ゆうしゃとまおうと旅立ちの日
なしろ
第1話
オレは勇者学校を出たばっかりの新米勇者だ! なんと今日は旅立ちの日! これからオレの魔王討伐への長い旅が始まるぜ!
「と思った矢先にいきなり魔王に遭遇してしまったあああーっ!??」
「勇者よ……よく来たな……。我こそが魔王だ!」
「いやまだ村出てから100歩も歩いてないんですけどっ!? ていうかなんでこんなところにいるんだ!? この道の先にはオレの村しかないぞ!?」
「それは……この先の村の特産品の卵が安くて美味いと聞いて……ごほん。ではなく、ここに勇者の波動を感じたからな……。災いの芽は早めに摘んでおかねばならん!」
「えっオレの勇者
「そうは言ってない」
「冷静に否定してきた!」
ちょっとだけ期待したオレが馬鹿だった! って、そんなこと考えてる場合じゃない! どうする……オレは新米も新米……レベル1だ。向こうは……全然分からないがレベル100はありそうな見た目をしている……。買い物カゴとか持ってるが……。ここはひとまず逃げるべきか……?
「くくく……逃げようとしても無駄だぞ……」
「オレの心を読んだだと!?」
「我の姿を目にした勇者は大抵逃げようとするものだからな……」
「あっなんだ心を読んだ訳じゃなかったのか! 安心したぜ!」
「あからさまにほっとするな! 貴様、我を愚弄しているのか?」
「いやいや滅相もない! なんか強そうだからとりあえず逃げようと思ってたところだ!」
「ほう……我の強さが分かるとは……なかなか良い目をしているな」
「目の良さには自信があるからな! アンタの持ってるカゴに掛かってる布の、ヒヨコちゃんの刺繍の糸の本数まで数えられるぜ!」
「な……何!? 貴様気持ち悪いな……本当に人間か?」
「会って間もない魔王に人間であることを疑われた……!??」
いや、逆にこれはチャンス! 魔王が呆れている間に不意打ちを仕掛ける……と見せかけて逃げる! これぞヒット&アウェイ! 戦いの基本!! その後はオレの俊足の見せ所だぜ!!
オレは思い付いた即席の作戦を実行すべく、腰の剣に手を掛けて構えようとした……が、そこで思わぬ事態が発生した。
「なっ何!? 剣と間違えてホウキを持ってきてしまった!? 旅立つ前に家の掃除をしていたからかっ!!?」
「剣と間違えていただと!? 何ゆえホウキをぶら下げているのかとずっと気になっていたが……」
「そういう大事なことは早く言えよっ!!」
「いや、てっきり無類の掃除好き勇者なのかと……」
「そんなわけないだろ!??」
オレは半分涙目になってしまった。勇者学校に入りたての頃、教師を間違えて「お母さん!」と呼んでしまった時以来の恥ずかしさだっ! くっ……こうなったらもうどうにでもなれだ! このホウキで魔王にタンコブの一つでも作ってやる……!!
オレは決死の覚悟でホウキを握りしめ、魔王を睨みつけた。しかし、どうにも魔王の様子がおかしかった。妙にソワソワとして落ち着かない。一体急にどうしたんだ。トイレか?
「どうかしたのか?」
「いかん! このままでは卵が売り切れてしまう!! 勇者よ! 一時休戦だ! さらばっ!!」
そう言うが早いか魔王はオレを避けて村の方へとものすごい勢いで走り去って行った。
「ええっ!? ちょっと待て! 勝手にオレの村に入るんじゃねえええ!!!」
オレは慌てて踵を返すと、猛スピードで魔王を追いかけた。魔王の姿はすでに豆粒ほどになっている。
「はっ速い……!! オレより足が早いやつに初めて出会ったぜ……!」
こうして、オレは旅立って早々、村へ帰還することになった。
ゆうしゃとまおうと旅立ちの日 なしろ @nashirouta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます