【吉報】魔法少女が生まれました 8
魔人とケルベロスが現れたことはすぐに管理局に報告された。
それから事情聴取の後に近辺をパトロールしている魔法少女に警戒するよう通達される。
だが世間に情報が回ることはしなかった。
なにせ魔人だ。
技術は進み、魔人への対策は講じているとはいへ生きる天災の情報が報道されれば街の住民は混乱してしまうとの判断された。
代わりにパトロールが強化され、より一層強い魔法少女たちが魔人を捜索している。
アレが例の予知に出てきた魔人かどうかは不明だが、その動向を把握しておくことに越したことは無い。
見える脅威であれば対策を立てられることができるはずだ。
「というのが管理局の判断らしいわ」
「ほー」
駅の改札を抜けて、ホームに出る。
そのさながらに美冬が管理局で話していたことを日夏に伝えていた。
それを聞きながら日夏はバックからブレスレットを取り出して手首に装着。
日夏の強化訓練は地元の街から離れたところで継続される。
再び魔人との接触を避けるための措置だ。
前日と同じように美冬と紅葉の指導の元、魔物を倒したり、空き地で魔法の練習を行うことになっていた。
今日は土曜日。
朝から二つ離れた街へと各々は着ていた。
「んで、またお前も一緒に来たのか」
「日帰りで行ける距離ですし、お弁当いりますよね?」
勿論、優紀も一緒に。
両手に抱えるのは学校の屋上で見せた重箱。
今日も朝早くに起きてしっかりと準備をして来ていた。
今回の場所も既に掲示板経由で調査済みである。
「はぁ~……邪魔にならないところにいるんだぞ?」
「わかってますって」
「仲良しさんやね~」
「羨ましいわね」
「ほっとけ」
そんなこんなで四人揃って目的地に向かった。
☆
「ふっ!!」
山の中。
イノシシの魔物を
ここでは野生の動物が数匹魔物に変質しており、畑を荒らしたり、家畜小屋を破壊されたりなどの被害がでていた。
先程の魔物が目撃情報にあった最後の魔物で、とりあえず魔物退治はひと段落ついたところだ。
念の為に
いないことを確認できるとそれぞれ変身を解いて山を下った。
麓にはタブレットPCを触る優紀の姿があり、どこかに電話しながらその画面を触っていた。
「うん、そう。
ありがとう、よろしくね」
電話が終わると同時に日夏たちが帰ってきたことに気が付いて顔を上げる。
「おかえりなさい。
どうでした?」
「前に比べたらどうってことなかったな」
「比較する対象が違いすぎない?」
「所詮であれを相手にしたらそらなぁ」
ケルベロスとの一戦は日夏にとって十分すぎるほどの経験となっていた。
ベテランとまでは行かないが、美冬と紅葉に肩を並べる程度には身体を動かせている。
そんな日夏が戦う相手が魔物なのは些か力不足かもしれない。
かといって魔物はそこらへんにいる様なものではない。
地道に訓練を重ねていくのが一番だ。
近場の公園に入って優紀が持ってきた弁当を広げ、それを食べながら話を進める。
「あと覚えることは何があんだ?」
「とりあえず魔力感知とか、それと手数増やしたいわね。
斬撃飛ばせたりしない?」
「それは二人がサポートしてくれんじゃないのか?」
「やれることは多いに越したことはないんやで?
互いにカバーできる部分も増えるし、ウチも美冬ちゃんも遠距離や中距離で戦うタイプやけどある程度の近接戦ぐらいはできるようにしてるで?」
「うーん、それもそうか?
でもなんで斬撃?火球飛ばせんじゃん」
「あのサイズだと火傷程度にしかならないわよ。
剣に魔力溜め込めるならそれをぶつけた方が強いわ」
「まぁ、そうだな……ならこういうのは……」
「それはちょっと時間かかるんちゃうん?
やるなら……」
「そうね、ならこうするのも……」
食べながらもこれからの成長に対してそれぞれ考えていた。
日夏だけではなく、美冬と紅葉も自分の戦い方を見つめ直してチームでできる動きを思案している。
難しい顔しながらも楽しそうな顔をしている魔法少女たちを見て優紀はニマニマと笑顔を浮かべている。
憧れの魔法少女の会話をこんな近くで聞けるのはオタクとしてこんなに嬉しいことはない。
そこで優紀に電話がかかってくる。
三人の元を離れて電話に出た。
「大体こんなところか」
「この辺りの魔物は倒してしまったし、やるなら別の場所に行かないといけないけど」
「でもそうなるとまた電車に乗らんとなぁ」
「ちっと遠いな……しかたねぇか」
「あっ、皆さんいいですか?」
「んっ?
どうした?」
「いえ、知り合いがこの近くに住んでまして。
訓練するなら敷地を貸してくれるそうです」
「「「えっ」」」
「広さは、まぁ学校の体育館ぐらいですかね?
たまに映画の撮影とかで貸しているそうなので大きな音とか出しても大丈夫みたいです。
あっ、でも派手に周りを破壊するとかは無しでお願いしますね?」
あっさりと言うがいつの間にそんな手配をしたんだ?と少女たちは疑問に持ち、美冬が山に下りてきた直後のことを思い出す。
アレはこの電話だったのだろう。
三人は顔を見合わせて優紀に向き直った。
「お前の人脈どうなってんの?」
「ただのオタクのネットワークですよ」
「あぁ、そういう……」
つまり相手も魔法少女オタク。
「あの、できればでいいんですけれど借りたお礼としてサイン書いてあげてほしいんですけれど」
何となく予想できた。
それから優紀の案内でその敷地へと移動した。
近くに近寄ると麦わら帽子を被っているスーツを着た初老の男性が誰かを待っているのかそこに立っている。
四人に気が付いてニコリと笑い、手を振った。
優紀も手を振り返す。
「おまえあんな大人と交流あんのか」
「ちょっとしたオフ会で知り合って」
男性が笑顔で近づいてくる。
その男性はいかにもナイスミドルという言葉がピッタリで、その筋が趣味な女性なら一目惚れ間違いなしだ。
日夏もかっこいいおじ様だなと思う程度には惹かれる。
「やぁブレイブ。いや、ここでは優紀君と呼んだ方がいいかな?
久しぶりだね。去年の冬以来か?」
「お久しぶりですサウス。
あ、僕も幸次郎さんって呼んだ方がいいですか?」
「そうだな、お嬢さん方にもそちらの方が伝わりやすいだろうし、ね?」
そういって初老の男性はパチンッとウィンクをする。
美冬と紅葉は優紀の両肩をがっちりと掴んで無理やり振り返せた。
二人して冷や汗を流し、顔を真っ青にしながら。
「ゆゆゆゆ、優紀君!?
あの方を誰かわかってるの!?」
「誰って、僕のオタク友達の南幸次郎さんですけど」
「それが誰かわかっとるん!?
南氏といったら大手魔法少女事務所『マジカル・リリカル』の代表取締役社長で、
魔法少女の所属は三つに分かれている。
美冬や紅葉は管理局、つまり政府所属の魔法少女。行ってしまえば公務員に近い立場だ。
事務所に所属する魔法少女は国の認可を得て、魔法少女たちを取りまとめる会社で働く会社員。
最後には免許を得て国からの依頼や斡旋所からの依頼を受けるフリー。
目の前にいる男、南幸次郎はその中でもトップクラスの事務所を取りまとめる大物で、国にも影響できるほどの力を持っている。
稼いだ資金は所属している魔法少女は勿論、政府が育てる魔法少女たちの支援も行っていた。
「アッハッハッハ!
お嬢様方は博識だなぁ!
だが今はそんな肩書は横に置いてほしい。
いま私がここにいるのは彼の友人としてだ」
「そ、そうは言われましても……」
「何、ただ今日はたまたま実家に帰っていただけでね。
そんな中で新米の魔法少女の力を見せていただくなんて最高に幸運なのさっ!」
「はぁ……」
ユーモア性に溢れている、とでも言えばいいのか。
幸次郎は若い世代に負けないくらいの爽やかな笑顔を振りまいてくる。
普通にしていれば話すことはなかっただろう大物の前に気にしないというのは無理な話だろう。
だが――。
「いいんじゃねぇの。
このおじ様がそうしろっていうなら」
「幸次郎さんは気さくな方ですから、普段通りで平気ですよ」
日夏と優紀はそうでもないらしい。
先輩魔法少女二人は頭痛がしてきた。
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