【吉報】魔法少女が生まれました 2
放課後。
二人は学校近くのスーパーに来ていた。
「今日の夕飯どうすっかなー」
「夕飯の分も買うのか」
「どうせなら。
あっ、先輩も一緒に食べます?」
優紀が商品を見ながらそう言うと日夏は何とも言えない表情になりながら黙ってしまう。
返事が来ないことを不思議に思い優紀は振り返る。
「先輩?」
「いや、おまえ……うん、わかってる。わかってるんだ。
けして長くはない付き合いだが、お前がそういう男だってのは何となくわかってる」
「えっと?」
「でもこれはうん、あんまよろしくないというかなんというか……」
「おーい」
「こいつ実は気が付いているんじゃないだろうか」
「先輩ってば!」
「……ちょっと待ってろ」
日夏は少し離れて携帯を取り出すとどこかに電話をかける。
「もしもし、忙しいところ悪いんだけど今日帰りって……。
わかった、遅いんだな?じゃあ今日後輩に飯誘われてるから……バッカちげぇよ!
まだそんな、じゃなくて!自分は自分でちゃんと食べろよな!」
日夏は少し粗ぶりながら通話を切り、ポケットにしまうと頭を掻きながら優紀の所に戻る。
そして少し気恥ずかしそうにしながら「あー」と言葉を言いよどむ。
「……一緒に食べる」
「相手はお母さんですか?」
「今日も遅くなるらしいからな。
まぁ、丁度よかったというか」
「じゃあ何か食べたいものとかあります?
明日のお弁当のほうも」
「こういうのって安めの食材買ってから献立を決めるんじゃないのか?」
「それでもいいんですけど、今回は先輩に食べてもらうので」
「なぁ、常々思うんだけど」
「はい?」
「なんで女に生まれてこなかったんだお前」
「なんてことを言うんだあんた」
■
「大量に菓子類買い込んだな」
「どうせネット見ながら夜更かしするんで」
「日を跨ぐ前には寝ないと身体に悪いぞ」
「若者の特権です」
学校鞄を背負い、両手にはビニールの袋を持つ。
歩く途中で日夏が「持とうか?」と提案するが優紀は首を横に振った。
一つ歳が下と言えど優紀も男の子。少しでも見栄を張りたい年頃である。
「そうだ、家に帰ったらサイト見ないとな」
「『【速報】魔法少女の活動』だっけ?
日の魔法少女たちの活動がまとめられてるサイト」
「僕みたいな人は全国各地にいますからね。
そこを見れば番組に取り上げられていない魔法少女たちの活動も知れて面白いですよ。
中には本人たちに許可とって写真を掲載させてもらえますし」
「私もたまに覗くけどさ、一日にどれだけの情報が追加されてんだよってくらいの量が更新されてるよな」
「老若男女みんな魔法少女が好きなんですよ。
誰にとってもヒーローでヒロインで、憧れなんです」
「あそこまで見るとストーカーの領域に見えるけどな」
「ちゃんとルールはありますよ?
魔法少女たちに迷惑をかけないことのが鉄則です。
まぁ万が一問題があったら管理局がしょっ引きに行くでしょうし」
「それはまぁそうかもだけど……んっ?」
日夏は何かに気が付いたのか足を止めて周りをきょろきょろと見渡す。
「どうかしたんですか?」
「いや、この時間のこの辺ってこんな静かだったか?」
日夏にそう言われて優紀も周りを見る。
確かに言われてみれば奇妙なほどに周りには音がない。
スーパーからはそこまで離れていないはずなのに人通りがなく、さらには車道には車が一台も走行していなかった。
あまりにも不自然な現象に心臓の鼓動が早まり、焦燥感に駆られる。
「先輩」
「あぁ、なんかちょっと嫌な予感が」
瞬間、二人の携帯から大音量で警告音が鳴り響く。
それは今の時代を生きる人なら誰もが知り、だがあまり聞くことが無いもの。
魔獣警報。
近くにヤツらがいる。
『URRRRRR』
二人の後ろには顔のない犬のような化け物がいた。
その体は一軒家ほどの大きさで、口からは醜悪な臭いと獲物を食いちぎるための牙が覗いている。
ジュルリと唾液を啜り、今まさに獲物をしとめんとする獣がそこにいた。
優紀は体が固まる。
だがそれは左腕が引っ張られたことですぐに元に戻る。
「ボーっとするな馬鹿!!!」
日夏が優紀の左手首を掴んで走り出したからだ。
意識がはっきりと戻り、邪魔な荷物を手放して身を軽くする。
「くそなんでっ!?」
「魔獣の領域です!
魔獣の中にはそういう類のこう、すごい力を使うやつがいるっぽいです!」
「それじゃなんもわかんないっつーの!」
二人は走る。
だが魔獣も地を駆け、その差を一瞬で縮めた。
同時に獣の前に強烈な閃光と奇妙な音が鳴り響く。
目が無いにもかかわらず、光を浴びた魔獣は声を上げながら怯み、床に頭を打ち付けた。
「なんだ今の!」
「通販で買った防魔グッズです!
使うと魔獣の身体にある核を揺さぶって怯ませる効果があります!」
「なんでそんなの持ってるんだよ!?」
「趣味です!」
学校をテロリストに襲撃されることを妄想する中学生男子のごとく。
「ちょっともしかして」などという期待をしていた優紀は専用のサイトで購入していたものだった。
もちろん使う予定なんて本当にあるとは思っていなかったが。
値段はそれなりに高い分、しっかりと機能している。
二人は魔獣が悶えてるうちに、その体が入れないような細い路地に入って隠れる。
「これどこに逃げればいいんだ?」
「外に出られればいいんですけど……」
「わかりやすい出口としてはさっきのスーパーのほうか。
思いっきり真逆の方向に走ったな」
「魔獣がそっち側にいたから仕方ないでしょう。
さっきのブザーで管理局には魔獣が出現の連絡はいっているでしょうし、近場の魔法少女が早く来るのを待つしかないでしょう」
「……」
「先輩?」
「えっ?あぁ、そうだな。
うん、その方がいいと思う」
「もしかしてなんか他にあったりします?
あっ、もしかしてトイレとか……?
それはその……いや、本当に我慢できないなら後ろ向いて耳塞いでるんで……」
そこまで言った優紀の頭を日夏は力強く叩いた。
「違うわ!!何言ってんだお前!!」
「ご、ごめんなさい」
「それで、さっきのグッズはまだ使えるのか?」
「あと二回なら」
「心許ないな」
「結構高いんですよこれ」
「まぁしゃーなしだな。
とりあえずここにいるのもなんだし、どこか別に隠れられる場所に行こう」
「そうですね」
二人は入ってきた場所の反対側から路地を抜けようとする。
瞬間、なにかぬめりとした細いものが優紀の胴に絡みつき、とてつもない力で引っ張った。
あまりにも突然のことで何も抵抗ができなかった優紀はあっさりと連れていかれてしまう。
「優紀っ!?」
日夏は慌てて追いかけ、路地を抜ける。
開けた道の先には魔獣が唸り声を上げながら立っている。
その口からは長い舌が伸ばされおり、その先端には舌に巻き付かれた優紀の姿がある。
「この放せっ!」
優紀は舌を叩くが、グニッという感触と生暖かい唾液が手に付着するだけで意味をなさなかった。
なればと優紀は防魔グッズのスイッチを使おうとするが、その前に日夏の声がそれを遮る。
「バカやめろ!
今それ使ったらその高さから地面に落ちるぞ!」
現在の優紀は10メートル以上の高さまで持ち上げられており、余程訓練されたものでなければ良くても重症、最悪即死してしまう可能性がある。
しかし、何もしなかったとしてもこの後自分が辿る運命は変わらない。
そう考えていると視界がぶれた。
魔獣は舌を上に振り上げて優紀を空中に放り投げたのだ。
その下に待ち受けるのは魔獣の口。
もはや感心してしまうほどに綺麗に生えそろった牙を見て、自分はやすやすと噛み砕かれてしまうことが想像できる。
ならばやることは一つ。
「先輩!僕がこれ使ったらできるだけ遠くに逃げてくださいね!」
聞こえるかどうかわからないが、できる限り大きな声で叫びながら防魔グッズを魔獣に向けてそのスイッチを押した。
閃光と音が響き、魔獣は苦悶の声を上げた。
これで魔獣に食べられることは無くなった。
代わりに待ち受けるのは固いコンクリート。
優紀は目を瞑る。
できれば日夏が逃げ切れることを願いながら。
「他人のことより自分のことを考えろっての!」
「えっ?」
声が聞こえると同時に優紀は誰かに掴まれ、もう一度浮遊感が全身を覆う。
そのままお姫様抱っこの状態に抱えなおされた。
瞑っていた目を開けるとそこには綺麗な金色の少女の顔があった。
少女は地面に着地し、優紀を地面に下ろす。
「大丈夫か?」
「えっと、ありがとうございます?」
「まさか本当に変身することになるなんてな」
金髪の少女は呟く。
全身を金と黄色を混ぜ合わせた衣装に、各部にフリルやアクセサリーがつけている。
その姿は紛れもなく魔法少女の
少女は右手を払うと軌跡に炎が吹き、中から一本の剣が出現した。
剣を手に取ると、値踏みするようにそれを眺める。
「感覚で色々とわかるもんだな」
「あの」
「とりあえず、どこか隠れてろ」
「アッハイ」
その言葉にはなにか逆らえないような圧を感じて優紀はその場を離れる。
少女はそれを確認すると金色の髪を
魔獣は防魔グッズの効果が切れ、顔を数度振った後に空気が震えるほどの咆哮をする。
優紀は思わず耳を塞ぐが、少女は気にせずに走り出した。
魔獣の舌が伸びる。
普通なら目に追えない速度だが、少女は身を低くして躱す。
更に全身を回すようにして剣を振り上げて舌を斬る。
舌を斬られた痛みで魔獣は怯むがそれは一瞬だけ。
その口からはどす黒い液体を吹き付ける。
まき散らされた液体の飛沫が周りの物を溶かしてまうことから液体は強力な溶解液だということがわかる。
まともに受けてしまえば骨すら残らないだろう。
だが少女はそれを避けようとはせず、代わりに全身から金色の炎を噴出させる。
その炎は溶解液を焼き、一滴さえも残さず消滅させた。
少女はそのまま駆け抜け、自分の持つ剣にも炎を纏わせる。
魔獣が飛びのこうと足に力を入れるが、もう遅い。
「フレイムブレイザー」
魔獣の頭から尻まで炎の剣が両断する。
後ろまで駆け抜けた少女が立ち上がると共に魔獣は左右に分かれながら消滅していく。
短い戦闘。
しかし間近で見ていた優紀は呼吸すら忘れて戦闘に見入っていた。
そんな優紀の元に少女が歩み寄ってくる。
「怪我はないか?」
「えっ、あっだいじょうぶです」
「ほんとかー?
結構冷や冷やもんだったぞ」
少女はそう言うと炎が身を包む。
先ほど戦闘で使っていたものとは違い、あまり熱さを感じない。
炎が消えるとそこにいたのは日夏だった。
「えっ!?先輩!?
今の魔法少女って先輩だったんですか!?」
「気が付いてなかったのかお前」
「だって、えぇ……?」
「事情はあとで説明するとして」
魔獣が倒されたことで空間が元に戻り、人々の喧騒が再び聞こえ始める。
周りを見ると大型の車両と『keepout』の文字が書かれたテープで囲まれていた。
そこから人が高く飛び上がったと思うと二人の前まで降ってくる。
一人は純白で雪のような魔法少女、もう一人は茶色と橙色を合わせ、紅葉を連想させる魔法少女だった。
「あなた達怪我は?」
「あー、大丈夫」
「魔獣の反応があったと思うんやけど、どうしたかわかるん?」
「それなら私が倒した」
「え?ほんまぁ?」
「そこら辺の事情は私じゃなくて上に聞いてくれ」
「……わかったわ。
車まで案内するからついてきて」
雪の魔法少女は踵を返して元に戻る。
紅葉の魔法少女は手を振りながら後に続いた。
「じゃあ私たちもってどうしたそんな顔して」
「ほ、本物の魔法少女!
本物の魔法少女ですよ先輩!!!」
「おまえ引っ叩いたろか?」
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