病がもたらす物語

《診察室に呼ばれた両親、その表情はこわばっている》


『お子さんの症例は見たことがなく、恐らく日本では手がつけられないと思われます』


《医師による無常な告知、両親は激しく動揺》


『そんな!?うちの子は助からないと言うんですか!?』


《医師に縋り付く母親、目には涙を浮かべている》


『可能性があるとしたら……アメリカの優れた医療機関しか……』


『やります……どんな事でもしますから、子どもだけは必ず助けます!』


《泣き崩れた母親に代わり、父親はそう宣言する。だが医師の表情は暗く》


『ですがお父さん……渡航費や手術代、その他もろもろ諸費用合わせて3億円は必要でして……』




ちょ、ちょっと待ってください!

いくら作りものの話とはいえ、この内容は無理がありませんか?


「ええ?これから両親は3億円を捻り出すため、もう一人の娘を機関に売り渡すんだけど」


いやいや待ってくださいって!

なんですか機関って!

この話って現代日本ですよね!

だったら高額医療費控除とか制度があるし、ちゃんとした病院なら自己負担額90万円もあれば十分ですし!


「じゃあ90万円で売り渡すか」


そうじゃありません!

だいたい支払いについても融通は効くし、そもそもコロナ禍で大変なことになってる今アメリカに渡るなんて話、通るわけないじゃないですか!



「なるほど……こりゃ重症だね」


な、なにが言いたいんですか?

私はただ、ちょっと調べたら分かることを調べもせず、令和にもなって古典の焼き直しみたいな話を書く作家や脚本家が許せないだけです!


「そういう所だよ、キミは話の本質を見ていない。そもそもこの設定は、あくまで主人公にバトルをさせるための口実に過ぎない。この話のウリは少女たちによる超常バトルアクションであり、我々が暮らしている現代日本とは異なる現代日本なわけだ」


?それはそうですが、だったら現代日本でやる必要なくないですか?それこそ昭和中期とかでやれば……


「この現代日本ではこう、割り切ることが大切なのさ」


いや、開き直っちゃダメでしょ!

そういう嘘が、物語から骨子や血肉を奪い、1クールの深夜アニメで消費された後は何も残らないペラッペラな作品を生み出すんです!



「それの何が問題なのかい?」


……え?

何って、そりゃ色々と……


「私はそういう話が好きだし、そういう話を書きたい。キミはもっと端っこまで詰まった完成度の高い物語が好きで、そういう話が読みたい。私たちの主張は決して交わらないし、それなら互いに見て見ぬフリをするのが最善手だと思うのだがね?」



……………………


「なんなら自分で書いてみるといい。今はいい時代さ、重厚な物語だってデータにして端末で見れちゃうし、なんなら自分で紡ぐことだって出来る。ほら、このサイトなんて最高だ」



こ、このサイトは!

KADOKAWA×はてなが提供する、様々なWeb小説を無料で書ける・読める・伝えられる小説投稿サイト【カクヨム】!?


「使い方は、君の端末で調べてみるといい。キミだけの性的衝動リビドーをぶつけたまえ!」



これさえあれば……私が望む物語を……紡げる…………?


「そうさ。誰にも縛られない、君だけの物語をね」





《診察室に呼ばれた両親、その表情はこわばっている》


『お子さんの症例は珍しいものですが、諦めずに戦っていきましょう』


《医師による前向きな告知、両親は小さく頷く》


『分かりました……それで先生、その……費用のほうは?』


《現代日本の若年層は平均収入が低く、共働きでやっと暮らしていける家庭も少なくない。そんな両親にとって気掛かりは費用のことだが》


『高額医療費控除など色々な制度がありますし、だいたい90万円ほどになるでしょうが、今日明日いきなり耳を揃えて払えなんて詰めることもありません。なのでどうか思い詰めないで、早まった選択はしないでください』


《医師はそう告げ、両親は静かに涙をこぼした。こうして一つの家庭は離れ離れにならず日常は守られましたとさ》




うーんこれは……なるほどねぇ。


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