【吉報】魔法少女が生まれました 7

 優紀はガードレールに腰かけて掲示板を眺めていた。

 最近の魔法少女の情報がリアルタイムで更新されている様子は見ていて楽しい。

 その中で今日関わった二人の名前をサイトの中で検索する。

 特に情報はでてこなかった。


「まぁ別に困ることじゃないけれど」


 趣味のようなものだ。

 別に名前が出てこなくても大して問題は無い。

 代わりに少しでも彼女たちの手伝いをと思い、別の魔物の情報を探すことにした。

 すると結界の中から大きな音が響く。


「なにっ!?」


 顔を上げて結界の中を見ると、病院が音を立てて崩壊し始めていた。

 その中から魔法少女たちが揃って飛び出してくる。

 遠くてその表情は見えないが着ている戦闘衣装バトルコスチュームは所々破けていた。

 続けて巨大な化け物が建物の壁を突き破り、その姿を現した。

 犬のような頭部を三つ持ち、それぞれの口から炎を吐き出す。


「先輩っ!」


 ☆


 リーブスオータム紅葉が扇を払うように振るい風を生み出す。

 炎は風の壁に阻まれて三人に当たることは無く消滅。

 地面に降り立ち、双方がにらみ合う形になる。


「外に出れて助かるわぁ。

 あんなの室内で喰らったらサマーちゃん以外は焼け死ぬで?」

「流石に私でもアレをまともに喰らったらやべぇよ」

「呑気にしゃべっている暇は無いわよ!」


 ケルベロスが動き、魔法少女たちが駆ける。

 フラワーサマー日夏が両手で剣を握り、ケルベロスの正面へと向かっていた。

 足から炎が噴き出し、加速させていく。

 前足の振り下ろしを身体を捻って躱して懐に潜り込んだ。

 刃に炎を纏わせ、強固な体毛の防御を突き抜けて斬り付ける。

 手応えはある。

 素早く離脱し、入れ替わるように氷の矢が雨のように降り注いだ。

 一本一本は大きな威力は無い。

 だが束になって襲い掛かってくればその動きは制限される。

 スノーウィンター美冬が弓を引き絞るとその先に魔方陣が展開される。


「アイスアロー」


 弦を離すと魔方陣か丸太のような氷の矢が発射された。

 ケルベロスにその氷の矢が刺さる。

 くぐもった声と共にその血をまき散らした。

 その上から竜巻がケルベロスを押しつぶすように発生した。

 リーブスオータムが扇を何度も振る。

 風の勢いが増していき、ケルベロスの抵抗を許さない。


「大旋風っ!」


 ここ一番の声を出し、全身を回す。

 戦闘衣装についた鈴がシャランと鳴り、風がケルベロスを飲み込んだ。

 中の風が瓦礫を巻き込み、その身に傷を付けさせる。

 やがて風が止み、ボロボロになったケルベロスだけが残された。

 今日初めて出会ったにしては上出来、いやそれ以上の見事な連携と言えよう。

 結界の外にいる優紀は目を輝かせて思わず拍手をしていた。

 しかし三人は浮かない顔をしたままだ。


「Guuuuu」


 ケルベロスは唸ると身体が不透明になる。

 身体に刺さっていた矢はすり抜けて落ち、身体に乗っていた瓦礫の欠片も風で飛び去って行く。

 ケルベロスがするりと前に歩き出すとともにその身体は元に戻る。

 そう、

 曰く、ある哲学者たちに寄ればケルベロスには三つの象徴していると言われている。

 一つ、「保存」

 二つ、「再生」

 三つ、「霊化」

 まるでそれを再現しているようなこの魔獣は、見た目だけではなくこの力を持つことによって『ケルベロス』と呼ばれているのだ。

 三人は飛び出る前にこの力を見ている為、今は驚かない。

 では倒すためにどうするか?

 ケルベロスの行動自体は対処可能。

 足は遅いとは言わないが速くはない。

 それぞれ吐き出す炎は外にいる分避けやすくなった。

 体毛や筋肉による防御は全員それを通して傷をつけることができる。

 だが耐久力となると話は別だ。

 傷をつければ再生し、かといってそれを妨害しようと体内に残る物を突き刺しても霊化によってすり抜けてしまう。

 そして極めつけに――。


「GAAA!!!」


 ケルベロスの二つの頭が口を開くとを吐き出した。

 保存による魔法の模倣コピー

 その身体に受けた魔法を保存して返してくる。

 先程から吐き出していた炎は、元をたどればフラワーサマーの攻撃だった。

 魔法少女たちはそれどれ飛びのいて攻撃を避ける。

 攻撃すればするほどに手数が増やされ、戦うのが次第に困難になっていく。


「どうすんだ!

 魔法パクってくるんじゃ、これ以上手札見せらんねぇぞ!

 なんか案は無いのか!?」

「知らないわよ!

 こんな魔物を相手すると思ってなかったから討伐方法なんて知らないわ!」

「ウィンターちゃん。

 真面目ちゃんに見せかけて結構不真面目だからねぇ」

「うっさい!」


 スノーウィンターは怒りながらも弓を引き、矢を放つ。

 これ以外の魔法は模倣されたらこちらの危機に繋がるので使えない。

 それはリーブスオータムも一緒だ。

 仮に使ったと言えど、倒しきれるような技ではない。

 良くも悪くも二人は手数で攻めるタイプの魔法少女だった。

 ならばとフラワーサマーに意識を向ける。


「サマー!

 アナタの一撃であれ倒せる!?」


 初戦闘で魔獣を真っ二つにしたと聞いていた。

 この中では間違いなく攻撃力が高いフラワーサマーなら可能性はある。

 名指しされたフラワーサマーは飛んでくる氷の矢を剣で弾いて「あぁ!?」とイラだった声を返した。


「しらんっ!

 そもそも全力の出し方がわからねぇ!」

「ちっ」

「おい今舌打ちしたろ!?

 なぁ!?」

「してないわ」

「嘘つけっ!聞こえてたぞ!!」

「二人共喧嘩している場合じゃないてぇ!?」


 攻撃を凌ぎながらも決め手が見つからない。

 そんな時、三人の頭に謎のコールが響いた。


「なになになになにっ!?」

「これはっ」

「優紀君!?」


 スノーウィンターがペンダントに触れて叫ぶ。

 これはあらかじめスノーウィンターが渡しておいた通信機のコールだ。

 それを使用すれば携帯端末を使わずとも念話を使った通信を使うことが行える。

 そんなとこから通信が繋がれれば優紀に何かあったのかと不安になるが……。


『首です!』


 それを余所に優紀の声が響いた。


「首?」

『ケルベロスはそれぞれの頭で役割が分かれています。

 左から保存、再生、霊化。

 それらを首を落せば能力は削れて使用できなくなります。

 ですが再生を先に潰さないと他の二つが元に戻ってしまうので気を付けてください』


 あまりにも具体的な弱点の提示。

 不安は無くなり、代わりに疑問が浮かび上がる。


「優紀君、どうしてそれをっ?」

『ほら、僕って魔法少女オタクですし。

 魔法少女が戦った魔獣を全部把握しているのもデフォっていうか。

 その弱点も知っておくのも趣味というか、その……ね?』


 優紀は当たり前のことを、当たり前に答えた。

 スノーウィンターはリーブスオータムと顔を合わせた。

 それの信憑性があるのかどうか、悩む部分がある。

 普通に考えて魔獣のいくつかの名前は知っていることはあるだろう。

 だがその弱点まで知っているのは一体どこをソースにしているのか?

 二人は判断に迷った。

 だがその間を突っ切るようにフラワーサマーは飛び出していった。


「ちょっと!?」

「まずは真ん中の頭だろ!

 足を止めてくれ!!」


 フラワーサマーは優紀の言葉を信用していた。

 何の迷いも、躊躇も、戸惑いも無く。

 ケルベロスが竜巻を吐く。

 地面が抉れ、それらを巻き込んだ暴風がフラワーサマーに襲い掛かった。

 フラワーサマーは跳躍し、その背中から炎を噴出させてミサイルの如く一直線にケルベロスに迫った。

 ケルベロスは霊化してフラワーサマーの攻撃をすり抜ける。

 スライドするように身体の位置をずらし、再度身体を元に戻した。


「まじかっ!?」

『霊化したら次に霊化するまでタイムラグがあります!』

「どれくらいだ!?」

『そこまでは分かりません!』

「こなくそっ!」


 距離を離されたことにより、また向かっていかないといけない。

 しかしそれまでに再び先ほどのように攻撃を無効化されてしまう。

 ……だがそれも一人だった場合だ。

 氷の杭がケルベロスの身体を貫通し、地に縫い付けられる。

 フラワーサマーが顔を上げると、弓を背中にしまって両手を突き出しているスノーウィンターがいた。


「今のうちに頭を取りなさい!」


 フラワーサマーは足に魔力を込めて跳んだ。

 魔力を剣に込めて、首を斬り落とすための威力を上げる。

 だがケルベロスは身動きが取れなくなったとはいえそれぞれの頭はまだ動く。

 一つはフラワーサマーを、一つは魔法の杭を、一つは空にいるスノーウィンターを。

 それぞれに魔法を放って打ち砕こうとする。


「噴出!」


 しかしもう一人の魔法少女がフラワーサマーを狙っていた頭を飛び蹴りする。

 風に身を乗せた勢いはフラワーサマーの突撃にも負けず強烈だった。

 それによって他の頭も怯んだ。

 明らかなる隙。

 スノーウィンターは手を振り上げてフラワーサマーに氷の足場を作成する。

 フラワーサマーはそれに足を乗せ、踏みしめ、下に跳躍した。

 炎を纏った剣を握り、その勢いを殺さずに首に刃を入れた。


「フレイムッブレイザー!!」


 抵抗があったのはほんの一瞬。

 真ん中にあった頭が焼け斬られて落ちる。

 ケルベロスの残る頭から特大の悲鳴が上がった。

 縫い留められていた身体を霊化させてその場からすり抜ける。

 再び身体が元に戻るが、その身体は傷ついたままだ。

 残りの頭が魔法を放つも、その威力は目に見えて落ちている。

 頭を落されたことと、身体に穴が空いていることが原因だろう。

 後はとどめを刺すだけだ。

 三人はそう思ってそれぞれの武器を構える。


「……?」


 ケルベロスが魔法を止めて鼻をヒクヒクと動かした。

 すると突然ボロボロの状態から発狂したように横に駆けだす。

 何事かと戸惑い、そして焦りになる。

 なぜなら走っているのは結界の壁。

 そしてその先にいるのは優紀だったからだ。

 スノーウィンターは矢を放ち、リーブスオータムは圧縮した風の球を打ち。

 フラワーサマーはまるで噴火した溶岩のように射出した。

 ケルベロスが結界にぶつかる直前に各々の攻撃がぶつかり、崩れ落ちる。

 そしてそのまま粒子となって消滅していった。

 何とか間に合ったことに全員はホッとして息をつく。

 フラワーサマーは結界の外にいる優紀をチラリと見る。

 血まみれのケルベロスが迫ってきたのだ。

 腰を抜かしているだろうと思っていたが……。


「かっこいい……。

 生の魔法少女の戦い……最高ぅ」


 目を輝かせていたので、フラワーサマーはそのまま結界から出て優紀に拳骨を落した。

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