【吉報】魔法少女が生まれました 1
「ご覧ください!」
街中にある大型ディスプレイに一つの緊急ニュースが流れ、ヘリコプターに乗る女性アナウンサーと地上の様子が映し出されている。
そこには自然界の生物とはまるで違う姿をした大型の生物が高速道路に存在していた。
道路が割れ、ひっくり返された車からは火の手が上がってる。
目のない顔を上に向け、その大きな口から放たれる咆哮が空気を振動させ、周りを吹き飛ばした。
その振動はヘリコプターにも届き映る映像が激しく揺れる。
映像を見ていた人たちは肝を冷やしたが、次の瞬間その気持ちは霧散する。
「まぁぁぁたせな!!」
先ほどの咆哮にも負けないほどの大きな声と共にヘリコプタ-の揺れを止め、太陽のように明るい笑顔を見せる一人の少女。
そして続けて青い衣装と黒い衣装に身を包ませた少女が二人並ぶように現れる。
三人の足元には立てるような足場は存在せず、完全に宙に浮いていた。
「レッドサン!ブルームーン!プラチナスター!ここに見参!」
「うるさっ」
「ヘリコプター、もっと離れてください」
黒い衣装の少女、プラチナスターがヘリコプターに乗る撮影スタッフにそう呼びかけると同時に淡い光が全体を包み込む。
「あ、これもしかして全国ネットですか?
ヤダもう恥ずかしい」
「スター!遊んでないでさっさと行くよ!」
「まぁまぁそんな急かすなって!
おーい、テレビの前のお前たち!あたいたちの活躍しっかりと見ておけよ!」
レッドサンがそういうと全身を炎に包み、大型生物に飛び込んでいく。
それを見た大型生物は大きく息を吸い込んだ後、口から光線を吐き出した。
光線は当たったら一瞬にして融解してしまうほどの熱量をだが、サンレッドは笑顔を歪ませることなく、むしろ楽しそうにニカッと笑い光線を殴りつけた。
光線はレッドサンを溶かすことなく、弾けていった。
弾けた光線はいつの間にか空中に散らばっていた大量の六角プリズムに幾度も反射され大型生物に降り注いだ。
大型生物はダメージを受けて体をよろめかせる。
「ブルー!」
「わかってるわよ!」
ブルームーンが両手を合わせるとそこから大量の水が放たれ、蛇のように蠢きながら大型生物を拘束する。
大型生物は力任せに引きちぎろうとするとするが、まるでびくともせずにじわりじわりと体を締め付ける。
「フェニッシュはあたいだ!」
大型生物の足元に辿り着いたレッドサンは腰を落とし、右手をグッド握りこむ。
体を包んでいた炎が手に吸い込まれるように集まり、眩い輝く。
「サァァァァンシャイン!ブレイカァァァァァ!!!」
サンレッドが大きく叫びながら手を大型生物に向けて突き上げる。
集まっていた輝きが解放され、大型生物の光線以上に太く、強力な一撃が放たれる。
大型生物は断末魔の声も上げることなくその輝きに飲み込まれ、最後には体の一部分を残して消滅した。
数秒して残った部分も粒子になって消失し、それを確認した魔法少女たちはヘリコプターのカメラに向かってピースサインをする。
食い入るように見ていたアナウンサーはそれを見てハッと我に返り、やや興奮気味ながらスタジオに向かって言葉を述べる。
戦いの熱気はその映像を見ていた人たちにも伝わり、隣にいたものや片手に握るスマートフォンで通話アプリやSNSを通じて盛り上がる。
「うおぉぉ!!かっこいいいい!!」
その中には
横断歩道で自転車に跨りながら食い入るように大型ディスプレイを見る。
片手に握るスマートフォンでは魔法少女の情報が集まるコミュニティチャットが表示されており、ものすごい速さでコメントが流れている。
「今回の映像ネットにアップされないかな。
誰かこれ録画してたりして……ってあぁ!」
チャットを閲覧しようとしてスマートフォンを見ると現在の時刻が表示されているのを見て学校に登校中だった優紀は自分が遅刻ギリギリなことを思い出し、急いでスマートフォンをしまい自転車を漕ぎ始めた。
「やばいやばいやばいー!!!」
◇
「……で、結局遅刻したと」
「しょーがないじゃないですか、あんな大規模な戦いをリアルタイムで見ることなんてそうそうないんですからぁ~」
時刻はお昼。
優紀はたっぷりと教師に叱られて憂鬱とした気分からやっと解放され、現在は最上階の踊り場に座り込んでいる。
隣には一人の女子生徒が座っていた。
着ている制服は着崩されており、胸につけているリボンは結ばれずにだらりと垂れていた。地面につくほど長い髪には金色に染められており、窓から差し込む光に薄く反射している。ただし少し色落ちしているためか地毛の色が浮かび上がりつつあった。
「あ、動画アップされてる。
「あぁ?私が魔法少女に興味あるように見えっかよ」
「いやぁここはギャップを求めて」
「言ってろアホ」
日夏はそう言いながら菓子パンをパクりと食べる。
そんな日夏を見た優紀は自分の手にあるお弁当と菓子パンを交互に見比べる。
「なんだよ。やらねぇよ」
流石にそれが気になった日夏は菓子パンを隠すようにして優紀を睨む。
そんな様子が少し可愛らしいと思いつつも、優紀は首を振る。
「いや別にいらないですよ。
むしろ足りるんですか?」
「……いやまぁ仕方ねぇだろ。
朝よえーし、金もねぇからな」
「ならもう一つお弁当作ってきます?」
「はっ?」
日夏は目を丸くして優紀の顔と弁当を見る。
「それ、自分で作ってんの?」
「まぁ、実質一人暮らしみたいなものですし」
「えぇ……女子力たか」
「女子力つか、家事能力ですかね」
「それ遠回しに私が家事できないって言ってんの?」
「いや、そんなことないですけれども」
日夏は菓子パンをパクパクと食べた後、両腕を組んで必死の形相で悩み始める。
後輩の男に弁当と作ってもらうことに対するプライドと、これからの昼食事情を天秤に乗せているようだった。
1分ほどの思考の結果、日夏は優紀に頭を下げた。
「オネガイシマス」
「なんで片言……」
「いや、後輩に世話になるのなんてちょっと……ダサいだろ」
「別にそんなことないですけれどね。
僕は先輩に色々助けてもらいましたし」
「それこそ別にだ。
成り行きでたまたまそうなっただけ」
「なら僕も成り行きで」
「……いやそれは成り行きにならないだろ」
二人がそう話していると昼休みが終わる時間がもうすぐ迫ってきていた。
弁当を食べ終えた優紀は両手を合わせて「ご馳走様」と言って片づける。
「お金がないならバイトしたらどうです?」
「うちの学校、バイト禁止だろうが」
「……先輩って結構まじめですよね」
「どういう意味だコラ」
それはそんな見た目なのに、と思った優紀だがそれは言わずに飲み込んだ。
「じゃあそれぞれ教室戻るとしますか。
あ、放課後暇ですか?」
「んっ?暇だけど」
「じゃあ明日のおかず一緒に買いに行きましょうよ」
「……なんか悪いな」
「ついでに僕の魔法少女語りを聞いてください」
「絶対メインそっちだろ!?」
オタクというものは語らずにはいられない生き物である。
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