ホワイトデー

たに。

ホワイトデー

 ベットの上で、先輩と私は肌を重ねる。恋人ならごく自然の事だ。そして今日はホワイトデー。お返しがきっとある。と思い、相手の身体に従う。

 先輩は、私を軽々と持ち上げ、長く深いキスをする。頭の中が先輩で充たされている。時に乱暴に時に優しく。それが堪らなく好きだ。幸せ。

 こんなこと言うのは良くないけど、最初、大学のサークルで先輩を見た時は、先輩の事は好きじゃなかった。タイプじゃないと言うのが正解なのかな?ただの友達か、それ以下としか考えてなかった。けれど、側にいてくれると助かるし、私が彼氏に暴力を受けている事に気づいて、助けに来てくれたことが、付き合うきっかけだった。

 そんな決して顔がカッコイイ人ではない先輩。不安なこともある。いつか、先輩はいなくなるじゃないかと。そりゃあ人間なんだし、いつかは死ぬ。そんな事じゃなくて、捨てられるんじゃないかって思ってしまう。私は、幸せなのに苦しくて、泣き出したくて、それでもただ先輩の身体に従うしか出来ない。

 必死に人の言葉を喋る。「先輩は私の事好きですか?」「先輩は私の事愛してますか?」「先輩は、先輩は」

 先輩からは『好き』と言うニ文字は返って来なかった。私が、聞こえなかっただけだろうか。

 お互い疲れて寝てしまい。起きた時は、もう次の日の朝だった。先輩はもうベットの上にはいなかった。先輩からは、お返しはなかった。まあ、勝手に手作りして渡したチョコレートなんだし、見返りを求めるのは間違いかも知れない。けど、期待ハズレだった。って思ってた。私が起きると、先輩はまだ家にいた。そして、申し訳なさそうに「昨日の事なんだけど」と話始めた。「ホワイトデーのお返しなんだけど、これじゃダメかな?」と、オシャレな紙袋から、大事そうに何かを取り出す。「目瞑って」先輩がそう言った。私はそれに従った。「いいよ」開けると、小さな箱を私の前に突き出し、開ける。「ここで心の準備が出来た」泣き出しそうになる。いや、泣いていたと思う。「俺と結婚して下さい」シンプルだ。今まで多くの人間が口にしたであろう言葉ベスト一位なんじゃないか?それは無いか。続けて先輩は「これからは、彼女としてではなく妻として俺を支えてくれ。そして俺も君を支える」

 これで私の返事で全てが決まる。どう答えるか悩まなかった。「はい」以外になかった。彼は嬉しそうに飛び跳ねたり、叫んだりしている。子どもみたいで可愛い。「けど、私『君』って名前じゃないから!ちゃんと名前を呼んで?』「わかった。春夏。あなたの事が好きで好きで仕方がない」「私もだよ。海斗」バレンタインのお返しが何億倍にも返ってきた。

━━━━━━その後、彼とは結婚した。

 結婚して10年後、彼が交通事故でこの世を去るのは、また別の話。

 いつか来るそんな日より、今この瞬間が私達の幸せなんだ。

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