43話

 どのくらいの時間を考えに巡らせていたのか分からない。それでも、ヴァルを撫で彼の体毛に触れていると自然と口元が緩んできてしまう。



「ヴァルの毛は触り心地最高だなぁ」なんて口にしながら堪能していると、徐に声を掛けられた。



『アオイよ、我と仮契約ではなく正規契約を結ぶのはどうだ?』


「契約に仮ととか正規とかあるんだ」


『何も知らぬのだな』


「何も知らなかったら明日にでも死ぬの? 生きるのに困るような内容でもあるの? 」


『いや、悪い意味で言ったのではないのだ。気持ちを静めてくれないか』



 むぅっと口を尖らしながらも触るのをやめない僕を見るヴァルは、初めて僕と知り合った時のようにどこまでも優しい視線を向けてくる。


 そんな彼から「主従ではなく対等に結ぶ契約が正規なのだ」と聞かされた。

 主従は、人間でいうところの「奴隷」に近いものがあるのだとか。主である者の命令は絶対服従の為、理に適わぬ内容であっても実行しなければならない。


 でも、僕が望むのは あくまでも対等にお互いの気持ちを尊重し合う存在だから 今の仮契約では無理が出てくる。

 それが、僕の目的が達成され無効になることだとしても・・・


 そんなわけで、僕はヴァルの言う正規契約をすることに同意した。


 あれ? 仮契約と正規契約って社会人で当て嵌めると研修生と正社員の違いに思えてきた・・・

 全てに当て嵌まるとは思わないけど、社員は時には馬車馬のように働くって聞いたことあるし まさかこの世界でもあるなんて言わないよね・・・・・・ねぇ?



『これで正規契約は成された。これからは、アオイがどこに居ようと我がすぐに駆けつけることが出来よう』


「僕と別行動してもってこと? そんな便利機能が正規契約についてるんだ」


『うむ。心淋しくなったら我を呼ぶとよい。どこに居ようと駆けつけるのでな(人間アオイに群がる輩を蹴散らす為の契約だとは言えぬな・・・)』


「ん~、なんかGPSみたいだね」


『よく分からぬが、どういう意味なのだ? 』


「グローバル・ポジショニング・システムって言って、簡単に説明すると相手の現在位置の情報が分かるってやつ」


『この世界のように魔法が行き駆っているのだな』


「魔法なんてないよ? 僕が生きてたとこは、魔法もモンスターもない。人の心の負はあるから、道を外すと人を貶めたり 脅して暴力でお金を巻き上げたり、思い通りにいかないと殺しちゃうこともあるけど この世界みたいに魔法や魔術で戦闘っていうのはないね」



 本当に、死ぬ前に誰にも負けない精神と力、魔法があれば僕が無様に死を選ぶことがなかったかもしれない。

 今更だけど、死んだことに後悔はないかな。




 ―――そのおかげで、今 ヴァルに逢えたのだから―――



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