逢い引き 三

「今日は二回目の方が凄かったな」


 そう言いながらガロッドが体を引きぬくと、愛し合ったよすががレゼッタの両足の間からからこぼれ落ちた。


「あ、あたし、両方ともすっごく良かったよ」

「それは良かった」


 ガロッドはレゼッタと並んであおむけになった。しばらくは、行為の余韻を味わいたい。彼女もそれを察して、黙ったまま寄り添った。


「ね、ガロッド」


 しばらく天井を眺めてから、レゼッタが話しかけた。


「うん?」

「親が言ってたんだけど、今度よその街から引っ越してくるご一家さんを招いてパーティーするんだ」


 なにが言いたいのか今一つわからず、曖昧にうなずくと、彼女は小さく息を吸って核心に至った。


「それでね、あたしと同い年の男の子がいるから、その子はどうだって言われてて……ごめんよ。こんなこと、こんなときに言うもんじゃないけど」

「いや、よく話してくれた。ありがとう」


 その言葉は本心だった。黙っていられるよりずっといい。


「でもね、安心して。きっぱり断るから。ガロッドのこと、まだ言わないでおいた方がいいと思うから、そのことは内緒にしといて、別な理由をつけとく」


 彼が安心することで自分も安心できると言いたげなレゼッタだった。


「そうだな。ところで、どんな人たちなんだ?」


 レゼッタが嘘をつく理由は全くありえないから、その意味での心配はなかった。


 どちらかと言うと、街の人間として新顔を知っておきたいという意識が働いての質問だった。


「うーんとね、ちょっと変わった商売をしてるって。ほら、普通はさ、安いところで買ってきたものを別なところで高く売るって言うのが普通じゃない?」

「ああ」

「けど、その人のところだと職人たちの組合を抱え込んで、自分たちで作った製品を直接売りさばくんだって。それも、できるだけ同じものを同じ値段で作り続けさせるそうよ」


 確かに、ガロッドも余り聞いたことのないやり方だった。


 職人と商人は全く別個の同業組合を作っており、両者は敵対などしていないものの仲良しとも言えないからだ。


 職人からすれば、商人は何も作らないくせに売上の手数料をピンハネしていると考えがちだった。


 もう一方の商人からすれば、自分たちがいてこそ品が流通されると言うのに、職人は嫌なら買うな式の発想を押しつけていると思いこむことがままある。


「パーティーって、じゃあ商売の話でもするのかな?」

「ううん、今度のはただの顔見せ。でも、親が妙に力んでたな。それは確かに、街中の商人がやってくるし、会場はうちだし、新しいドレスも頼んでもらえたけれど」


 レゼッタの家は広い。館と言ってもいいぐらいだ。へたな貴族よりずっと羽振りがいいが、よく考えると彼女の家には行った覚えがない。


「俺もこっそり行ってみようかな? その人んとこの息子がくるぐらいなんだから、年でどうこうって話はないだろ。どっちみちレゼッタの家の中も確かめておきたいし」

「えーっ? でも、招待状がないよ」


 彼女の現実的な困惑に接しても、ガロッドは少しも動じなかった。


「入る時は裏口で、出て行く時は正門さ。それだけ規模の大きなパーティーなら、臨時にアルバイトを雇うだろ。その中に紛れこんで、トイレで着替える。心配するな、目立つような真似はしない」


 合理的と言いたいが、計画というには大雑把な内容だった。しかしガロッドにとっては恋人の家を観察する絶好の機会だったし、何よりレゼッタへの熱意があった。


 彼女はしばらく目をつぶって考えていたが、再び目を開けた時には微笑んでいた。


「いいわ。でも、長居はしない方がいいと思う。パーティーは来週の金曜日だから、それまでに家の間取りを書いて渡すね」


 今日は木曜日なので、一週間ほど余裕がある。


「ああ、頼むよ」


 話がまとまったところで、帰る時間になった。


 二人は服を身につけ、互いの頬にキスし合ってから一人ずつ外に出る。


 堂々と腕を組んで歩くには色々と立場が複雑過ぎることぐらいわからないはずはないが、早くそんなこだわりから解放されたいこと、さらにはそれを口にしないよう努めねばならないことをガロッドは心に刻み付けていた。そして、レゼッタも同じ気持ちであることに間違い無かった。


 特に順番が決まっているわけではないが、レゼッタが先に出た。


 ガロッドはいくばくかの時間を一人で潰した。普段はただ退屈さを噛み殺しているだけだが、今は金曜日の計画で頭が一杯になっている。


 まずはパーティー用の礼服だが、これは長兄のそれを無断借用せねばならない。幸いサイズはかわらないし、何着か予備があることでもあり、そう困難な作業ではないだろう。


 家そのものがガロッドにはさほど関心を持っていないので、相当遅くならない限りは時間も大丈夫だ。


 それにしても、貴族と平民とはやはり色々な点で違いがあった。


 ガロッドたちのいるベアボルタ王国では、貴族は一世帯ごとに成人に達した子弟……女性でも良い……を一名、一年の兵役につかせねばならない。


 また、平民は全て志願制だ。にもかかわらず、部隊が定数割れを起こしたことは一回もなかった。歴代の国王たちの巧みな政策で、国民は大陸でも稀な忠誠心を王室に捧げている。

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