36話

 ヴァルと出会った森から徒歩で1時間と少しで目的地の泉に到着した。

 逃げ足だけは体力とか関係なく尽きることがなかったのに、普通に歩いて30分くらいで僕はヴァルを呼び止めることになった。つまり、本来の姿に戻ってもらい 彼の背中に跨り落ちないようにゆっくりと進んでもらったのだ。



「ごめん、ヴァル・・・」


『気にすることはない。我はアオイの神獣なのだからな』



「それに、我の背中は乗り心地がよいであろう? 」と悪戯っぽく笑って言ってくれるあたり、気に入れば とことん溺愛するタイプなのかもしれない。

 まぁ、確かに乗り心地最高だったけど・・・。何か悔しいから言ってやんないけどね。



「ここがヴァルのお気に入りの泉なの? 」


『そうだ。我は気にせず入っているが、アオイは冷たくては入ることも叶わぬだろう。一度、手を浸けてみよ』



 僕が入れる温度かどうかを確認する為に恐る恐る手を浸けてみると驚くほどに温かった。

 この泉は、もしかしたら意思のようなものが存在しているのかもしれない。それくらいの差が僕とヴァルの間で起こった。



「ねぇ、ヴァル? この泉って、意思みたいなものが存在してるのかな」


『そのようなことはないはずだが、どうかしたのか? 』


「僕が泉に触れている時に手を浸けてみてくれる? 温度違くない?? 」


『温かいな。ここで浴びるとしよう』


「入りたいけど、僕 拭くもの持ってないよ」


『我の風魔術で水滴も服も乾くから問題などない』


「えぇ~、何その便利スキル。ヴァルだけズル~い!」


『魔素を多く含むこの場所でならば練習も出来るであろう』


「それって、僕でも扱えるかもしれないってこと!? 本当に!? 」


『うむ。さあ、入るとしよう』



 ゆっくりとお湯に浸かり両手にすくってみると、すごい透明度で泉とは思えないほどだ。

 なんていうか思ってたのと違う。普通、泉って土台に窪みがあって そこに水が湧き出てるか水が溜まってるかで出来てると思うんだけど。この泉は結構な深さがあるのに、底がはっきりくっきりと見える。

 しかも、普通なら僕みたいな人間が入ったら溺れて死ぬような深さ・・・


 それなのに、ちょうどいい深さのところに膜のようなものがあって溺れるようなこともない。




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