少し風変わりな恋の歌をあなたに。
第63話 辿々しいのもずっと続くと辛いのです。
周囲に暴力を振るっていたはずの日差しの強さは一体どこにいったのだろう。
完全に夏も盛りを過ぎ、朝夕は肌寒く感じる今日この頃。
昔、好きだった音楽にそんなことを歌っていた楽曲があったような気がするけど……ダメだなぁ、タイトルの一文字も出てこない。それだけ自分が年老いてしまったと言うことだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら窓際の外を眺めようと必死に身体を伸ばす。
時間の経過で一番良かったことといえば、体躯が大きくなったことだろうか。抱き抱えられたりすることはとんと減ってしまったけれど、自分の中の景色が広がったことを思えば収穫でしかない。
いくら身体を取り巻く空気が冴えてきたと言っても、光の中で佇めばポカポカと日差しが身体を温めてくれる。
今日も一日が始まる。
陽が頂に近付いていくに従って空気も暖められ、過ごしやすくなっていく。
『今日の催し』には丁度良い気候になるでしょう。参加される皆さんの負担にもならないでしょう。
「……おはよう」
ふと背後から声をかけられます。
毎朝必ず最初に聞く声。もう何年も聞いている声。でも聞こえてくる声に元気はない。
振り返らずともそこにいるのはエルフリーデでしょう。彼女の方を見ずに短く声を上げて、私は相変わらず窓の外を眺めています。
普段の彼女のなら「無視しないでよぉ」とこちらに寄りかかってくるはずなのですが、ここ最近は彼女が私に抱きついてくることはほとんどありません。
あの夜、初めて拒絶されてしまった夜からだ。こんな風にギクシャクとし始めてしまったのは。
あの後、レオノーラ様と慰めあってからお部屋に戻りました。
正直かなりの時間が経過していたので、何を言われるか心配していたのですがお部屋に帰った私を待っていたのは努めて普段と変わらない風を演じているエルフリーデでした。
お部屋を開けた時の辿々しい「おかえり」の声に、どうにも素直になれず私も冷めた態度をとってしまっていました。
それから数週間、ずっと私たちの間には微妙な空気が流れています。
エルフリーデは私に過度に接することはなくなり、そして私も彼女のことを気にしないように努めていました。
でもねぇ、もうそろそろ限界なんですよ!
何をウジウジしているんですか、私! そしてエルフリーデも!
『思い立ったらすぐにでも行動に移す。ダメでもともとやってやれ!』
これが私たちのスタンスだったはずです。
なのに……なのになぁ〜!
「じゃぁ……行ってくるからね?」
そう呟いて、彼女は一人お部屋を後にしてしまいました。
いつもなら一緒に行こうとせかされるところですが、そんなこともなくドアの閉まる音だけが部屋中に響いています。
……本当、どうにかしないとけない。
ハルカさんやレオノーラ様に対する態度も定まっていない中でこんなことは言いたくない。
でも目下エルフリーデの中で、一番に彼女を悩ませているのは私のことだと、その実感はある。
だから絶対に、今日でこれに決着をつけてやるのだ。
決意を新たにし、また私は窓の外を見ます。
眼下には乱れることなく列を連ねて練り歩く兵士たちの姿。
そう、以前アーベルさんがいらっしゃった時に話されていたことがようやく実現するのです。
今日は以前から予定されていた学園と騎士隊との合同講義の日。
おそらくですが、私とエルフリーデの問題をしっかりと解決してくれる人がやってくるに違いない。それに期待しつつ、私は乱れることのない列に再び視線を落としました。
……グヘヘ。久しぶりにお会いできるの、楽しみですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます