【吉報】魔法少女が生まれました 5
次の日。
優紀は重い瞼が落ちるのを何とか堪えながら授業を受け、昼休みの時間になった。
大きな欠伸をして身体を伸ばす。
「よし、いくか」
身体に力を籠め、机の横にひっかけている鞄を持つ。
日夏に連絡を取ろうと端末を取り出すと同時に、「四季ー」と教室の入り口から声がかかった。
「あきみちさんがお前に用があるってー」
「あきみち?」
優紀に声をかけたクラスメイトの隣には紅葉のヘアピンをしたロングヘアーの少女が立っていた。
そちらを見るとニコリと笑って手をフリフリと振る。
優紀は面識のない人に呼ばれたことに首をかしげながらも、荷物を片手に歩み寄る。
自分を呼んだクラスメイトにお礼を言い、少女に話しかけた。
「えっと、あきみちさん?
僕に何か用?」
「うんうん、ちょーっと四季君と葉月先輩に用事があってん」
「日夏先輩にも?」
「いま、みふゆちゃんが呼びに行っているから一緒に来てもらってもええかな?」
「それはまぁ……」
なんだろうかと思いながらもその少女の誘いに頷く。
自分だけならず、日夏までも呼び出されるとはいったい何ごとなのだろうかとその頭で考えるが、まるで思い当たらない。
「ちなみにどんな用か聞いてもいい?」
思い当たらないのならば直接聞けばいい。
そう考えた優紀は目の前の少女に問いかけた。
それに少女は「あー……」と言い淀んでいる様子だったか、すぐに「まぁいっか」と呟き、答えた。
「昨日の魔獣災害の件のことについての事なんやけど」
「えっ」
「倒した後に君たちにあった魔法少女おるやん?
あれウチらなんよね」
あははと笑いながら自分を指差して少女は笑った。
優紀は頭の中で木魚を鳴らしながら今聞いたことをゆっくりと理解し、大きく息を吸って。
「えぇ~!!!!????」
思い切り叫んだ。
■
「先ほどは失礼しました」
「何してたんだよお前」
優紀は
目の前で叫び声を上げた優紀は周りから、なんだなんだと視線や心配する声を集めることになった。
周りに頭を上げながら、優紀は紅葉の手を取ってすぐにその場を離れた。
その途中に日夏を連れていた
「いやいや気にせんといてええって。
急なことでびっくりさせてしまったのはウチだし」
「そういってくれると助かります」
紅葉にそう言われて気持ちが楽になった優紀はその隣に立つ美冬をちらりと見る。
キリリとしたつり目と凛とした雰囲気がクールな印象を感じさせ、その手首には雪をイメージさせるブレスレットをつけていた。
「そっちの話が終わったらこちらの話を始めたいのだけれど」
「つっても立ち話はあれだろ」
「でもここで4人で座るにはちょっと狭くないですか?」
「じゃあ外行くか」
「外?」
日夏は屋上に繋がる扉の前に立ち、そのノブを少し持ち上げるようにしながら回す。
すると、ガチャリと音が鳴り、その扉が開いた。
「えっ!?そこって開くんですか!?」
「建付けが悪いだけだからな。
まぁ外に出たことがばれたら怒られるけど」
「見た目通りの不良生徒なのね」
「うっせ」
日夏が出ると美冬も後に続いた。
不良生徒と突っ込んだ割にはその行いを特に咎めるつもりはないらしい。
優紀と紅葉も屋上に出ると太陽の日が眩しく降り注ぐ。
今日は風があまりないため、陽気な温かさが広がっている。というより直射日光の分、少し暑い。
いい感じに日陰になっているところに日夏は座り込み、優紀もその隣に座った。
残りの二人も円になるように座り、美冬が「さて」と話し始める。
「最初に自己紹介から始めましょうか。
改めて、私は雪条美冬。魔法少女『スノーウィンター』として活動しているわ」
「ウチは秋道紅葉!
魔法少女は『リーブスオータム』として活動してるで~」
二人の自己紹介に優紀は目を輝かせる。
本物の魔法少女が目の前にいるのだ。それも変身する前の姿で。
優紀は胸の奥からこみ上がる感無量の想いが飛び出そうになっているが、その様子を見た日夏に頭を叩かれることで引っ込んだ。
「痛い……」
「それで、お前らがあんとき私たちを保護した魔法少女だってのか」
「そうよ。
魔法少女は変身したときに認識妨害が働くからピンとこないのはしょうがないわ」
「ウチたちは別に正体を公開して活動しているわけでもないからなぁ」
「まぁそれは体験してるからわかってるつもりではいるけど」
日夏は頭をさする優紀を見ながら、先日のことを思い出す。
変身している時の姿では優紀は日夏のだとわからなかったようだった。
美冬が言った認識妨害はアレの事だろう。
「まさか同じ学校の生徒だったとは」
「んーそれなんだけども、ちょっと違うんよね」
「えっ?それはどういう?」
「私たちは元々ここの生徒じゃないって話よ」
「……はぁ」
何を言ってるのかわからないと露骨に態度で示す日夏。
「順を追って話すわね」と美冬は指を立てながら説明する。
「元々私たちは学園の生徒なの」
「学園って魔法少女たちが通っている?」
「そう、管理局所属の魔法少女がいるところ。
私たちはその管理局の指令でここに転入してきたの」
「なんでですか?」
「……もしかして私か?」
「そうね。
局長からの話は伺っているでしょう?」
それを聞いて日夏は眉を顰めた。
「私が将来魔人と戦うって話か」
「そうや、それそれ」
「それが?」
「私達は管理局の連絡役。
そして昨日のように唐突な分離をさせないためと葉月さんを魔法少女として鍛えるためよ」
「まぁ、そうか。いざ戦うのは私みたいだしな」
「話が早くて何より。
あと戦うのは貴女だけじゃなくて私達もよ。
未来が確定していない今、私達もそこに介入できる余地がある」
「あー、お前らとチームを組めってか?」
「まぁ、そういうことになるわなぁ」
日夏が大きく息を吸い込んで仰け反りながら唸る。
それを横目に隣の優紀はと手を上げてた。
「どしたん優紀君?」
「その、鍛えるって言っても具体的にどうするんですか?」
近辺に魔法少女が鍛えられるような設備なんてあるわけがない。
そう思った優紀は恐る恐ると言った感じで質問した。
「本当なら専用の設備が整ったところで訓練すべきなんだけど、逐一そこに行くのも時間があるから今回は少し粗っぽい手を使うわ」
「なんだそれ?」
「簡単にいえば実践訓練ってやつやね」
「二人と戦えってことか?」
「ちゃうちゃう、最近ここらへんで魔物も見かけられるらしいからそれの退治を一緒にしてもらおうってこと」
魔物と聞いて日夏は首を傾げる。
そしてそのまま目を優紀に向けた。
説明しろと言いたいのだろう。
優紀はポケットにしまっているメモ帳とボールペンを取り出して、紙に書き込み始める。
「なんでそんなものポケットにいれてるんだ?」
「ちょっとしたときにメモ取る時あるかもしれないじゃないですか」
「本音は?」
「魔法少女にサインしてもらう用です」
「ウチらのいる?」
「後でください」
「正直ね、君……」
3枚の紙に書き込み終えるとそれをちぎり、前において説明を始めた。
「まず、僕達が戦わなきゃいけないことになっている魔人。
昨日先輩も言っていたと思いますが、一体でとんでもない被害をもたらす災厄です」
ただ暴れるだけでなく、人の姿を持ったそれは知恵を持ち、言葉を操る。
戦う相手の思考や戦略を読むことや他人の弱みに付け込み、その隙をつくこともある。
中には魔獣より戦闘能力が低い個体もいるが、その場合は魔法少女の様な特殊能力を持っていることがほとんど。
過去において『スマイルスプリング』という魔法少女が倒しまくったせいで今は姿を見ることは無いが、管理局は再び現れてもいいように対策に余念はないという話だ。
先程話をしていた『チーム』もその一つ。
「じゃあ私達が戦う奴も何かしら能力を持っているかもしれないってことか」
「そうですね。
次に魔獣ですが」
魔獣は異界から現れる魔力を持った怪物だ。
偶発的現れるこちらと異界の繋ぐ通路を通って現れており、そのどの個体も巨大だ。
だいたい見かけるのはこちらに住まう動植物に酷似しており、それに因んだ名前を付けられることが多い。
その体内には結晶に似た核が存在しており、こちらの生き物で言う心臓の役割を持っている。
それがある限り強靭な肉体と再生能力を持っているのがとても恐ろしい点だ。
故に魔獣との戦いはその核を破壊することを主としている。
中には破壊せずに抽出、残された魔獣の肉体を加工している者たちがいるという噂がいるが……。
「十中八九それは犯罪者やねそれ」
「そうね。
魔獣を使ったものはどれも人体に影響を与える毒素が含んでいるの。
魔法少女ならともかく、普通の人間が使っ手も使われても死ぬわ」
「おっかない……」
「で、結局魔物ってなんだよ」
「はいはい」
魔物とは異界の魔力に当てられて変化した自然現象だ。
犬であれば狂犬になり、カラスであれば生き物を啄み喰らう害鳥となる。
植物ならば他者から養分を吸う捕食者に、機械であれば機能を暴走させて思いもよらないことを起こすなど様々。
どれも魔力を帯びており、通常の方法では倒すことはできない。
魔獣ほどでは無いが普通の人間からしたら十分すぎるほどに脅威だ。
「魔獣がいないのにそんなことになるのか?」
「魔獣が出てくるのに大きな通路が必要ってだけでこの世界は異界と繋がっているのよ」
「そうなのか?」
「そうやで~。
私達が今いるここも、目に見えないちぃ~ちゃな穴が繋がってるんよ」
「……それっていつどこでも魔物が現れてもおかしくないって事じゃないか?」
「そのための魔法少女ですよ、先輩。
元々魔獣と戦うよりこっちがメインなんです。
それに近年では異界の魔力に汚染されないように対魔力加工とか地域一帯の浄化作業とか行われていたりするんですよ?」
「へぇ~」
「ほんとにわかってます?」
「わーってるって。
で、それを退治しながら強くなれってんだな」
紅葉と美冬は頷く。
日夏は「しゃーないか」と言って、頭を下げた。
「これからよろしく頼む」
「えっと、別に頭を下げんでも」
「こっちの事情に巻き込むってんだからな。
頭位下げるさ」
「律儀なのね」
「義理は通す主義なんだ」
日夏は顔を上げてニカッと笑う。
それを見た魔法少女の二人も笑い合った。
それを見ててなんだか自分も嬉しくなってきていた優紀は両手をパンと叩いて注目を集める。
「じゃあご飯食べましょう!
いっぱい作ってきちゃったんでお二人もいかがですか?」
「ええの?」
「いきなり来たのは私達なんだから悪いわよ」
「いいえ、これから仲間になるんですから親睦を深めてほしいんですよ」
そういって優紀は後ろに置いていた風呂敷を前に出す。
縛っている部分を解くと、中から出てきたのは3段重ねの重箱だった。
トントンと並べて中身が露わになる。
おにぎり、から揚げ、玉子焼き。
エビフライ、漬物、アスパラのベーコン焼き。
学生のお昼ご飯にしてはちょっと豪華じゃない?と言うレベルだった。
「お前、これ」
「先輩が魔法少女になるから自分なりにできることを考えたんです。
でも僕にできることはこれくらいかなって……」
「いやおま」
「あっ、飲み物ないや。
ちょっと買ってきますね!」
「いやまっ!」
優紀は駆けて屋上を出て行ってしまった。
残されるのは手を伸ばす日夏とそれを見る紅葉と美冬。
日夏がゆっくりと二人の方を見ると生暖かい視線を送られていた。
「大事にされてるんやねぇ~」
「逃さない方が将来の為ね」
「うるせぇバーカ!バーカ!」
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