29話

 知らずに名付けてしまった僕は、頭を抱え現実逃避していたのだけど すぐに考えることを諦めた。


 だって、目の前にふわっふわのもっふもふ犬型神獣様ヴァルがいるんだよ!

 難しく考えたって良いことないし、主従関係になったってことは触り放題ってことだもんね。


 これで、動物の癒しが手に入ったのなら万々歳だよ。



『ところで、お主の名は何というのだ? 』


「僕の名前は碧䒾あおい。よろしくね、ヴァル」


『アオイか。よい名だ。して、我の名をヴァルと付けた理由は何なのだ?』


「見た時に想像だけで思ったことなんだけどね。触れることが出来たら幸福しあわせだろうなぁって・・・」


『我の体毛に触れて幸せなのか?』


「うん。だって、ヴァルは僕が初めて触れることが出来た生き物だからね」


『ふむ、そうか』



 そう話を区切ったヴァルは、体毛に埋もれている僕を観察するように見ている。


 何を考えてるのか分からないその眼にじーっと見つめられているなど僕は気づきもしなかった。


 だって、存分に味わっていたからね。

 何に? って、天国なんじゃないかと思えるほどのふわっふわでもっふもふなヴァルの手触り最高の体毛にだよ。


 堪能して満足するまで大人しく触らせてくれたヴァルにお礼を言い、今後のことを話し始める。



『アオイ、森以外の場所へ移動したことはないのか?』


「ないよ。最初気づいた場所も森だったし。次も、その次も森で、僕そろそろ飽きてきたかも・・・」


『ならば、人里に赴くのもよいのではないか?』


「人間は嫌い・・・。大っ嫌い!! 」



 あまりにも大きな声で叫んだ僕の言葉に森に棲む存在ものやヴァルに緊張が走った。

 忘れてはいけない僕のスキル「想口紡変換」は、想いが強ければ強いほど通常解除が効かない。



 ――――ただの森、されど森なのだ――――



 森に流れる風に乗って木霊した碧䒾の悲痛の言葉にヴァルは目を眇める。



『(何があったのかは分からぬが、アオイが苦しんでいるのは体から漏れ出るオーラで理解した)』

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