第19話 合同特訓
アイシャ達に加えてリリアとメイベルの指導も行う事を決めた俺は、日が傾く頃に賢者の塔へ戻った。
座学を終えたアイシャ達も夕食を摂りに一階に降りてきたか。
……ん? ルシアンの俺を見る眼差しがキラキラしているのはなぜだろう?
「賢者様からお聞きしました!先生は半世紀前に魔王を討伐した「名もなき勇者」のお孫さんだったんですね!」
ああ、そういう事か。目を輝かせるルシアンの後ろでは、レイが懸命に笑いをこらえている。俺が「名もなき勇者本人」である事を知ってるんだから、そりゃ可笑しいよな。
「ファルケンハイン師、話してしまったのか?」
ここは爺さんの嘘に合わせておこう。中級メンターと大賢者がなぜ知己なのかの答えになっているし、いずれ話す事になる魔王討伐の理由付けとしても自然だ。
「うむ。アイシャ君達に疑問を持たせたまま修行をさせるのは、よろしくないと思うてな。皆、この事は決して他言してはならぬぞ?」
爺さんの言葉に頷く一同。若い頃は生真面目な魔術師だった爺さんだが、宮廷生活で腹芸を覚えたようだ。年の功で老練さを身に付けただけかもしれんが……
「それからな、この塔に滞在している間、リリアとメイベルという冒険者見習いに指導を行う事にした。」
「リリア、メイベル……女の子ですか?」
アイシャ、なんで怖い目で睨むんだ。おまえ達の指導をおろそかにはしないぞ。
「女の子だ。リリアは戦士、メイベルは魔術師、アイシャとリリアは腕前が近いから、模擬戦の相手に丁度いい。ファルケンハイン師、手間が増えるがメイベルにも魔術を指導してやってくれ。」
「わかった。その二人はドラグモット卿のお仲間かの?」
「そうだ。」
「賢者様、ドラグモット卿とは、あのドルーク・ドラグモット卿の事ですか!?」
冷静なレイが素で驚いた顔をしている。そんなに高名な男だったのか。
「レイはドルさんを知っているのか?」
「先生は知らないんですか? ドルーク・ドラグモット卿はドラガニア屈指の騎士、いえ、世界に勇名を馳せた
ドルさんは俺が眠ってる間に活躍していた騎士だったらしい。
「なるほど。ま、ドルさんの話はさておきだ。少し予定を変更する。B級冒険者になれるところまでここで鍛えるつもりだったが、上方修正しよう。B級上位かA級に匹敵する実力を身に付けるまで滞在を延ばす。中層階のモンスターに無傷で勝てるようになったら、特訓終了だ。」
「「「はいっ!」」」 「ニャ!」
中層階には深層階から上がってきたモンスターが出没する事がある。気の早い心配だが、中層階の攻略には俺がついて行った方がいいな。
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こうして二組のパーティーによる合同特訓は始まった。修行に励む若者達を横目に、老年と壮年と中年ならぬ中級メンターはチェスを指したり、賭けカードで遊んだりだ。
たまに交代で稽古をつけてみたりしたが、ドルさんは世界に名を馳せた竜騎士というだけあって、相当な手練れだった。アイシャ、リリア、ルル、ルシアンが総掛かりでも、軽くいなしてみせる。底まで見せてはいないがその実力はS級、もしかするとSS級にも届いているかもしれんな……
地下ダンジョンにアタック、地上で模擬戦、塔の中では座学、そんな日々を送る若者達はメキメキと腕を上げてゆく。
友情も芽生えつつあるようだ。アイシャとリリアは特に仲良くなった。時折なにやら牽制し合ってるのは気に掛かるが……
人見知りのメイベルも、同年代のアイシャやルルとは打ち解けたようだし、そろそろ地下三階に降りる許可を出してもいいかもな。ドルさんか俺が付いていれば、死ぬような事はあるまい。
合同パーティーが特訓を始めてから一ヶ月ほど過ぎた夜に、指導役三人で相談してみた。その結果、明日から地下三階の攻略を開始させる事が決定。ここからが本番、何が起こるかわからない迷宮探索の始まりだ。
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アイシャ達にリリア、メイベルが加わった合同パーティーは、緊張した面持ちで地下三階への階段を下ってゆく。
腕を上げ、人数が増えた事もあって、地下三階のモンスターもなんとか倒せているようだ。リリアはルシアンがいる以上、石化の邪視を使えない。地下迷宮に多くいる、ゴーレム系のモンスターには通じないとはいえ、魔法生物には通じる切り札だ。本来なら使わせたいところだが、ルシアンは半魔と知れば態度を硬直させるだろう。レイの話では、ルシアンは故郷の村を魔族に襲われ、たった一人、生き残った少年だったらしい。
……これは、絶対に俺やリリアの正体を悟らせる訳にはいかない。今は未熟だが、成長したらリリアの正体には気付くかもしれん。偽名を名乗る事によって、魔王の力に封印をかけている俺の正体には、よほど腕を上げない限りは気付かない筈だが……
……問題ない。どのみち、アイシャ達がA級冒険者になれば、お別れだ。冒険者時代に見つけた
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迷宮から無事に帰ってきた冒険者達は、自発的に反省会を始めた。レイとメイベルは戦利品の鑑定方法について議論を交わし、アイシャとリリアは剣術について話し合っている。
「メイベル、このアイテムは図鑑に載っているコレではないでしょうか?」
「……少し形状が違う。そ、それから……」
「なんですか?」
「……メ、メイでいい……」
おお、あの人見知りが頑張っている!赤くなった顔が、ヴェールで隠れててよかったな。おっと、ムクれ顔の猫娘が割って入ったぞ。
「うニャ!二人とも距離が近すぎなのニャ!」
いやいや、
「先生、どうしてニヤニヤ笑ってるんですか!」
「ん? 頑張れ、レイ。先生は生暖かく見守っているからな!」
「なぜ、
なんでここでフィオが出て来る。
「よしっ!剣術のおさらいはここまでにして、晩ご飯を作ろっ!今夜は先生の好物、ビーフシチューを作りますね!」
木剣を壁に掛けたアイシャが、腕まくりした。
「アイシャちゃん、ビーフシチューなら私が作りますぅ。アムルさんの好みは私の方がよく知っていますから!」
「そんな事ないよ!それに私、ビーフシチューは得意料理だから!リリアちゃんより美味しいもん!」
「む~、負けませんから!いざ尋常に勝負ですぅ!」
おいおい、勝負するのは剣術だけにしてくれよ。
「レイ、なんだその、意味ありげな目は?」
「先生、"人の振り見て我が振り直せ"と言いますよね?」
10も離れた小娘に懸想するほど未熟じゃない!俺は
……待てよ? 数千年は生きてる魔王が、20を過ぎたばかりの女魔術師に一目惚れした例があったな。
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