【連載版】彼女を悪役令嬢にしないための10の方法
桃kan
転生におけるお約束? そんなの知らないです。
第0話 プロローグ
いつも不思議な感覚があった。
部屋の中から外をずっと眺めているような感覚。
ずっと自分だけが離れた場所にいるような感覚。
わたしだけがずっと、お芝居を見ているような感覚。
なぜだか分からないけれど、そう思えて仕方がなかったのだ。
そう考えてしまうと不思議なもので、容姿や声、自分の存在自体に実感が持てなくなってくる。
色んな人から褒められるこの金砂の髪だって、本当は自分のものではないように感じてしまう。
でもそんなことはない。わたしは間違いなくその場所にいて、周囲の人たちと話をしている。笑っているのだ。
そう。それは間違いないはずなのだ。
でもわたしが本当にいるべき場所はここではないような気がしていた。
ここにいることが分不相応だってずっと思っていたのだ。
いつもわたしを囲むものは、わたしにとっては煌びやかすぎる。
そう思っていた。
「お嬢様、そろそろお時間ですよ」
ドアの向こう側から侍女長の声がした。ほら、こうやってお嬢様だなんて言われることにも違和感を覚えているのだ。偉そうに振る舞うことなんて出来ないので丁寧にお礼を言って、とりあえずお部屋の外で待ってもらうことにする。
今日は月に一度のおじいさまとのお茶会の日。しかも私の12歳の誕生日を後に控えた日だった。
なにやらお屋敷の中が浮き足立っているようにも感じたけれど、わたしは違う意味でフワフワしていた。
実は私、おじいさまとお会いするのが気が引けてしまっているのだ。
だって自分の肉親とは思えないほどにダンディなんだもの!
わたしがもう少し年齢が上だったら・・・ほらね、自分の肉親にだってどこか穿った目で見てしまっている。
こんな自分にため息をつきながら、侍女長が準備をしてくれていた青のドレスに身を包んでいく。やはり自分にはこんな豪華な服は似合っていないよなとまたため息。
なんと言うか、わたしにはもっと質素でいいんだよね。こんなフリフリのレースがついたやつじゃない、もっとシンプルなやつ。
おっと、そろそろ行かなくては流石に侍女長から声をかけられてしまう。
わたしには少し重いドアを押し開けながら、外で待っていた侍女長にペコリと会釈をする。
少し不安そうな顔をして待っていた彼女も、わたしの姿を目にした途端にパッと咲いたような笑顔を見せてくれた。
「まぁ! 良くお似合いですわ、お嬢様!」
ドレスを身につけた私を四方から見とめながら、ウンウンとうなづく侍女長。
この言葉に裏がないから卑怯なんだよなと内心呟いていると、照れた顔も可愛いだなんて言葉も聞こえてきます。
この人一体なんなの! わたしを褒めたって何もいいことないはずなのに。
でもそんな侍女長が嫌いでないわたしがいるのも事実。
「あ、……ありがとうございます」
そう一言だけ返してわたしは一路おじいさまの待つお庭に向かうとこにしましょう。
あ、背後から侍女長の黄色い悲鳴が聞こえてきたのは気のせいということにしておこう。
自分のお部屋を出てから数分、長い廊下を歩いていく。できるだけ慎重に、急ぎ過ぎないように。せっかく侍女長が用意してくれたドレスを汚してくないもの。
それにせっかくおじいさまに見てもらうなら少しでも可愛いって言ってもらいたいし、あわよくば頭を撫でてほしいなーなんて……グヘヘ。
いやいや、だから相手はおじいさまなんだって! 大丈夫なのか、わたし! でもなんだかこの『グヘヘ』と言うワードがしっくりくるのは何故なのだろうか。
そんなことを考えていると、目に入ってきたのはお庭に出るための渡り廊下が目に入った。今日もいい陽気だな。暖かい日の下で口にするお茶はきっと格別だろう。
そう思えるとウキウキしてきた。
後ろからは侍女長のわたしを心配する声が聞こえてきたけど、そんな小言ではもうわたしは止まらないのです。
だって目の前にたたずむあの姿を目にしてしまったんでもの。
「ご機嫌よう、おじいさま」
「やぁ、気持ちの良い午後だね」
あぁ、聴き惚れてしまうほどのバリトンボイス。その響きはあまりに心地良くて、いつまでも浸っていたいと思ってしまうくらい。まさに老齢の紳士を絵に描いたようなそんな人物。
この人がわたしのおじいさま。今は隠居してしまわれているけれど、かつては侯爵としてこの国のために働かれていたそうだ。
今も忙しいはずなのに、必ず月に一度、こうやってわたしとお茶会をご一緒してくださるおじいさまにすごく感謝している。まぁ未だに素直にその感謝を伝えることが出来ていないんだけど。
きっとわたしのそんな気持ちにも気付いてくださっているのでしょう。おじいさまは笑顔を向けながらわたしを席へと促す。
さて、まずはこの陽気の下、お茶を楽しもうではありませんか。
それからどれくらい時間が経ったか、おじいさまのお話があまりに楽しくて忘れてしまうくらい。
不意におじいさまが咳払いをしながら家令に何かを伝えます。どうしたんだろう、いつもと少し違う、恥ずかしそうな表情だ。
「今日はね、少し早いけれどもプレゼントを持ってきたんだ」
確かに近々わたしの誕生日ではあるけれど、きっとパーティも開いてくださるでしょう。
それとはまた別となると……あぁ、侍女長たちが浮き足立っていたのはこのサプライズのためだったんでしょう。わたしにバレないようにするために頑張ってくれたのだ。これには感謝しなくてはいけない。
「……嬉しい! おじいさまからプレゼントをいただけるなんて!」
「この子なんだが……」
この子? 生き物なのだろうか。
そうして家令が連れてきたその仔にわたしは目を奪われました。
豊かで光沢のある、ウェーブがかった毛並み。
可愛らしいつぶらな瞳。
そしてこのキュートに垂れた耳。
「か、可愛い! 本当に可愛い!」
感情を隠しきれずに言葉に出しながら、思わず差し出された仔犬を抱き上げる。
モフモフで柔らかい。お日様の匂いがする。
「あれ……?」
あれ? なんだろう、目の前が真っ暗になる。
刹那、何か箱……違う、これは『画面』だ。画面に何かが映し出されている。
「どうしたんだい?」
聞こえる、わたしを心配そうに見つめるおじいさまの声は聞こえる。
でも力が入らない。
ただ、目の前の画面に流れる映像を懐かしく思えてしまう自分がいる。
「な……」
そうだ、これって……いや、「ここ」って!
「なんでこんなことになってるのよー!」
そう、わたしの名前はエルフリーデ・カロリング。
わたしには、前世があった。
そしてわたしは、アニメの世界に入り込んでしまったみたいなのだ。
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