラインの衣服を剥ぎ取り、ついに彼は素っ裸にされてしまう、恥かしさのあまり顔を上げることが出来なくなっていたフラインが立ちすくんでいると、今度はしゅるしゅると衣擦れの音が聞こえ思わず顔を上げる。
「うわぁ?! なななな何でトリーさんまで脱ぐんですか!?」
「あら、衣服が濡れてしまいますから」
正面から色々な所を見てしまったフラインは、余りに刺激的な映像に脳がスパークしそうになった。今見た光景を、恐らく一生忘れる事はできないだろう。せめてこれ以上余計な情報を得ないようにと、ぎゅっと固く目を閉じる。しかしそうする事によって先程の映像がより鮮明に瞼の裏に浮かび上がり、顔面の温度がぐんぐん高まっていく。
「フライン様、そのように緊張なさらなくてもよろしいですよ」
「あっはい、だだ大丈夫です」
全然全く大丈夫じゃないのだが、フラインはとりあえずそう答えた。
「では参りましょう」
すっと自然にフラインの手を取り、浴場へと引いていく。それから先の事を、彼は断片的にしか覚えていなかった。何だか随分と柔らかいモノに包まれていたのと、全身隅々まで洗われてしまった事だけが強く印象に残っている。
「ふぅ、参った」
ベッドルームへと戻り、備え付けてあった椅子へと深く腰をかけて、大きく溜息をつく。優秀であろうメイドの彼女は、先程就寝の挨拶をして別れた。
「こんな事、越智姫ともしたことないのに……」
口に出して、フラインはその顔が凍りついた。今、こうしている瞬間にも、彼女は一人なのだ。だというのに、自分はその事を例え一時と言えど忘れてしまっていた。
(僕は――何て酷い! 彼女の事を思っているとか都合の良い事を思いながら!)
本格的にマズイと思った。恐らく、ここにいればいるほど彼女の、自分の愛しい人の事を考える時間は加速度的に削られていく。そしてそれがいつしか、愛という心まで削る事になっていったらと考え、全身に冷水を浴びせ掛けられたかのように怖気が奮った。
その時、ノックの音が響いて、必要以上にビクリと身体を強張らせた。何も答えられないでいると、再度ノックの音がする。
「はい、どなたですか?」
何とか平静を装って尋ねると、ドアの向こうの気配が息を呑んだ。フラインは突然の訪問者に少しばかりの恐怖と疑念を交えながら、恐る恐るドアを開ける。
「どちらさまですか? ――あ」
ドアの向こう、厳しい顔つきで立っていたのは、誰あろうノーマッド博士その人だった。
「は、博士!!」
驚きと喜びが同時に沸きあがり、かつての恩人を見上げる。
「お久しぶりです……またお会いできるなんて」
「…………」
「博士?」
再会を喜ぶフラインとは対象的に、ノーマッドはどこか様子がおかしかった。フラインの記憶の中にあるノーマッドは、いつもどこかしら余裕に満ちた顔をしていた。今目の前にいるように、切羽詰った表情は滅多に見たことが無い。
「何故……」
「え?」
ぽつりと呟いたその言葉に、目を丸くする。
「何故、戻ってきたんだ!」
「は……博士」
叩き付けるように叫ぶノーマッドに対して、まるでワケが解らずに困惑するフライン。しかし、ノーマッドは尚も続けて声を張り上げた。
「君はあのまま、誰にも手の届かない所で生きていてくれれば良かったんだ! 何故帰ってきてしまったんだ! 君は、君は……」
その言葉は段々と小さく消え入り、それに合わせるように膝を折ってうなだれる。久々に姿を見たノーマッドのあまりの様相に、驚き声が出ない。つい、ぼうっと立ち尽くして膝立ちになったノーマッドを見下ろしていた。しかし、フラインは先程の言葉の違和感を思い出し、それについて是が非でも確かめなければならなかった。
「ノーマッド博士。僕が何故帰ってきたのかを知らないんですか……?」
ノーマッドは弾かれたように顔を上げる。困惑の色がありありと浮かぶその表情だけでも、それはフラインの欲した答えを現している。
「一体何の事だ? 君は、自分の意思で帰って来たのではないということか?」
その問い返しによって、フラインはついに確信と大いなる安心感を同時に得た。それは正に、ノーマッドがやはり自分の味方であった証なのであったから。
「僕は出発前に、注射を打たれたんです。"保険のため"の注射を。それが元で、特異な症状が現れた為に帰って来たんです」
「なんだと!! では、帰還してからも私に一切報せがなかったのは――くそっ! そういう事か!! ようやく解った。君が何故帰って来たのかも、私がそれを今まで知らないでいた理由もっ! 何と言う事だ、あいつ等……絶対に、絶対に許さん!! よくもこの私をたばかったな……!」
全ての疑問に得心がいった事によるノーマッドの憤激の様子は、凄まじいものだった。激しい怒りと憎悪を顕にし、今ここにいない彼の敵をののしる。
「ノーマッド博士」
「あ、ああ。申し訳無い。そのような事があったとは……知らなかった、では済まされない事は良く解っているつもりだ」
「そんな。博士、あなただけは最初から僕の味方でした。そして、それは恐らく今もです。博士がそれだけの怒りを感じてくれた事が、僕にはとても嬉しい」
それは単なる慰めではない。心の底からの感謝の気持ちだった。その証拠に、フラインはとても穏やかに笑みを称えていた。
「フライン……。ありがとう」
「頭を上げてください、博士」
「フライン。いや、もうフライン様と呼ぶべきかな」
「博士までそんなことを……。一体どうしてこうなったんですか」
手を広げて軽く持ち上げる。それが自分を取り巻く状況に関しての説明を求めているだろう事を当然察したノーマッドは、全てを包み隠さずに話そうと決意を込めた瞳でフラインを見詰めた。フラインは二人ともドアの前で並んでいた事に気が付き、とりあえずノーマッドを部屋へと招き入れた。
「とりあえず座ろうか。長い、長い話になりそうだからな」
頷き、ノーマッドの前にある椅子へと腰掛ける。それを見届け、ノーマッドはついと顎を反らした。
「始まりは、ある愚かな男の野心からだった」
愚かな、という言葉に暗い感情を滲ませて、昔を思い返すように、遠くを見詰めた。
「その男は、生体科学の研究者だった。優秀な研究員で、将来を嘱望されていたんだ。だが、彼は自身の研究に行き詰まりを感じ始めていた。机上の空論だけでは飽きたらず、実地研修の必要性を説いたが、それは誰にも相手にされることはなかった。その実地研修には、多大な犠牲がつきものだったからだ。諦めきれないその男の前に、ある組織が手を差し伸べた。こちらで実地の用意が可能だと、そう言った。もちろん彼は一も二もなく飛びついたさ。自分の夢が叶うと信じてね」
そこまで聞いたフラインは閃きのように嫌な想像が、予感と言ってもいいものが胸中を染め上げていくのを感じた。
「その組織の名は旧アメリカ軍、生物兵器開発部門。実地の舞台はストーンコート」
そしてそれは的中する。フラインは、我が耳を疑わずにはいられなかった。この十何年と、その街の名を忘れた事などない。驚愕に目を見開くフラインに、ノーマッドは殊更感情を消した声で告げた。
「その男の名はノーマッド・サウナー。私の父だ」
椅子がけたたましい音を立てて床に打ち付けられる。その名が出た瞬間、フラインは自分の座っていた椅子を蹴り飛ばしてノーマッドに飛びかかっていたのだ。全く予測していなかった奇襲に、為す術も無く椅子ごと床に叩き付けられ、ノーマッドは口から小さな呻き声を上げる。
「よくも……よくも……!」
小さな震える声で怨嗟を吐きながら、ギラつき充血しきった目で、襟首を掴み床に組み伏せたノーマッドをまるで純粋な怒りもそのままに睨み付ける。
「……フライン。君の……街の仇、君のその人生……全ての仇。それ……は紛れも無く、私の、父の、仕業だよ」
苦しげに息をつきながらも冷静なその告白を、頭が受け入れることが出来ない。怒りの余り目の前が真っ赤にそまり、掴み上げているノーマッドの姿さえ上手く認識できない有様だった。しかし、フラインはそこで、まるで身体から切り離され、剥離したかのように冷静にそれを眺める自分がいる事に気がつく。自身が、何故ノーマッドに対してコレほどの怒りを覚えているのか、それが今一はっきりしないのだ。自分の故郷を滅ぼされた積怨の対象だからか。だが、そう、彼は何も悪くないハズだ。何しろ、彼とサウナーは別人なのだから。
(そうだ、そんな事は解っている。ノーマッド博士が、一体何をしたって言うんだっ!!)
それを頭では理解していても、中々心で納得する事が出来なかった。
「フライン様っ!? 一体何が――っ!?」
その時、騒ぎを聞き付けてやってきた寝巻き姿にカーディガンを羽織ったトリーが、目の前の光景に息を呑んで立ちすくむ。大人しい少年だと思っていたフラインが、全く連絡の取れなかったノーマッドを組み敷いて激しい憎悪をみなぎらせているのだ。
「トリー、君は部屋に戻っているんだ」
ノーマッドが厳しい声音でトリーに出ていくように言った。
「で、でもっ」
こんな状況を見て、おいそれと立ち去れるはずは無い。しかしトリーの迷いに、ノーマッドは更に厳しい、底冷えのするような言葉で退出を言い渡す。
「これは命令だ。明日の朝まで、ここには立ち入るな」
「は、はい――――」
例え納得できなくても、これはノーマッドが自分で選択した事なのだ。だから、邪魔をしないで欲しいというその言葉に秘められた思いに気付いてしまったトリーは、出て行こうとして、一瞬だけ心配そうに振り返るが、ノーマッドの言い付け通りに自室へと戻っていった。
トリーの出現を歯牙にもかけず、フラインは憎い相手をひたすらに睨み据えていた。だが、ひとかけらの理性と、ノーマッドに対する恩義が、彼の胸倉から指を離させた。
「―――――」
噛み砕きそうなほど奥歯を噛み締め、床に向かって、拳を叩き付けた。高級そうな絨毯に、ごんと不似合いな音が木霊する。
「フライン。続きを聞いてもらえるだろうか」
何も言わず、ただ俯きがちな頭を縦に振る。ノーマッドは起きあがり、胸元を正しながら椅子も起き上げて、座った。フラインもそれに倣って椅子を戻し、対面に座る。
「あの実験は、新しいウィルス性の病気を人工的に作り上げ、それの効果を確かめるために行われた。その過程で、当然ウィルスに対して抵抗、或いは適応してしまう人間が出てくることが予想されていた。それらの人間を更に調べ上げ、より効果的な兵器を研究する。そういう目的だったんだ。その実験過程において、君は偶然発見されてしまった。死の病にかかっても、連続的に肉体を再生させる力。その能力の特異さ故に、君は実験動物同然の扱いを受けていたわけだが……」
そこでノーマッドは言葉を止め、フラインの様子に注意を向けた。その時代の話しに、やはりフラインは顔色を紙のように白くして全身を震えさせていた。だが、そのノーマッドの気遣いに答えて、絞り出すように小さく続けてください、と言った。
「父は、君もいたと思うがあの場で射殺された。あの男、タンダーによって」
「タンダー……? あの、軍服の小太りの?」
「そう、その男の名だ。性格は残虐非道、目的のためならば手段を選ばず、奴の為に犠牲になった人間は数え切れない」
フラインは、記憶の中のタンダーを思い起こした。にやついた顔、自分に迫り来る手。映像が断片的に現れては消えて、少しばかり混乱した。
「それが、どうして今の僕に関係が?」
「……今、このコミュニティで実質的な支配者は三人いる。全ての頂点に立つステイト氏。私、ノーマッド。そして、最後の一人がタンダーだ」
「えっ……!? そ、それは一体どういう事なんですか!?」
衝撃的な発言に身を乗り出して、ノーマッドを問い詰める。
「タンダーはあの絶対死を潜り抜けて、今はこのコミュニティの指導者の一人になっているんだ。そしてその三人で、絶対死線域の原因調査についての会議が開かれた。そこで、ステイト氏が君を起用する事を提案し、それは了承された。私と君が出会ったのはその直後だな」
ノーマッドの言葉を精査して、必死に把握しようと努めるフライン。
「それで、どうして僕が神様に……?」
そこでノーマッドはフラインの背筋が凍りつくほどぞっとした笑みを浮かべた。
「それは復讐だよ」
「復讐?」
「幾ら非人道的な人間だったとはいえ、私にはかけがえのない父だ。その父が、最後に君と出会った事により人の心を取り戻して、君を守るために死んだ。私は、父が成し遂げられなかった無念を、どんな事をしてでも必ずやり遂げると誓った。それが、絶好の機会に巡り合えたんだ。君の指揮、監督を努めるという任務がね」
闇に包まれた部屋から連れ出され、久方ぶりの外の世界を見たあの時を思い起こした。それがまさかこんな事になろうとは、想像できる筈もない。
「私は――、最初から君はコミュニティに戻ってこなくてもいいと思っていた。その方が、より確実に、安全に生きていけると」
「最初、から。それは――」
続きを口にする前に、フラインはノーマッドと一緒に研修と称して行った、数々の勉強、訓練を思い起こす。そして確かに、今考えればそれらの内には、およそ任務には必要のない技術・知識がかなり盛り込まれていた事に思い至る。例えばそれは、あの国の風習、世俗文化であったり、長期的なサヴァイバル術であったり……。
「そして、同時に私の父を殺し、君を囚われの身にしたあのタンダーに対する復讐の準備も行っていた」
陰鬱な声音で語るノーマッドの目は暗く、闇に沈んでいた。
「それこそが、君を神へと祭り上げることだったんだ」
「じゃあ、まさか! 僕を神様だって言い出したのは!」
「そう、私だよ。君が出発する前から、少しずつ情報を漏らしていた。"絶対死線域"の調査に、不死の肉体を持つ若者が単身未知の領域へ挑もうとしていると」
「そうやって人々の心に、英雄として、神様として僕を刻み付けていったんですね。……何て事を! あなたは、僕が最も忌み嫌う行為をやってのけたんだ!」
ノーマッドは知らないだろう事だが、それは彼にとって最大の侮辱であり許しがたいものだった。全ては、彼女の為に。
「そうだな。宗教廃絶をあれだけ称賛しておいた手前、返す言葉も無い。だが、これは必要な事だった」
残念そうに小さな声で告げるノーマッドに、フラインは猛然と怒りをぶつける。
「博士、あなたは勝手です。身勝手だ! 僕には何も知らせずにただ利用し、逃がして……それじゃあ、僕はあなたの何なんですか?」
その痛烈な非難に、ノーマッドは泣き笑いのような全く覇気のない顔でうなだれる。
「そう思われる事も当然覚悟していた。辛い、事だ……、だが、それによってタンダーを追い詰める事がようやく出来た」
「どういう、事なんですか」
「神様を捕らえ、神様を実験動物同然の扱いに陥れた者が、人々の信頼を得る事はできないだろう」
「そうか、そうやって孤立させたんですね」
ついでに、あの男が行った過去の悪行も含めて全て暴露してしまえば、一人抗った所でおよそ無意味だろう。
「そうだ。おかげで奴は遠い所へと行った。もう、このコミュニティにはいない。しかし奴の息のかかった勢力の一部がまだ存在している。君の帰還も、君への注射も秘匿し続けていた連中だ。しかしそれもじきに排除される」
しかしそこでフラインはかすかな違和感に襲われる。今の言い回しは、何かおかしくないだろうか。もう、この世界には死者の国とコミュニティしか存在しない。だというのに、ノーマッドはタンダーがもうここにはいないと言う。このコミュニティ以外に、どこに行く場所があると言うのか。そして、そこまで考えてフラインは恐ろしい事に気がついて全身を震わせた。
「タンダーを……殺し……たんですか……?」
震える声で勝手に口を突いて疑問が漏れ出る。そして、それに対するノーマッドの反応は顕著なものだった。彼は、表情を固く引き締め、険しい顔でフラインを見返した。
「そうか、君とは随分な期間一緒にいたのに、忘れていたよ。君は賢かったな。ならば認めよう。私は、君と父の仇を、自分の手で成し遂げた」
やはり――!! ノーマッドは、ついにその手を自らの意思で汚した。そしてそんな男に、越智姫と同じ神の称号を与えられた事に対して、フラインはこの上ない恐ろしさ、不気味さを感じていた。
「何と言うことを……。暴力で解決を計る何て!」
しかもそれに乗じての権力争いも含まれている事が、より一層フラインの怒りを燃え上がらせた。あれだけの災厄に見舞われても、尚人類は同じ事を延々と繰り返すのか。
「フライン。人には、理性ではどうしても対処しきれない事もあるんだ。どれ程自分が間違っているか自覚していても、そして自覚しているからこそ、感情を抑制するのは到底難しい」
彼は自分が間違っている事を認めている。そして、それ以上にタンダーに対する憎しみに溢れている。その結果と、更には利己的な計算が最悪の行動を選択させたのだ。
「僕は、そんな事を頼んだ覚えは――!」
「解っているさ! それが自分の卑しい押し付けや責任転嫁であることくらい! だがどうしようもなかった。どうしようもなかったんだ……」
ついにノーマッドは顔を両手で覆い隠して自身の不甲斐無さと、心根の醜さを嘆いた。
「心配しなくとも、きちんと幕引きはするつもりだ。それが、せめてものけじめだから」
その言葉に隠された意図に、今度こそフラインは怒りを爆発させた。
「あなたは、自分が命を断てば全てが解決されると思っているんですか!? そんな事は許さない!」
苛烈な物言いに、悲しんでいたのも忘れて呆気に取られるノーマッド。
「これまでどれ程の人々に犠牲を強いてきたのかなんて、そんな事は僕には解らない。それでも、あっさりと、ただ自分の命を投げ捨てれば済むような話しじゃないはずです!」
その怒声に促されるように、ノーマッドは己の命の価値などというものを、改めて考えてみた。復讐さえ出来れば、とそう願って、そして現実にするために生きてきた。だが、それは父を殺されてからの話しだ。では、その前は――? 自分は、最初一体何をするつもりだったんだろう?
「あなたはただ罪の重さに耐えきれないから、そこから目を背けただけだ!」
「――――!!」
それは余りにも強烈な一撃だった。頭を思いきり殴られたような衝撃が、ノーマッドを襲う。今、気付いた。言われてすぐに認めてしまっていた。自分は、この絶望だらけ世界に疲れ、安易な方法に逃げたのだ。その上、更にその罪を負うことすら出来ずに、もっと楽な方へと逃げ様としているのだと。
「自らの行いを悔いるなら、そんな行動を選択するべきじゃない!」
どれ程罪の意識に苛まれても、そこから目を逸らす事無く、日々増していく重圧を受け止め、それと戦っていた少女。誰に許してもらう事も出来ず、その小さな胸を引き裂かれそうになっても、それを償いとして安易な終焉を選ばずに、真っ直ぐに向き合っていた高潔さ。
それに比べなんと身勝手で矮小な事か。ノーマッドはこんな、つまらない男だったろうか。違う。絶対に違う。あの、訓練施設で自分と接していたノーマッドには、自分に対する確かな信念と誇りを持っていた。今はただ単にそれを忘れてしまっているだけなのだ。
「フライン……」
「あなたが始めた事です。最後まで、あなたには見届ける義務がある」
じっとノーマッドの目を覗き込み、心の中で早く目を覚ましてくれと、幾度も念じた。
「…………」
沈黙のヴェールが部屋を覆い尽くす。二人の間には何も遮る物はないというのに、フラインはノーマッドを隙間から窺うように注視する。
「そう、か。そうなんだな……。私がしたこと、私が責任を持つのは当たり前か」
果たして思いは通じたのだと、フラインも信じた事だろう。死人そのものだったノーマッドの目に、生気や活力といったエネルギーが戻っていく。フラインはそれを見届け、大いに満足していた。
「フライン、約束しよう。もう軽はずみな事はしない。言わない。逃げない。最後までやり遂げる。それが、私が君を巻き込んだ責任の取り方だと信じて」
そこには、もはや先程までの敗残者はいない。誇りと信念を再び取り戻した男がいた。
「良かった。ありがとう、ノーマッド博士。あなたがそう言ってくれて、僕はとても救われた気持ちになります」
「何の、感謝しているのはこちらこそだ。くだらん大人の事情に振りまわして、申し訳無い」
そう言ってノーマッドは照れ臭そうに微笑んだ。そのあまりにも自然な笑顔に吊られたのか。
「いいえ。だからこそ、僕は彼女に会えたんだから」
フラインは、ついそう漏らしてしまった。
「彼女……?」
聞き返されて、自分が失態を演じた事を思い知らされる。
「君は、絶対死線域の中で何を見たんだ?」
「それは――――」
言い澱み、どうしたらいいのかを思い悩む。全てを正直に話してしまっても良いものか、或いは適当に誤魔化してしまうべきか。だが、ノーマッド相手に隠しおおせる自信はない。ならば、全てを正直に打ち明けて、彼に協力してもらった方がいいのではないか。そうとも、自分は、彼女の元へと帰らなければならないのだから!
「これから話す事は、僕達二人だけの事にしておいて欲しいんです」
「……解った。決して口外しない」
「僕は、絶対死線域の中で、一人の少女と出会いました。彼女こそが――」
越智姫とフラインの、長く短い物語を余すところ無くノーマッドへと打ち明けた。全て話し終え、場には重苦しい沈黙が降り立つ。時計の秒針を刻む音がやけに大きく鳴り響いているように感じた。やがて、ノーマッドが唸るように率直な感想を述べる。
「信じられん。そのような、超自然的な事象が原因だなどとは」
眉間にしわを寄せて、軽く目を閉じ頭を振るノーマッド。
「にわかには信じられないかもしれませんが、彼女は嘘を言ったりはしません」
「それはそうなんだろうが。では、いずれ絶対死線域は解ける日が来るのか?」
「どうでしょうか。もう、あの国には彼女しかいません。もし彼女が最後の代なのだとしたら、そういう可能性もあるかもしれません」
「なるほど。それはともかく、君は帰りたいんだな、その彼女の所へ」
その確認に、深く強く大きく頷く。
「はい。僕は、もう何があっても最後には彼女の傍にいると決めました」
真っ直ぐな瞳を見詰めて、ふっと唇を緩めるノーマッド。
「そうか――、私が何をやるべきか、決まったな」
「え? どういう事ですか」
解らないと言ったフラインに、ノーマッドはにやりと笑った。
「どんなことをしても君を送り返す。そして、幸せになってもらうんだ。それが亡き父への最高の手向けになるだろう」
「博士!」
やはり、彼はフラインの為に行動を起してくれる。例えそれが、彼の贖罪意識から来るものであったとしても、フラインにとっては充分な喜びである。
「さて、随分話し込んでしまったな。もう夜も遅い、眠ろうか」
「そうですね。明日は、僕は皆の前に出なくてはいけないでしょうし」
「そうだな」
ノーマッドは立ち上がり、帰り際にフラインに向かってにっと悪戯っぽく微笑んだ。
「がんばれよ、神様」
「あはは。まるで冗談ですね」
二人はひとしきり笑い合って、今度こそ別れた。
翌日、フラインはコミュニティの正式な神様として、待ちわびた民衆の前に姿を現した。人々の大歓声に照れ臭そうに恐縮しながら、それに応え、とうとう自分が神様である立場を、完全に明示したのだ。
それからの日々は、まさに多事多端の極みであった。フラインも、具体的に神様として何をするのかと疑問に思っていたのだが、その実務内容に唖然とした。いわば、何でも屋なのだ。
「フライン様。2ブロックの橋が随分痛んでいます。どうか、整備点検を行って頂けませんか」
「解りました。早速、その旨伝えておきます」
「フライン様。最近どうも食料品の鮮度が落ちているような気がするのです。どうか、厳正な調査をお願いします」
「はい、では農務関係に聞いてみましょう」
「フライン様! 隣の家の犬がうるさくてたまらんのです! 何とかしていただけませんか!」
「…………・では、お話しを伺いにいきます」
このように人々の苦情や陳情を汲み取ったり。
ガンガンガンガンガンガンゴガガガガガガガコンガコンガコン……!!
「…………!! …………っ! …………!(フライン様!! この工事現場では、安全重視でして!)」
「……!? …………!!(何て言ってるんですか!? もう一度お願いします!)」
大型工事現場の視察に出向いたり、
「はい、こちらは先史時代の宗教関係の建築物と言われていまして、この建築様式はかのオルカインが――」
「……………………」
観光地へPR活動を行ったり、
「はい、では今夜のゲストは有り得ない位の超大物、何と何と! 神様フライン様でーす!!」
「あ、ど、どうも」
「神様! そんなに緊張しないでください! そんなんじゃあ威厳が保てませんよー?」
テレビに出たりラジオに出たり、かと思えば雑誌の取材に応え、更に政策会議へ赴いたり。
「つまり、東区域では未だ経済格差の開きが大きく、西側と比べて顕著であり――」
「そもそも、経済構造に問題があるのではないか? もうちょっと公権力の介入を推し進めて――」
「バカな! そんな事をすれば世論の総攻撃を食らうぞ。ここはひとまず、特別予算を一時的に組んで――」
「――――――」
「フライン様、こういう案に落ち着きましたが、いかがでしょうか」
「ええ、それでいいと思います」
「ではこれで進めましょうぞ」
所詮、不死なだけで他の能力は普通の少年と何ら変わらないフラインがそういった場で役に立つ事は殆ど無いのだが、それも言わばお飾りの側面が強いので、ただいるだけで良いのだ。
「つかれた……」
広大の自室のベッドへと身を沈ませて、心の底から思った事を呟いた。
「あらあら、フライン様。随分お疲れのご様子ですね」
トリーが、ベッドの側に据え付けてあるシックな椅子に腰を下して、編物をしながらフラインを労う。
「そりゃあね、あれだけ働けば疲れますよ」
少しだけ拗ねるように唇を尖らせて、フラインは枕に顔を沈める。この超多忙な生活が始まって既に2年。もうダウン寸前だった。そんな様子のフラインをしばし眺めていたトリーだったが、彼女には神様の日程を変更するような権限はない。ただ、話しを聞いて元気付けてやるぐらいしかないのだ。だが、トリーは本当に良くフラインに尽くしていた。この二年間を無事に過ごしてこれたのは、彼女の助けによるところが決して少なくは無い。
「明日は新型船舶のお披露目式だそうですよ。どんな船なんでしょうね」
「……うん。そっか、もう、明日何だ」
その呟きには、言葉以上の重みが備わっていた。それはフラインにとって、何よりも心待ちにしていた日だ。この2年間を気力で乗りきったのは、偏に明日の船舶お披露目式があったから頑張れたのだと言っても過言ではない。ようやくだ。ようやく、僕の望みが叶う。この日の為に、ノーマッドと示し合わせて周到に計画してきたのだ。だが、フラインは出発前に、この献身的なメイドを説得しなければいけない事を思い出した。どうやって切り出そうか? 彼女の自分に対する盲信振りは、一筋縄でいきそうにない。
「トリーさん。お話しが、あります」
「まあ。フライン様。結局、最後まで呼び捨てにはしていただけませんでしたね」
「えっ!?」
哀しそうに嘆息するトリーに驚いて、思わず振り返る。目の前の彼女は、相変わらずの微笑みを称えていたが、少しだけ寂しそうに眉根を寄せていた。
「明日ご出発されるのでしょう。再び、あの国へ」
それは疑問ですらない確認だった。
「どうしてそれを……」
この計画は秘中の秘だ。万が一にも他に漏れぬよう、慎重に慎重を重ねて準備してきたのだ。勿論、トリーにも話した覚えは一切ない。
「私はフライン様の第一の下僕ですよ。これくらいは当然把握しております」
少しばかり胸を反らして、得意気な顔のトリー。それに対し容易く説得できまいと気負っていたフラインは完全に毒気を抜かれて、ぽかんとメイドの顔を見詰めていた。
「僕は、行ってもいいんですか?」
全く間抜けな質問だった。聞いてから即座にしまったと思ったのだが、それはもう遅い。案の定、トリーも少し意地悪そうな顔で反問してきた。
「あらあら、では、私が体を張って行かないで欲しいと懇願すれば、思い留まって頂けるのでしょうか」
「いいえ、それは出来ません」
しかしこれにはきっぱりと即答する。もうはや、彼には行かないという選択肢は存在しない。ただ遅いか速いかの違いしかないのだ。そしていつであれ、チャンスがあれば絶対に先延ばしはしない。
「ならば私は、せめて笑って見送るしかないじゃないですか」
寂し気な微笑みを浮かべて、困ったように笑うトリー。
「わがままを言ってすみません。でも」
その言葉の続きを遮って、トリーは首を振った。
「いいんです。それ以上は仰らないで下さい。でないと、私泣いてしまいますよ」
「それは――。ごめんなさい」
「だから、謝らないでって……言っています……のに、あなたは……ううっ……ううぅぅ……」
どこまでも気丈に振舞って笑みを絶やさなかったメイドは、我慢の限界を超えて顔を両手で覆い静かな嗚咽を漏らした。フラインは、今まで尽くしてくれたメイドの最後の頼みとして、二人同じベッドで寝る事を快く受け入れた。時に母親のように、時に姉のように自分を見守ってくれていた大事な人は、最後の晩だけフラインと対等の女の子として、枕を並べた。
出発の日。天気は快晴。まるで今日という日を祝ってくれているかのような空を見上げ、フラインは大きく背伸びをした。
「フライン様。本日の御召しものは、こちらで宜しいでしょうか」
朝早くベッドを抜け出して自室へと戻っていた彼女が手にしているのは、空色のTシャツだった。その懐かしくも嬉しい服は、勿論越智姫が自分の為にと選んでくれたあの服だった。
「これは――」
「あなた様が帰還された時に身に付けられていた物です。大事な――物なのですよね」
「はい……とても、とても大事な物です。ありがとう、トリーさん」
「フライン様の為ですから」
その時、コンコンとドアがノックされる。フラインにシャツを手渡したトリーが出迎えると、そこにはノーマッドが立っていた。
「どうだい、気分は」
「ええ、天気もいいですし、絶好の出発日よりですね」
「ふむ。準備は万端かい?」
「ええ、いつでも」
その頼もしいような引き締まった顔に、ノーマッドは相好を崩した。まだ研究所から連れ出したばかりの頃とは、比べ物にはならない程男らしく成長している。ノーマッドは自覚してはいなかったが、それはまるで我が子の成長振りを眩しく思う父親の姿そのものであった。
「では、行こう」
「はい」
「私も、お見送りしても宜しいですか?」
「もちろんです。一緒に来てください」
「では――」
トリーが最後に部屋を出て、扉を閉める。もう、この部屋に主が帰ってくる事は二度とはないだろう。2年間だけその役目を全うしたフラインの寝所は、トリーの手によって今まで過ごしてきた時間を労るように、パタン……と優しく閉じられた。
そして神様は、自分の本当の居場所へと帰って行った。その後のコミュニティの混乱は、実はそれほどでもなかった。皆心のどこかで思っていたのかもしれない。神様には、帰るべき場所があるのだろうと。
二回目の航海の先。以前と同じ浜辺へと着いたフラインは、以前と同じように自転車にまたがり、以前よりもずっとずっと早い速度で、真っ直ぐに、一直線に"家"へと向かった。
だから、目の前には――その子がいた。
「あ、あ、あなた、だあれ?」
「……やあ、始めまして。お母さんはいるかい?」
その人は、産まれて始めて見た私達以外の人間だった。それがお母さんを探している。ところどころほつれている空色のTシャツに、金色の髪。Tシャツと同じ色の目。
「え……う……」
私は怖いのかどうかも解らなくて、何も答える事が出来ずに家の中へと駆け込んだ。家の中には、お母さんと私の双子の妹が一緒にいるはずだ。
「おかあさーーん! 変な、変なのが!」
「なんだ、また狸でも見たのか? どれ、母が追い払ってやろう」
面倒そうに言うお母さんに、双子の妹がしがみついている。
「あたしも、あたしも見るー」
「あ、ちょっと、待って!」
「もう、いくつになっても狸が怖いだなどと……それでも死神である母の娘だというのか」
表に出たお母さんが、さっきの変なのを見て止まってしまった。信じられないものでも見るように大きな目で、あの人を見てた。
「まさか……これは夢なのか……? 狸が、化かしているのではあるまいな……」
「夢じゃないさ。 久しぶり、越智姫。長い旅行から、帰ってきたよ」
「そんな……フラインが……何故、どうやって…………」
怖がるようにそれを見ていたお母さんの目に、段々涙が浮かんでいく。
「越智姫、ただいま」
「フライン! フライン!!」
お母さんは、良く解らない事を言ってそのものに飛びついた。そこでようやく、いつもお母さんが言っていた事を思い出した。そう、お父さんっていうのが、丁度あんな感じだったような気がする。お母さんはそのお父さんみたいなのにしがみついてわんわん泣いている。
「お帰り! お帰りなさい! ずっと――ずっと待っていたのだぞ! か、帰りが、少しばかり遅いではないかぁっ!」
「ごめんね、越智姫。苦しい思いをさせてしまって。でも、もう大丈夫だよ。ずっと、これからはずっと一緒だ」
何故か釣られて、妹までお父さんにしがみついて泣いていた。私は一人だけのけものにされた気がして、だから私もお父さんにくっついてみた。
「この子達が……僕と君の娘?」
「! フライン……。そう、そうなのだ……。こっちは、海乃。こっちが空乃だ。双子……なのだぞ」
お母さんは泣きながら、でもとても嬉しそうに私達を紹介した。
「そっか。二人とも、始めまして。僕が君達のお父さんだよ」
そう言ってお父さんは、私達を抱き締めてくれた。私はとてもビックリしたけど、でもそれはとっても自然な事に思えて、精一杯抱き返す。お父さんは太陽の匂いがした。何だか、とっても不思議な感じだった。凄く安心できるような、暖かいような。お父さんは私達を抱え上げると、お母さんに向き直る。
「これからまた、一緒に暮らしてもいいかな?」
「当たり前だ! お主の家は、ここだけだ。ここが、私達の家だからな」
「うん、ただいま。愛しき我が家……だね」
この日、私達に新しい家族が増えました。お母さんは見た事ないくらいはしゃいでいて、でも、私達もそれ以上にはしゃいでいて、久しぶりにモウジャさん達も現れて、私達は、これからいっぱい幸せになれるんだろうなって、そう思いました。
大騒ぎを繰り返すフライン達4人を、亡者達は遠巻きに眺めていた。これでもう不足はない。全てはいい方へと収まったのだ。そして、亡者達は更にもう一つ、とても重大な事実を把握していた。
「なあ、気がついているか?」
「ああ。まさかと思ったがな」
「本当に、驚くべき事だ」
「まさか、越智姫様の力が薄れているとは」
漠死結界の無限死が、徐々にその効力を落としているのだ。それは双子が生まれた事によるものなのか、呪いの浄化によるものなのかは解らない。だが、実際に越智姫の死の能力は衰え、薄れている。近い将来、結界を張る必要も無く、全てが解放される日が必ず来ると、影達は確信していた。
未来は、生と死を乗り越えた先に生まれつつあるのだ――。
死神の詩 N通- @nacarac
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