確認 八

 ガロッドがルーゼの正体なり目的なりを探っているのは、あくまでレゼッタとのためなのだが、相手にもそう信じてもらわねば意味がない。


 サージがどんな風に利用されていようとこの際はどうでも良かった。


「そうなの。ところで、あなたは自分がどんな運命をたどるか知ってる?」

「どんなって?」


 敢えて鈍物のふりをしたが、ルーゼはそのまま説明を続けた。


「殺されるのよ。サージにね。もっとも、それを言うならランデルも死ぬんだけれど」

「ええっ?」


 本心からガロッドは驚いた。二人の弟を殺してサージに何の得があるのだ。まさか口減らしというわけでもなかろう。


「つまりこういうことなのよ。レゼッタを通じてガロッドから、バッフェル家がログロッタ市に秘密経済結社を展開しようとしているのが明らかになり、サージは敢然とその阻止に動き出した」

「……」

「そして、組織の殲滅には成功したものの、結社の反撃に会ってランデルとガロッドは暗殺されてしまった、とね。サージはね、御馳走を一人じめしたいのよ」


 実際には誰がガロッドとランデルを殺害するのか、言わずもがなだった。本人に確かめたわけではない。干草小屋の密談がそれを補って余りあった。


 何とも言えない嫌悪感がこみ上げてくる。地位や名誉を手にするのに、そこまで卑劣な策を使わねばならないとは。


「このまま見殺しにするには、ガロッド、あなたは少し惜しいの。未熟だけれど、自力で行動して成し遂げようとしているのはあなただけだわ。だから私は、サージとあなたの立場を入れ替えて上げてもいいのよ。何が言いたいのか、わかるわよね?」


 もちろん、ガロッドがフレイワート家の当主となり、栄達を重ねるのだ。それはいかにもぞっとしない話だった。


 未熟かもしれないし無鉄砲かもしれないが、己の立場は己で築き上げてこそ成り立つというのが彼の信条である。


 だいいち、ルーゼがサージを裏切ったのなら、自分もそうされないという補償はないではないか。


「水をもう一杯もらえませんか」

「いいわよ」


 ルーゼは水差しの取っ手を掴んだが、やおら動きを止めた。


「レゼッタちゃんってなかなか可愛いわね。もう体は重ねたの?」


 いきなり妙な方向に話が飛び、ガロッドは少し目をしばたかせたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「はい」

「うふふ……そう。サージはね、とても下手よ。物足りないくらいじゃすまないわ」


 自分から秘密を暴露し、彼女はコップを満たした。


「私を尾行してから、少し試させてもらったわ。貧民街へ一人でやってきたのは予想通りだったけど、用心棒までのしてしまうなんて嬉しい驚きね。その年で度胸だけじゃなく腕もあるのは大したものよ。サージみたいな意気地なしより、あなたと手を組むべきだったわね」


 彼女はコップをガロッドに渡してから椅子を離れ、シャツのボタンに手をかけた。一個一個外していき、ついでスカートも脱ぎ、下着も外す。


 ガロッドが画家なら思わず頭の中でデッサンしてしまいたくなるような体型だ。


「将来どうするつもり? 私と手を組んだら、家も名誉も御金も、そして私も手に入れられるわよ。レゼッタちゃんと付き合いたいなら秘密にしておいてあげるわ」

「どうしてそこまで私に……というより味方にこだわるんです?」


 コップに口をつけず、ガロッドは基本的な疑問を明らかにした。


「そうね……当ててみたら?」


 全裸のままルーゼは答を待った。


 ふらつく頭をむりやり動かし、ガロッドはこれまでに得た情報を必死に繋ぎ合わせた。


 もはやルーゼがサージにとってもバッフェル家にとっても味方でないのははっきりした。二等査察官なる位も怪しいものだ。


 しかし一面、サージを騙すからにはそれなりに整った根拠がいる。バッフェル家にとってもしかり。


 そして、サージが信じている計画が本当に進めば商人たちは一網打尽となるだろう。それはログロッタ市にとって大損害だし、ひいては王国そのものに……。


 答が浮かんできた。口に出そうとして、はっと気づく。それを言ったら自分が積み上げてきた情報のレベルを相手に教えてしまう。つまりルーゼは自分を値踏みしているのだ。


 集中し過ぎたせいか、体が熱い。顔が火照り、次第にルーゼから目が離せなくなってくる。


「どうしたの? 答はまだ?」


 そう言って彼女は胸を心持ちそらせた。レゼッタより一回り大きな乳房が揺れている。飛びかかって押し倒したい衝動が次第に強くなってきた。

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