第17話 さよなら
美穂はベッドの上で深い眠りの中で夢を見ていた。
綺麗な川の辺に美穂は腰掛けている。周りは緑がいっぱいで可愛い花がたくさん咲いている。美穂の傍らに赤い髪の少女が座っている。
「ミコトちゃん!」ミコトはニッコリ微笑んでからゆっくりと半透明になっていった。その消えゆく姿を引き留めるかのように、美穂は彼女の身体を抱きしめようとする。しかし、儚くも彼女の身体は消えてしまった。
「ミコトちゃん待って!」美穂は立ち上がり、消えたミコトの姿を探した。しかし、すでに彼女は何処にもいなかった。
ふと、目を上げると今度は二つの人影が視界に入った。
「ムツミさん!シオリさん!」土手の上に二人が立っていた。
美穂は懸命に坂を駆け上り、二人の近くに走っていった。(もう少し!)手が届くと思った瞬間、ムツミとシオリも先ほどのミコトと同様に、ゆっくりと姿を消した。
「なっ、なぜ・・・・・・私を置いていくの・・・・・・、私を置いていくの!!」美穂は周りを見回す。すでに、二人の姿は何処にも見当たらない。美穂の瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。
いつの間にか、唐突に美穂は人混みの中を歩いている。
前を歩く女性が、また二人。
「イツミさん!フタバさん!」必死で駆け寄り二人に声をかける。
「イツミさん!フタバさん!」美穂の声に、二人は振り返るがその顔は全く違う別人の顔であった。「すっ、すいません・・・・・・」二人は、迷惑そうな顔をしながら歩いていった。
気が付くと、いつの間にか周りは砂浜に変わっていた。
近くには海。
水着でビーチボールをする少女達が見える。
それぞれ、魅力的な水着を身体にまとい、まるで妖精達が戯れているようであった。
「いた!」
美穂は砂浜を必死に駆けていった。
いつの間にか、美穂はスクール水着を着ていた。
「皆!・・・・・・ナオミ!」美穂はナオミと思われる少女に駆け寄っていった。
ビーチボールを両手で弾き大きな胸が揺れる。そしてピンク色の髪の少女が振り向く。
その顔は・・・・・・、大久保 美穂の顔であった。
「えっ、なに!」
その瞬間、美穂は夢から覚めた。
その頬には涙の跡が残っている。
昨晩は一晩中泣き続けて、疲れて知らない間に眠ってしまったようだ。変な夢を見たような気がしたが、正確には思い出すことはできなかった。
美穂は、もう一度腕を両目の上に覆い光を遮断した。
枕元には、有紀から貰ったパンフレットの、最後のページに掲載された写真を切り抜いて綺麗に写真立てに入れて置いてある。
写真の中では、シオリ、ミコト、ムツミ、イツキ、フタバ、ナオミが微笑みながら並んでいた。
「特工・・・・・・、いえ・・・・・・、バーニング・エンジェルズ・・・・・・・」そう呟いてから美穂の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
(ぺろぺろ)
頬を何かに舐められている感じがした。
(ぺろぺろ)
「うう・・・・・・」ゆっくり目を開けると、目の前に初めて見る黄色い小動物が立っている。
「なに、これ、フェレット?可愛いい!」ゆっくり手をフェレットの頭に近づけた。フェレットは素早い動きで逃げていった。その先にあったものは・・・・・・。
「えっ、何? 」美穂は自分が、寝ているベッドに他人の気配を感じた。目を凝らすと、目の前に二つの美しい山がそびえ立っていた。
「なんじゃ!このマウンテンは!」美穂は驚愕の表情で飛び起きる。
同じベッドの上に、タンクトップ姿の美しい少女が眠っている。美しいマウンテンは少女の胸であった。タンクトップから今にも零れ落ちそうな勢いであった。
「ナ、ナオミ!どうしてここにいるの?」眠るナオミの横で、さきほどの可愛いフェレットが美穂を見ていた。
『チーン』
下の部屋から、仏壇の鐘を鳴らすような音が聞こえた。その鐘の音を聞いた美穂は、ナオミの上を跳び越してドアを開けた。
彼女は目の前にある階段を勢い良く駆け下り、一階の和室の襖を開ける。
仏壇の前で正座をして手を合わせる少女の姿があった。
「騒がしいぞ、美穂。ごめんな・・・・・・晶子」そう言うと仏壇の前の少女フタバは深々と母の遺影に頭を下げた。仏壇には、美穂の父と母が微笑む遺影が飾られていた。フタバはその写真を見ながら泣いている。
「な、なにをしているのですか?」美穂は震えながらフタバを指差した。
「おう、美穂!おはよう。まさか自分の遺影と位牌を見れる日がくるとは思わなかったよ」フタバは涙を拭くと
爽やかに朝の挨拶をした。
「うっ・・・・・・」美穂が呆然とフタバを見ていると、台所から美味しそうな匂いがしてきた。
「えっ、お味噌汁?」美穂は、リビングに駆け込む。
「おはようございます、お姉ちゃん!」ミコトとイツキがリビングのダイニングテーブルの椅子に腰掛けている。
「おはようございます」美穂はお辞儀をした。テーブルの上には、美穂の箸が置かれていた。
「でも少し遅くてよ。美穂さん」エプロン姿のシオリが居た。その立ち振る舞いは、まるで美しい新妻のような姿であった。
「じゃなくて!!皆さん、どうしてここに居るのですか?!確か姿を消すって・・・・・・」美穂は驚きのあまり頭が混乱した。
「あぁ、おはようございまーす」タンクトップにショートパンツ姿のナオミがリビングに入ってきた。
ナオミは大きな欠伸をしながら、ミコト達と同じように椅子に腰掛けた。その足元には、相変わらず黄色いフィレットが寄り添っている。
「ナオミまで・・・・・・!皆さん何故?」
「だって、私達行く所無いしぃ、よく考えてみたら、ここ私の家だしぃ、皆で話し合った結果、ここを拠点にしようかって話になったの」ナオミは両手の人差し指をコンパスのように目の前で合わせた。
「それに、ここは俺の買った家だしな」フタバもリビングに姿を現した。
「それは、そうだけど・・・・・・」美穂は少し納得のいかない様子でナオミの足元のフェレットに目をやった。
「ところで、その子は一体何なの?」美穂が指さしながら言うと、フェレットはナオミの体を駆け上り頭の上に乗った。
「ああ、この子?この子は一騎よ、一騎!」ナオミは頭の上のフェレットの頭を撫でた。フェレットは気持ちよさそうに目を細めた。
「えー!」美穂は驚いて大きな声を発した。
「一騎は元々、自由自在に姿を変えられるのよ。マッスル・ウェア以外の時は、こういう動物のほうが目立たないと思って変身させたのよ。可愛いいでしょ」ナオミはフェレットを抱きしめる。
「一騎は、完全にナオミちゃんとシンクロしたから、もう前みたいに暴走する心配はないねん。まあ、あの時逆に一騎に支配されていたらナオミちゃんが、今の一騎みたいに服従することになってんけどな。ほんまはヒヤヒヤ物やってんで!」ムツミは朝のアニメ番組を見ながら言った。
「へー・・・・・・」美穂はもう一度、フェレットを見た。とても、あの一騎とは似ても似つかない可愛い姿であった。
「さっきナオミさんが言ったけれども、私達、当分の間はやることがないので、この家でお世話になることにしたのヨロシクね!美穂さん」シオリは作った朝食をテーブルに並べると美穂に座るように合図した。
「・・・・・・したのってシオリさん!」美穂は椅子に腰掛けると、シオリの作った味噌汁を一口飲んだ。
「美味しい・・・・・・!」今まで食べた味噌汁の中で間違いなく最高の味であった。続けて、焼き魚を食す。やはりこれも病みつきになる美味しさであった。
「でも・・・・・・」たしかに彼女達とは涙のお別れをしたはずであった。
「私達、学校から消えるとは言ったけど、居なくなるとは言っていないわよ!それとも美穂は、私達のことが嫌いなの?」ナオミが両拳を口の辺りに当てて、ぶりっ子のような仕草をする。
皆の視線が美穂に集中する。ミコトの目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「そんな事・・・・・・そんな事ありません!私は皆さんのことが大好きです!」
「やった!」
「お姉ちゃん!ありがとう!」ムツミ達が歓声を上げる。シオリは味噌汁のお替りを美穂の前に差し出した。
(はっ、謀られた!)正直、美穂はそう感じた。
美穂は体をプルプルと小刻みに震わせた。
「ありがとう!美穂。これからもヨロシクね!」ナオミは美穂に抱きついた。そして、左手でガッツポーズを取りながら小さな声で「ヨッシ!」と呟いた。
皆が美穂とナオミを見て微笑んでいる。
「なんじゃこりゃ~!私の涙を返せ~!!」美穂の絶叫がリビングに響いた。
( おわり )
吼えろ!バーニング・エンジェルズ!! 上条 樹 @kamijyoitsuki
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