20──
「終わったぞ⋯⋯」
俺は目だけを動かし、吐き捨てた。
後ろにいる者は黙ったまま、微動だにもしない。
チッ
「お前は何がしたい!俺に指示出してついて行けばこんななんもない場所で、お前に監視されながら思い出を見せられ、話しかけてもガン無視!終わった今もそうだ!何を言っても返事もせず、反応もない!あー!思い出しただけで腹が立つ!不慮の事故で他人を助けて死んだ
黙ったままなら早く、閻魔様にでも神様にでも会わせてくれよ!行く場所が天国か地獄かも分からねぇが、どっちにしろ閻魔も神も俺には最高の判決を下してくれるだろうなっ!」
早口で言い切ると、ふっと鼻で笑った。
後ろにいる奴は、まだ動かない、いや動けない。
正論、当たり前、言い返すものが、とる足がない。
俺は自分を言いくるめる。
こいつは下っ端、勘違いも間違いも仕方が無い。
1度くらい、いいじゃないか。
笑みを浮かべる。
すると、ようやくソレは話し始めた
──記憶とは、何とも都合の良いものだな。
いきなり話し始めたソレに俺は驚きつつも、嫌味か?と返す。
──思ったままを言ったまでだ。映像が途絶えた後も、嬉しげに自慢げに騙る滑稽なお前を見てな。
「はぁ?俺のどこが滑稽なんだ?」
──お前は子供を庇い身を焼かれ、子供に自分のタオルを渡した。人間としてお前は正しい行いをした、そう現世でも
「美化し始めただって?まぁ俺が読んだ記事は盛ってあったが、俺自身はんな事してない!それはお前の僻みだろ?」
──僻み⋯⋯。お前のどこを羨めば良い?
「他者を守るために命を落とした
特に、俺に関わりのある奴らは俺を誇りに思うだろう
他者の為命を賭したこの俺を」
──そうか⋯⋯ならば
パチンと指を鳴らす音が聞こえ、いきなり後方の画面から光が放たれた。
「なんだ?また、同じのを見せるのか?」
そういう俺に聞こえてきたのはソレの声ではなく
『お母さん⋯⋯もう兄さんは帰ってこないんだよ。』
聞き覚えのある声が、音を出すはずのない画面から聞こえてきた。
『何言ってるの?お兄ちゃんはね、正月はこっちで過ごすからって、ほらみて』
『それ1年前でしょ!正気に戻ってよ!お母さん!』
画面に目をやると、そこには見知った顔の少女と白髪の年老いた女性が映っていた。
『何を言ってるの?ほらあんたも早く準備して、お母さん免許証返納しちゃったから車運転できないのよ。ほら早く、お兄ちゃんが着いちゃう。』
『お母さん⋯⋯だから⋯⋯お兄ちゃんは、もぅ⋯⋯』
女性の腕をつかみ哭く少女。
「なんだ⋯⋯この映像は⋯⋯」
──これがお前が言っていた英雄に最も関わりのある者たちの姿だ
掃除の行き届いた廊下で必死に老婆を引き止める少女と、ボケているのだろうか少女の制止も気にせず己がままの老婆の姿
「そんな⋯⋯そんなはずがない⋯⋯」
そうだ、俺の⋯⋯俺の知っているあの人らなら俺のことを自慢げに他人に話、時折思い出しては感傷に浸り俺を誇りに思ってくれるはず⋯⋯
──お前は自分を守る為に現在の家族らの姿を見ず、お前の中で作った偽りを見てこう言ったな、『
『お母さん⋯⋯お母さん!お願いだから!お願い⋯⋯だから⋯⋯』
「ち、違う⋯⋯。こんなもの⋯⋯俺が求めた
『ほら、もう13時21分よ。14時には着きそうって連絡来てるからお兄ちゃん、待たせちゃうでしょ?』
──違わないのだろう?
『兄さんはもう、待ってないよ』
「違う」
『何言ってるの?』
──今更お前が何を何と言おうとも、これがお前の作った
『兄さんはもう、死んだんだよ!』
「ふざけるな!」
『馬鹿なこと言わないで!』
──ふざけてなどいない。
『馬鹿なのはお母さんだよ!』
──これが結果だ。
『兄さんも馬鹿で、お母さんも馬鹿』
視野が狭くなり、胃液が喉元まで迫りくる。
『お母さんも兄さんも、自分が良ければいいんでしょ!』
脈打つように頭痛がし、画面から聞こえる金切り声に耳が痺れる。
「違う⋯⋯違うんだ、俺は⋯⋯俺は⋯⋯」
耳を塞ぎ、音を遮るように叫ぶ。
「違う、違う違う違う違う違う違う違う⋯⋯俺が求めたのは⋯⋯俺が求めたものは⋯⋯誰にでも自慢出来る、たくさんの人を救ったヒーローとして死んだ息子と、その死に哀しみながらも褒めて、納得して、畏敬の念を示す姿だ!
こんな、こんなもの俺が求めた
口で息をし、立ち振り返り睨んだ
「俺が死ぬ時、俺はヒーローだった!死ぬ直前に流れてたニュースも⋯⋯、動画でも⋯⋯俺はヒーローだった!なんで⋯⋯こんな⋯⋯こんなっ」
分かってる⋯⋯分かってた。分かってたんだ⋯⋯。
「ふざけるな⋯⋯」
最低な
偽りで塗りつぶされたアルバムも。
「ふざけんなよ⋯⋯」
俺は見たくなかった。綺麗なものだけを見ていたかった。自分が責められている気がして、見たくなかったんだ⋯⋯。
俺は、膝から崩れ落ちた。
息苦しく頭が回らない。動悸が増し、口が閉まらない。
──お前は先程行先がと言っていたが、お前が行く場所などない。なぜなら、
パチンと、乾いた音がした。
その刹那、真っ暗だった空間に四方八方から光源が⋯⋯
──お前の行く場所はここだからだ
奴が言い終わると同時に、
「──」
母と妹、の哭く声が、父、友達、恋人、親類の嘆く声が、ありとあらゆる方向から聞こえてきた。
地面に蹲る俺の目の前には深いシワが刻まれた、母の朧気のある老婆が狂ったように叫んでいた。
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