【吉報】魔法少女が生まれました 3

 魔法少女管理局。

 魔法少女を管理し、魔獣の対応や災害救助、警察への捜査協力などの支援を行なっている。

 また、魔法少女を育成する施設を所有しており、管理局に登録されている国家魔法少女のほとんどがそこに所属している。

 現在、日夏と優紀はその中にある一室に通されていた。


「こういう事情聴取って警察とかじゃないですかね」

「私が知るか」


 優紀は落ち着かないのかキョロキョロと部屋の周りを見渡す。

 特に何か変わったようなものは無いが、逆にそれが好奇心を煽ってくる。

 何せ日本に存在する魔法少女たちの総本山なのだ。優紀にとっては興味の尽きない場所だった。

 一方日夏は、ソファーに踏ん反りながら誰から見ても「早く帰りたい」というのがわかる顔をしていた。


「お待たせしてしまってすいませんね」


 日夏が出されたお茶を啜っていると、部屋の扉が開き、二人の女性が入室してきた。

 片方は初老の女性、もう一人は柔らかそうな雰囲気が周りに放つ眼鏡をかけた女性。

 その二人を見て優紀は目を見開く。


千里未来ちさとみらいさんと白石写しらいしうつしさん!?」

「おや?私たちの事を知っているなんて」

「そりゃあここの局長と副局長ですし……。

 それに二人は有名な魔法少女でしたから」

「あらあら、それは恥ずかしいですね」


 千里未来はかつて未来視の魔法少女『フューチャーアイ』として魔獣の出現位置を特定し、被害を最小限に抑えていた。

 その魔法を解析、技術応用され、現在の魔獣検知機に使われている。

 それにより未来視が無くとも魔獣の被害はグッと少なくなった。

 もう一人の女性、白石写は念写の魔法少女『ソートグラフィー』として生き物の記憶をカメラを通して映し出し、多くの事件に協力してきたのだ。

 魔法少女としての定年を迎えた二人はその経験を活かし、現在は管理局のトップとして活動している。

 優紀のような魔法少女ファンにとっては天の上の人物と言っても過言ではない。

 もちろんこの二人の活躍はサイトや過去の雑誌を何度見て覚えている。

 故にとてつもない緊張が全身に広がる。


「どうしてお二人がこちらに?」

「まぁ色々ありまして、その説明に」

「色々?」

「まず……お久しぶりですね日夏さん。

 変身リング、お渡しして正解でしたね」

「別に」

「えっ?えっ?」


 写が日夏に笑いかける。

 まるで以前からの知り合いと言わんばかりの態度に優紀は困惑した。


「お二人はお知り合いだったんですか?」

「知ってるつか、急に現れてコレを押し付けて来たんだよ」


 日夏はそう言って自分の手首に着けていたものを外して目の前のテーブルに置く。

 それは魔法少女が変身するためのモノだった。

 人によって形が違うとは聞いているが、ソレはオーソドックスなブレスレットのような形をしている。


「なんで先輩に?」

「そうですね。

 事情を話す前にまずは謝罪を。

 お二人には申し訳ないことをしてしまって申し訳ありません」

「それはどういう?」

「今回の事は初めから起きると視えていたのです」

「えっ!?」

「写」

「はい」


 未来が声をかけると写が一枚の写真を取り出し、テーブルに置いた。

 そこには変身した日夏とぺたりと座り込んでいる優紀の姿が写り込んでいた。


「これは念写ですか?」

「えぇ、私が視たものを写が念写したものです」

「でもお二人は引退しているから魔法は使えないんじゃ……」

「引退してもある程度なら魔法を使える方は少なくは無いのよ。

 何度も魔法少女として魔法を使うと、自然に元の肉体にこびりつくように残ることがあるのだけど……といっても写とは違って私の未来視は突発的に起きるものなのだけどね。

 これを見た私たちはここに写っている男女、つまり君たちを探しました」

「現在登録している魔法少女のバンクにはこの金髪の子は記録されていませんでしたから。過去の健康診断や調査の結果、彼女がここに写る魔法少女と判断したからです」


 プライバシーもあったもんじゃねぇな。

 なんて日夏は思ったが話を脱線させるつもりが無かったので、言葉にはしなかった。


「先ほども言ったけど私の未来視は全盛期とは程遠いの。

 何が起きるかは視えても、いつどこでまでは分からないわ」

「だからもしもの可能性として日夏さんに変身リングをお渡ししたんです」

「なら当事者に詳しい説明をしてもよかったんじゃねぇのか。

 今回はたまたま、運がよかった。

 他にも魔法少女やら警察やらを使って私たちをどうにかすることぐらいできたろ」


 ぶっきらぼうに日夏が言う。

 粗雑な態度を注意しようとした優紀だったが、日夏の意見にも一理あると思い言いよどむ。

 確かに未来に起きるとわかっているなら日夏を変身させるよりももっと別の方法があったはずだ。


「私が視た時点でそれはもう起きること。

 例え他に手を打っていたとしても結果的に日夏さんが魔獣を倒し、優紀君を助けていたということには変わりないの」

「納得がいかねぇ」

「そうでしょうね。

 だから私たちは頭を下げて謝罪するしかないわ。

 今回の事、そしても」

「「……次?」」


 二人が首をかしげると写が新しく写真を一枚取り出す。

 そこには人型の化け物と対峙している変身した日夏の姿があった。

 だが、先程の写真に比べてピンボケしているような状態で。


「これは?」

「これから起こる未来。

 日夏さんはおそらく魔人と戦うことになるでしょう」

「魔人ってあの!?」

「確か、街一つを片手間に滅ぼせるくらいやばい奴だっけか。

 ……でももう何十年も出てきてないんだろ?

 確かスマイルなんとかっていう魔法少女が片っ端から倒したとかなんとか」


 日夏は優紀から仕込まれた知識をおぼろげながら口に出す。


「『スマイルスプリング』ですか。

 本物の伝説、最強と言われていた彼女が唯一魔人とまともな戦闘に持ち込むことができました」

「そいつと同じ事をしろってのか」

「まさか。

 あの頃とは違って技術も魔法少女の質も上がってきています。

 もちろん戦闘方法も」

「具体的にはどうするんですか?」

「チームを組むんですよ。

 レッドサン、ブルームーン、プラチナスターの『チーム・スカイ』の様に」

「写真には写ってないみたいだが、他のメンツもこれに参加できるのか?」

「ピンボケしているでしょう?この未来はまだ不確定な状態なの。

 戦闘自体は避けられないでしょうけど、ある程度なら改変することができるわ」

「はー、都合がいいことで」

「その都合のよさに助けられることもあるってことですよ」

「今日はもう遅いから後日、こちらから連絡するわ。

 ちょうどご家族が迎えに来ているみたいだし」


 未来はいつの間にか片手に端末を持っていた。

 そこには部下からの連絡が届いていたのだろう。

 二人からは見えないが、何かしらの連絡アプリが開いているようだった。


「突然のことで申し訳ないけれど、これは変えられない運命。

 全力でサポートすることを約束するわ」


 その言葉は二人にとって安心できるようなものではなかった。

 日夏が死地に向かうことが決定しているから。

 日夏本人にも、ましてや何の力もない優紀にもどうすることもできないのだから。

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