第2話 約束できる真実

 「あなたの結末は『死』です。」


 「少しくどくなりましたが、当たりましたね。次はどんな物語にしましょうか。ああたの命尽きるまで、楽しみましょうか。」


 「あなたの結末は『死』です。」


 

 せっかくの日曜日も無駄になった。目が覚めるとすでにシャイな太陽が見えていた。いつもはあれほど悠々としているのに。最近はこんなことが多くなった。夜更かしのせいだろうけど、大概こんなときの前の日は何をしていたのか覚えていない。可笑しな日々だ。こんなときはだいたいTwitterでみんなに聞く。

 『俺って昨日何してた?まじで覚えてないんだけど笑』

 すぐに囲まれた数十の人々が駆け寄ってくる。


 昨日、ぼくは配信をしていたらしい。ただその記憶は一切としてない。なんなら半月前から時が進んでないようなそんな気さえする。

 いつからか、眠ることが怖くなってきた。そのあたりから配信を始めた。ただ話し合い絵が欲しかったのかもしれない。それだから、閲覧なんかいなくてもずっと話しつづけられた。誰かに見られている気がしたからね。それもあってかけっこう売れた。数カ月で毎回二十人はなんの意味もない雑談に耳を傾けるようになっていた。彼女らの存在はぼくを変えた。怖かった日常がどうでもいいと思えるほどに。それにぼくの声は割とカッコいいらしく、顔を見る術のない女子たちがお金をばら撒いて去っていく。こんなにも相互依存なことがあるだろうか。ぼくはお金と安心欲しさに配信をする。彼女らは配信の対価としてお金を払う。

 この人生はちょろいものだ。たいしてかわいくないブスどもが、お金を落としていく。ぼくも潤うし、彼女らも潤うのだろう。もっと金を落とすように指示してみようかな。どうせぼくみたいに社会の最底辺をあるいてるんだろう。


 「あなたの結末は『死』です。今の言動には腹が立ったので強引にいきますね。先に死因を言えば、私の登場により死亡ですかね。私もオタクなので彼女らの気持ちはわかります。それを冒涜するなんて。」


 なぜか急に眠くなった気がする。そう思ったら起きてた気がする。まだ五分と経ってない。不思議なこともあるものだ。スマホをいじろうと思い、ポケットを漁る。画面が光ろうともぼくの目が光ることはない。ただ、光らない目は金目のものをスワイプしていた。

 目の前が少しだけ眩んで、貧血を疑うついでに額と目までを手で覆った。これも投稿しようかとそう考えていた。

 目の前に黒いモヤのようなものが見え込んできて、これこそ病院に行かなければならないかなと思い、ベッドに倒れ込みフリックを繰り返す。

 下書きの三十文字を超えないあたりで、抗えない睡魔が襲ってきた。いつもの嫌な感じのではない。なぜかめちゃくちゃ気持ちが良かった。人間が感じる快感が死ぬときなのも少しだけわかる気がした。


 「あなたの結末は『死』です。今回は腹がたちましたので私が直々に執行させていただきました。この度は少しだけあなたの記憶に私を植え付けておいたので楽しみですね。」


 頭が痛い。眠気に痛みと心地よさを感じていたのはさっきだった。今ではどうだ。スマホの画面は煌々と光ってはいたが、それでも電池の残り残機が二十を切っていた。それどころか、投稿画面には三十文字足らずの文面と訳の分からない文字の羅列が並んでいた。

 立ち眩みのように頭が痛くなってから、黒いもやが視界の中央に縦長くあらわれて気がつくと現在いまにいた。

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 『このゴミ屋敷の主人なんてどうでしょうか。なかなかに優良物件だなんて思うのですが。社会にも取り残された産業廃棄物は然るべき廃棄の仕方というものがありますし。』


 『そうか、卿がそこまで言うのなら本物なのだろうな。部下を引き連れ、廃棄を任せたぞ。』


 『かしこまりました。』

 



 「あなたの結末は『死』です。」


 『さあ、とりかかりますか。面白い能力も引き当てたことですし、何度も殺して、いずれ精神的にも殺して差し上げますよ。』


 『それにしてもこの部屋は汚いですね。いたるところにゴミがありますし、よくこんなところで住めますね。尊敬しますよ。』


 『それでは、ここのものをここに移動させておいてください。』


 『これで一度目の死です。』



 「あなたの結末は『死』です。」


 『お金がなくなれば正常な人とはどうにかして稼ごうとするものですよね。それがどんな手段でも。』


 『醜い人の性でしょうか。醜い者同士、アンサンブルしてみてはいかがでしょうか。さぞ楽しいでしょうに。』


 『そこの少し暗めな青年の財布を取っておいて下さい。彼には家族はもういません。友達もお金を借りるほどの友達はいません。』


 『これで、二度目の死です。』



 「あなたの結末は『死』です。」


 『今度はどんな殺し方があるでしょうか。』


 『なんでもいいのですが、少し恐怖感を煽った方が面白いですよね。』


 『恐怖に耐えられずに悲鳴を漏らすくらいの死の方がいいですよね......。』


 『決まりました。家の外にいる彼をどうにか連れてきましょう。』


 『先ほどの強盗と同じ理論です。自分の身が危険に陥れば人間なんてどんな行動をするかわかりませんが、予測はできますね。さあ、いきましょう。』


 「これで、三度目の『死』です。」



 「これで、百度目の『死』です。」


 『いつになっても凝りませんね。配信なんか始めて、弱者が弱者を弄ぶ展開なんてつまりません。』


 『あなたの結末は『死』です。今回は腹がたちましたので私が直々に執行させていただきました。この度は少しだけあなたの記憶に私を植え付けておいたので楽しみですね。』

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 ・

 変な記憶が流入してきた。まだ頭が痛い。薄い意識の中でよく考えた。僕の中に良く分からない記憶。なぜか知らない奴が頭の中にいて、そいつが指示して、そいつが現れて、そいつはいつでも僕のことを殺せて、そいつはいつも僕を弄んで、そいつは今も僕のことを監視していて......

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