【吉報】魔法少女が生まれました 6

 お昼から時間は経ち、放課後。

 4人はある廃病院の前にいた。


「最近ここでは騒音騒ぎがあるそうです。

 一度警察が立ち入ったみたいなんですけれど、返り討ちに会ったみたいで」

「でも周りに民家は無く、実害もほぼ無いために放置されていたと」

「ん~、それあまり良くないんやけどねぇ。

 下手すれば魔物が成長して手に付けられないことになる可能性だってあるわけやし」

「でも今回は都合がいいわ」

「じゃあやるか。

 ……その前に」


 日夏は優紀の頭を叩いた。


「痛いじゃないですか!

 これ以上バカになったらどうするんですか!!」

「うるせぇバカ!

 なんでさらっとお前までここにいるんだアホ!」

「アホって言った!アホって!

 いいじゃないですか僕だって襲われた当事者ですよ!?」

「よくないわ!

 お前、昼に魔物について自分でなんて言ったか忘れてんのか!?

 さっさと帰れ!」

「だって……」

「あぁん!?」


 怒り心頭の日夏に優紀は頭を抱えながら拗ねるように。


「生の魔法少女の活躍見たいし」


 日夏は目を丸くし、顔を抑えてため息をつく。

 数秒顔を伏せ、呆れながら顔を上げた。


「お前さぁ~」

「まぁまぁ日夏ちゃん、そんなに怒らんといても」

「その方が日夏も張り切るんじゃない?」

「紅葉!美冬!お前らなぁ!」


 一緒に釜の飯優紀の弁当を食べた三人はすっかり名前を呼ぶほどの仲になっていた。

 ついでに日夏と優紀を見る目をも変わっていた。


「ほら、現役の魔法少女だってこう言ってるし」

「でもついてくるのはだめやねぇ」

「そうね」

「えっ」


 突然の手のひら返しに優紀は固まった。


「うちらは自分の身を守れるけど君は違うやろ?」

「魔物もなんだかんだ危ないし、自分で言うのもなんだけど私達もまだ未熟なの。

 君を守る前提で戦うのは少し難しいわ」

「うっ」

「そらみろ」

「ぐぬぬぬぬ」


 わかっているが諦めきれない。

 そう言いたげなのを露骨に醸し出している様子を見て三人は顔を合わせる。

 紅葉が笑い、美冬が肩を竦めて、日夏がため息をつく。


「じゃあここで待ってろ。

 帰ったら少しくらいはお前の趣味に付き合ってやるよ」

「ほんとですか!?ぶっちゃけ変身見るだけでもいいんですけど!」

「ほんとにぶちゃけたなお前……」

「魔法少女が好きなんやねぇ」

「筋金入りだわ」


 三人は優紀から離れ、変身の準備をする。

 日夏はブレスレットに、紅葉は指輪に、美冬はペンダントに触れる。

 そして各々光り輝いた。


『変身!』


 変身の為のキーワードを叫ぶ。

 魔力が噴き出し、身に纏う服装が変化する。

 日夏は以前見せた全身を金と黄色を混ぜ合わせた衣装、髪は輝かしい金色に。

 紅葉は茶色と紅が混ざった和服のような衣装、毛先が紅葉こうようしたように色が変化する。

 美冬は白と水色を合わせた、フィギュアスケート選手が着ているような衣装に変わり、霜が降りたように髪が青に染まる。

 三人の変身を見た優紀は目を輝かせて拍手をした。

 感動が振り切れて気絶してしまいそうだった。


「ブラボー、おぉブラボー……」

「どんだけ感極まってんだよ」

「こう嬉しそうにみられるとちょっと恥ずかしいわ」

「ええやんええやん、悪い気分やないで?」


 そういう紅葉も恥ずかしそうに照れていた。

 優紀は写真を撮りたい気持ちに駆られていたが、無許可の写真撮影はマナー違反。

 かと言ってこれから仕事をする人たちにそんなことを頼むのも良くないと考え、グッと堪えることにした。


「結界張るよ~」


 紅葉がふわっとした声と共に手を払う。

 すると病院を囲むように半透明の膜が覆った。

 周囲に被害を及ぼさないための結界だ。


「結界があれば魔物が中からでてくることはないから」

「あ、でももし結界を出ようとする奴いたらウチたちの誰かに連絡頂戴ね?」

「わかりました」

「大人しくしとけよ!」

「わかってますって」


 三人は結界を通り、廃病院へと入った。

 優紀は三人が戻ってきたら写真撮らせてもらおうと決意して帰りを待つ。

 その時、どこからか視線を感じた。


「……?」


 キョロキョロと周りを見るが誰かがいる様子もない。

 気のせいと考え、優紀は時間を潰すために掲示板の記事を読み始めた。


 ☆


 廃病院の中は薄暗くとても静かだった。

 電気も通っていないため、視認できる範囲は狭い。

 ただ順番待ちに使うソファなどは撤去されているためか、出入り口から受付カウンターまではスッキリしていた。


「暗いな」

「この時間じゃお天道様が照らしてくれへんもんなぁ」

「まぁそれは大丈夫でしょ」

「あん?どういうことだよ」

「貴女の魔法で周囲を照らすのよ」

「んとねぇ、やり方はぁ」


 紅葉改めリーブスオータムは日夏にレクチャーを始めた。

 魔法少女の基礎技術に魔力弾というのがある。

 名前の通り魔力の塊を打ち出す魔法だ。

 それを応用すると魔法少女個人の特性に合わせた魔法を放つことができるという。

 今回は日夏の魔力弾に炎の特性を合わせる。

 それを飛ばすのではなく日夏の周囲に漂わせるように調整。


「むむむ……」

「あんまり気を張ると弾けるかどっかに飛んで行ってしまうから気をつけてなぁ」

「つってもよぉ」

「魔力のコントロールする基礎訓練にもなるから、最低1時間ほど維持させなさい」

「戦う時は?」

「維持し続けて、と本当は言いたいけれど今回はオータムと私が戦うわ」


 今回は証明係を任されるということに何とも言えない顔になる。

 不安定な炎に意識を向けてなんとか頭一つ分の大きさに留めることにできた。

 意識が途切れたらあっという間に消えてしまいそうで額から汗が滲む。


「じゃあいこかウィンターちゃん」

「そうね」

「できればゆっくり歩いてくれ……」


 美冬改めスノーウィンターが先頭に廃病院を回っていく。

 この廃病院は4階建て

 1階から順に受付のほかにリハビリテーション、診察室、放射線部、手術室、病室など各々のへやを覗いていく。

 だが全ての階層を見ても魔物が見つかるどころか気配を感じることはなかった。

 放置されているベッドや医療機器を持ち上げても、朽ちた壁を叩いても何も変化しない。


「なぁほんとにいるのか?」

「目撃証言があるからいないなんてことは無いと思うんだけど……」

「一度そこで生まれた魔物は滅多なことで場所を移さないんやけどなぁ」

「なんでだ?」

「魔物は生まれた場所が住み心地良くてそこに住み着くんよ」

「ふ~ん」


 そう言って日夏はもう一つの炎を生み出して、今度は自分たちより少し離れた位置までゆっくりと動かす。


「……上達、速いわね?」

「そうか?」

「ほんまや。

 こんな短時間で複数操れるようになるのはすごいで!」

「ほ、ほぉ~ん」


 二人に褒められたことによって少し顔を赤くして照れる。

 その時ふと、違和感を感じた。


「なぁ、ここよりずっと下からなんか感じるんだけど」


 日夏の言葉に二人は意識を下に向けた。

 すると二人も顔を上げて頷く。


「これは確かに魔物の気配……」

「でもおかしないん?

 ここ4階だし、1階の時になんも感じんかったんのは変ちゃう?」

「というかここ地下あるのか?」

「確か……CTとかレストランとかがあったはず」


 スノーウィンターがどこからともなくボロボロのパンフレットを取り出して、そこに描かれているマップを見る。


「最初から地下に行けばよかったじゃん」

「言われるまで知らなかったからしょうがないじゃない」

「ウィンターちゃんってそういうとこあるから」

「ちょっとオータム!」

「いたいいたい!頭抱えてぐりぐりはやめてぇな!

 拳と骨で二重に痛い!」

「薄い胸で悪かったわね!」


 薄暗い廃病院でギャーギャーと元気よく騒ぐ様子に日夏は呆れるが一つ気になることがあったので歩いて地下に向かう途中で質問する。


「そのウィンターとかオータムって魔法少女の時の名前なんだよな」

「そうよ」

「……それって必要なのか?

 いや、本名で活動しないのはわかるけどさ」

「芸名ってのは確かにそうだけれど名前を付けるのは重要なのよ。

 名は体を現すって言葉もあるでしょ?」

「『スマイルスプリング』が一番体現してるんよなぁ。

 めちゃすごい。」


 春に咲く桜の様に笑顔を広げていったという最強の魔法少女『スマイルスプリング』

 それはどの世代の魔法少女たちに大きな影響を与え、一時期には彼女の名前をもじる少女たちが多かったそうだ。

 だが活動を続けるにつれて彼女の名前を背負うことが重荷になり、現在ではほぼ全員が改名している。


「二人も憧れてんのか?」

「ちょっとわね。

 実際残っている戦いっぷりは圧巻の一言だわ」

「だからうちらも季節の名前入れてんねん。

 本名の方にも秋に冬やしな~」

「なるほど」

「せや!日夏ちゃんも魔法少女の名前に季節いれよ!

 夏やし『サマー』ちゃんや!」

「おい!」


 勝手に命名されそうになって抗議の声を上げる。


「何サマーにしようかしら?」

「ウチがリーブス、ウィンターちゃんがスノーって季節の物から取ってるしなぁ。

 夏って言ったらなんやろ」

「海、山、川……」

「キャンプに七夕、お祭りに肝試し!」

「絶対その中から選ばないからな!!」

「じゃあ何がいいのよ?」

「それは……」


 炎を安定させて悩む。

 コツコツと足音だけが響く。

 特に悩む必要はないだろうという気持ちもあるが、ちゃんと考えないとそれはそれでどこかの後輩に文句言われそうだなぁという考えが頭をよぎった。

 無意識にひまわりの髪飾りに触れる。


「フラワー……」

「フラワー?」

「好きなん?」

「んっ。

 サンフラワーにするとどっかのレッドと被るだろ?

 だからフラワーの部分だけ取る」


 変身しても変わることなくついたままのその髪飾りは幼いころに母親に買ってもらったものだ。

 日夏の宝物の一つで、外に出かける際は必ず髪につけているのだった。


「『フラワーサマー』ちゃんか!

 可愛くてええやん!」

「そうね、私も素敵だと思うわ」

「なんだよ恥ずかしい!

 いいからさっさと魔物倒しに行くぞ!」


 日夏、いやフラワーサマーは歩く速度を上げて先に向かう。

 顔が熱いのは近くを飛ぶ炎のせいだけではないのは耳まで赤くした顔が証明していた。

 それから二人に揶揄われたりしながら地下1階に辿り着く。

 足を踏み入れるとうっすら感じていた気配が濃くなった。

 全員黙り顔を見合わせる。

 炎を一つ先に飛ばして索敵する。

 散らばっている壁の破片やガラス片。

 割れている証明はコードが片方断絶してプラプラと振り子のように動いていた。

 一歩一歩慎重に進み、気配を探る。

 感じているのはレストランがあった方向だ。

 その入り口に足を踏み入れるが目に入るところには何かが動いている様子はない。

 そもそも場所が暗すぎるのだ。

 炎の明かり二つだと足りないくらいに。


「何も見えへんなぁ」

「炎でかくするか?」

「そうねその方が」

「おやっ?明かりが必要かい?

 なら点けてあげようか?」


 三人は前に飛び出した。

 ほぼ反射的な行動。本能がそうさせた。

 汗が噴き出る。

 先程立っていた位置にサマーは炎を飛ばす。

 照らすようではない。敵に放つ為の攻撃だ。

 その場にいたものは見えない壁に阻まれて消失する。

 オータムとウィンターはそれに合わせて自分たちの武器を取り出した。


「おいおい、初対面の顔も見てない相手にひどいことするじゃないか」

「こんなところで何をしているの?」


 声からして男性。

 どこかバカにするような声色でこちらに話かける。


「ずいぶん怖い顔するなぁ~。

 僕はここの照明をつけてあげようと親切に声をかけてあげただけなのに」

「ここはだいぶ前に廃れて電気も止まっとるんよ。

 どうやってつけるねんアホ」

「無論」


 こうやってといってパチンと音が鳴る。

 瞬間、周囲の照明が全て点いた。

 地下の様子が露わになり、荒れたレストランが鮮明に見える。

 そして自分たちが言葉を交わしていた相手も姿も露わになった。

 そこにいたのはスーツを着た成人男性だ。

 パッと見、顔は整っているがその笑みからは胡散臭さが丸出しで、一生関わりたくない印象を受ける。


「……一応聞くぞ。

 男の魔法少女って」

「いるわけないでしょ」

「だよな」


 当たり前の質問だが確認せずにはいられなかった。

 なぜなら照明をつけた時にわずかにだが魔力を感じたのだ。

 つまりこの光景を作り出すのに魔法を使われたことになるのだが、目の前にいるのは魔法少女ではない。

 なら考えられる可能性は。


「魔獣を素材にした違法魔道具を使っているか、もしくは別の魔法少女が隠れているか、最悪は」

「僕が魔人か」

「「「っ!」」」


 男はいつの間にか背後に回っていた。

 一切その動作を見せることも無く、感じることもできなかった。

 これはまずい、こいつはまずいと本能がささやく。

 だが先ほどの様に飛び出すことはできなかった。

 まるで金縛りにあっているように動くことができない。


「まぁまぁそんなに怯えることはないじゃないか。

 僕も魔法少女に会うのはうんと久しぶりなんだ」


 声も出せない魔法少女たちを余所に男は話始める。


「君たちがここに来たのは魔物を退治する為だろう?

 悪いけどアレは僕の実験に必要で先ほど頂かせてもらった。

 でもそれだとここに来たのは無駄足になってしまうかな?

 それはそれでもったいないか。せっかく魔法少女の戦いっぷりを見ることができるというのに」


 楽しそうに話を続ける。

 汗が額から顎に、顎から床に垂れ落ちる。

 相手はただ笑っているだけなのに震えが止まらない。

 その中でフラワーサマーは大きく深呼吸した。


「おっと」

「ッ!?」


 剣を出現させようとしたところで腕を掴まれ、持ち上げられる。

 まじまじとサマーの顔を見ると、男は何かを思い出したように「おぉ!」と声を上げた。


「そうか君は……なるほどなるほ」


 男に風と氷によって吹き飛ばされ、壁に突っ込む。

 解放されたフラワーサマーが後ろを見ると扇を構えるリーブスオータムと弓を構えるスノーウィンターがいた。


「大丈夫!?」

「あぁ、平気だ……!」

「逃げるでっ!」


 リーブスオータムがフラワーサマーを立ち上がらせて逃走を図ろうとするがバゴンという音と共に壁が崩壊する。

 そこから頭を掻きながら男が何事もなかったかのように出てきた。


「落ち着きなよ。

 別に僕が戦おうってわけじゃないんだ」


 男が再び指でパチンと音を鳴らすと三人の逃走先に紫の空間が開く。

 そこから飛び出すのは三つ首の猛獣だった。

 それを見てスノーウィンターは目を見開く。


「ケルベロスッ!?」


 魔獣の中でも上位に位置するほどの強力な力を持った三つ首の猛獣は敵を前にして大きく吠える。

 その衝撃で周囲のガラスは砕け、魔法少女たちの逃走を阻む。


「今回は僕のペットが君たちの相手だ」

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